10話【魔女とゴーレム娘の二人旅。そして、第一異世界人を発見する】
元ダンジョン前を整地して、そこで数日を過ごす。
アースノイドという種族になったテトの装備を創造したり、自分の装備や能力確認だ。
ちなみにダンジョンを攻略した時、私のステータスは、こんな感じだ。
魔女(転生者)
Lv37
体力420/420
魔力2810/2810
スキル【杖術Lv1】【原初魔法Lv3】その他、色々……
ユニークスキル【創造魔法】
普段使うのは、こんなところだろう。
その他にもダンジョンマッピングで得た【製図】スキルや、敵への【警戒】、罠の存在に気付く【感知】などのスキルもあるが、それは追々。
それとより詳しいステータスは、鑑定のモノクルでは分からないようだ。
あと名前が、魔女になってるし、種族が転生者である。
誰かに見られたら厄介でしかない。
そう言えば、私の名前は、なんて付ければいいのだろう。
「テト、また旅の戦闘お願いね」
「分かったのです。魔女様!」
そう言って、私とテトは、人里を探して歩いていく。
先頭に立つテトは、藪なども剣で斬り払い道を作ってくれる。
それに土精霊と融合したためか、地面に手を当てると、大地の様子が分かるようだ。
「魔女様、魔女様! あっちの方に水気を感じるのです!」
「教えてくれてありがとう。もし川があるなら下っていけば、人里に辿り着くかもね」
そう言って私たちは、水気のある方向に向かっている。
そして、水気のある場所には他の生物も集まりやすいのか、草食動物やそれを食べる魔物などとの遭遇率が上がる。
「ダンジョン以外にオークが居るのね。――《ウィンド・カッター》!」
「ふぇぇぇっ! 魔女様! なんか、オークたち、気持ち悪いのです。なんか、ギラギラしているのです!」
そりゃ以前までは、女に見えるのは私しかいなかったが、アースノイドとなったテトは、立派なロリ巨乳な美少女だ。
そんな美少女がオークと対峙すれば、下半身直結魔物はそういう目で見るだろう。
だが、テトは私の仲間だ。
そんないかがわしい目で見たオークは、脳と下半身が直結できないように首を次々と切り落としていく。
そして森の中でオークの血の臭いが広がっていく。
「さぁ、テト。オークの魔石を取ったらまた進もう」
「はい、魔女様!」
そうして私たちは少しずつ進み、夕暮れ前には川辺に辿り着く。
「さて、ここら辺で休みましょう。今日はそうね。カレーでも食べたいわね」
「わーい。カレーってあのパンに入ってるのですか。カレー大好きなのです!」
私の創造魔法で創り出したカレーパンが気に入ってるテトに、今日の夕食はレトルトカレーを振る舞うことにする。
今までは私一人が創造で創り出した食事を食べていたが、テトが味覚を獲得し、食べたものを体内で腐敗と分解して、土に変えて自身の体の一部とすることもできるので、二人で食事するようになった。
食事は一人より二人で食べる方が、美味しい。
何より魔石以外に口にする物が増えたテトの表情を見ていると楽しい。
「それじゃあ結界張ってご飯にしましょう」
不意打ちを防ぐ結界を張り、土魔法が使えるテトと協力して川辺を整地して、テントを張り、ご飯の準備を進める。
今日は飯盒でご飯を炊いて、ご飯ができたらレトルトカレーをお湯で温める。
更に、ポットで温めたお湯でインスタントスープも作り、栄養バランスを考えて、生野菜サラダと牛乳を創造して完成である。
「さぁ、食べましょう」
「わーい。カレーです。粒々のご飯に掛かったカレーなのです!」
人ではないテトは、満腹を感じないので、幾らでも食べられる。
だが、欲しいのは味覚による満足感だけなので、食べる量は私に合わせてくれる。
そう、沢山食べれば、きっとこの12歳のツルペタな私の胸もテトくらいには……
「うん? 魔女様? どうしました?」
「ううん。なんでもないわ、食べようか」
そうして私たちが暗くなり始める前に夕飯を食べ始めた頃――
ガサガサと何かが接近してくる音に私とテトが警戒を強める。
そして、暗い森の中から複数の人影が駆け込んでくる。
「っ!? こんなところに女の子! あんたらも逃げろ、早く!」
私たちの前に現れたのは、怪我人に肩を貸して走る人たちだ。
革鎧や武器などを持つその人たちは血や土に塗れ、その後ろからは人型の豚魔物であるオークが10体迫ってくる。
それも脂肪ではなく筋肉質で肌も少し色黒なオークが率いるオークの集団の中には、あの警戒すべきオーク・ウィザードも混ざっている。
「テト! 行きなさい!」
「はい、魔女様!」
すぐさま、自身の武器を手に取り、駆け出すテト。
ゴーレムとしての高い身体能力でこちらに逃げてくる人を飛び越え、先頭の色黒なオークの頭を一刀のもとに叩き割り、絶命させる。
「――《ウィンド・カッター》!」
続けてオークウィザードの首を優先的に切り落とし、更にその周囲のオークを3体倒す。
ゆっくりと後ろに倒れて、斬り飛ばした首の断面から血の噴水を上げるが、こちらからは見えない。
魔物を倒す時の血の臭いや臓物には慣れてきているが、流石に食事中にそんなのがあると食欲も失せてくる。
そして、テトが更に一体のオークを撲殺し、数が半数になったところでオークが逃げ始める。
「魔女様! テト、あの魔物を倒したのです!」
「偉いよ、テト。魔石だけ取って戻ってきて」
「はいです!」
魔物が現れたのに、瞬く間に倒し、呑気に会話する女の子二人に現れた冒険者たちは唖然としている。
「助かった。俺は、冒険者をしているライルだ」
自己紹介をした冒険者に対して私は、警戒するように距離を取る。
そして、テトが戻ってくるまで現れた冒険者たちを観察する。
男二人に女性一人の三人組の冒険者だ。そして肩を借りている怪我人は、男性の方だ。
私たちを見て、逃げろ、と言ったからには善良な人なのかもしれない。
だが、ファンタジー世界にない物を創造できる能力を持つ者だと知られたら、どんな善良な人でも態度を豹変する可能性はある。
だから、私は警戒して、現れた冒険者らしき三人組を見つめる。
「嬢ちゃん、そう警戒しないでくれ。俺たちは、ただ魔物から逃げてきただけだ。それと少し隣を借りたい」
「そうね。怪我人もいることだし、整地してあるから寝かせた方がいいわね」
私が警戒しながら話すと、三人組の冒険者の中で怪我をして肩を借りて寝かされる男性が苦しそうに唸り声を上げる。
どうやら最低限の武器以外は、追われる時に捨てたのか、上着を地面に敷いている。
そんな彼らを距離を取って見つめる私のもとに、オークの血に塗れた魔石を持ったテトが戻ってくる。
「魔女様! 魔石取ってきたのです」
「ありがとう。それじゃあ――《クリーン》。はい、これで綺麗になった」
返り血を浴びたテトと魔石を水魔法で洗浄すると、テトは綺麗になった魔石を嬉しそうにポーチにしまう。
元々持っていたマジックバッグはテトの魔石保管用として渡してあるのだ。
そして、一段落着いたところで、私とテトに冒険者たちのリーダーが話しかけてくる。
「先程は、オーク共を押し付けるようなことをして済まなかった。更に、こんな不躾なお願いをするのは申し訳ない! 魔法使いだと見込んで頼みたい。弟の怪我を治す回復魔法か! 回復魔法が使えないならポーションを頂けないだろうか! ちゃんと金は払う」
ライルと言う冒険者とその隣にいる女性の冒険者も私に懇願してくる。
「……治療なんて、知識だけでしたことがないけど、いい?」
「頼む、頼れるのは、あんただけだ」
私は、二人に退いてもらい、テトに周囲を警戒してもらいながら、鑑定のモノクルで傷ついた男性を見る。
(見た目ほど傷も深くないし、血も出てない? けど、オークの武器に毒でも塗られてたのかな?)
私は、内心そう呟く。
酷いように見えてべっとりと付いている血は、オークとの戦闘の返り血のようだ。
つまり、彼らの実力は、オーク単体か数体程度なら勝てるが10体ほど襲われると危険なくらいの強さだろうか。
私は、すぐに治療に関する【原初魔法】を使っていく。
「――《ヒール》《アンチドーテ》!」
まずは傷口を塞ぎ、続いて毒を浄化する。
「ついでに体も汚れてるわね。――《クリーン》」
傷は、綺麗に治り、血や汚れなどを魔法で消す。
ただ、失血しているために顔色は、青いままだ。
「これで終わったわ。ただ、出血してたからしばらく安静にした方がいいわ。それから、食べ物は……なさそうね」
「すまん。追われる時に全部捨てた。川を渡って匂いを消して奴らから逃げようとしたんだ」
「ちょっと待ってもらえる?」
私は、一度テントの中に入り、【創造魔法】で食べ物を生み出す。
フランスパンのような硬めのパンと、パリッとした歯ごたえで茹でても焼いても美味しいソーセージだ。
それらを調理用のナイフで軽く切り、ソーセージはフライパンに移して運ぶ。
「テト。簡単なテーブルを作って」
「わかったのです。むむむっ、たぁ!」
ズンと地面から岩石のテーブルが生まれて、そこに布を敷いてフランスパンとソーセージ入りのフライパンを置く。
そして、ふとさっきまで傷ついていた男性が震えていることに気付き、自分の使っている毛布の予備をライルと言う冒険者に渡す。
「食べ物と寝具はあげる。私はもう寝るから、後は任せるわ」
これでようやく寝られる。
流石に12歳の体で森を歩きっぱなしは疲れる。
彼らは、あの上位種らしきオークから逃げ出す程度の冒険者だ。
もし寝ている時に彼らが襲ってきても、テトならすぐに倒してくれる。
SIDE:冒険者三人組
「う、ううっ……ここは」
「おっ、ジョン、起きたのか!」
「兄貴、俺は……」
弟のジョンが目を覚ました。
まだ本調子ではないが、体をペタペタと触り、傷がないことを確かめている。
「俺は、確かにオーク共に切られたはず」
「あなたは、偶然会った魔法使いの女の子に助けてもらったの」
同じパーティーを組む弓使いのアンナが焚火でパンを焼き、ソーセージを焦げないように転がしている。
「魔法使いの女の子?」
ジョンが不思議そうに見れば、一枚の上等な毛布を体に掛けられ、アンナが指差した上等なテントを見る。
そして、テントの前で膝を抱えるようにして不寝番をしているテトと呼ばれる剣士の少女を見る。
「あの子が?」
「いや、テントの中でお休みの12歳くらいの女の子だ。追い掛けてきたオーク共を魔法で蹴散らして、お前の治療をして、食べ物とその毛布を分けてくれたんだ」
「でも、そんな小さい子がなんでこんな場所に……それにオークを蹴散らすほどの手練れだって?」
気絶していたために訝しげな弟のジョン。
どう見たって訳ありであり、森の中を突っ切る女の子の二人旅など到底信じられない。
だが、上等な道具や柔らかなパンと香辛料の利いた腸詰め、そして育ちの良さそうな魔法使いの少女とそれを守る剣士の少女を見て、あることを思う。
「ムバド帝国の政変の噂は、聞いたことあるよな」
「ええ、確か山向こうの帝国で起きた王様の交代劇よね」
ジョンに焼いたパンと腸詰めを渡すアンナが頷く。
俺たちの住む辺境の町・ダリルの更に山向こうに、ムバド帝国と呼ばれる国がある。
そこでは、皇太子派と皇弟派が争っていた。
それが、最終的に皇弟が皇帝となり、皇太子派閥の粛清を始めていたのだ。
「きっと、その政変から逃れるために山を越えてきた貴族の子女なんじゃないか?」
「そう……かもね。それなら、無謀な旅にも理由がつく。それに帝国の貴族には魔法教育がされているって言うし、貴族令嬢と彼女に付き従う女騎士なのかも……」
食料も見た目以上に持っていることを考えると、稀少なマジックバッグも持ち出して、祖国を追われて山越えしてきたのだろう。
そんなマジックバッグに入れた食べ物を、俺たちみたいな見ず知らずに振る舞う人の良さと警戒心の薄さから、元々守られる立場に居たのだろう。
そう考えると、そんな状況の女の子に助けを求めた自分たちの不甲斐なさを感じる。
「そう言えば、兄貴。俺に対する治療費や食べ物に対する対価は……」
「何も言ってなかった。だが、お前は心配するな。ちゃんと払う」
それよりも大事なのは、俺たちの今受けている依頼だ。
あの嬢ちゃんたちが倒した魔物は、オーク・ウォーリアーとオーク・ウィザードだ。
だが、俺たちが奴らに追われる前、更に上位種のオーク・ナイトと遭遇し、一体だけなんとか倒した。
その戦闘の際に、オークの集落ができており、他にもオーク・ナイトやウォーリアー、ウィザードの上位種が集落を守っており、その中心にはオークキングや無数のオークが確認できた。
今回の偵察依頼で得た情報を町に持ち帰り、すぐに討伐隊を編成しなければならない。
それがCランクパーティー【風に乗る鷹】の役目だ。
魔女とその下僕のテトのことをいい方向で勘違いしている冒険者たちは、力を温存するために同じように早々に休むのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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