26話【改めて休暇のために港町へ】
【虚無の荒野】への一時帰宅を終えた私とテトは、当初の予定である観光のために海辺を目指して冒険者ギルドのある町々に立ち寄っていく。
そうした町々の貯め込んだ不人気依頼を受けながら、ちょっとずつ海を目指した。
町中の雑務依頼や近くの農家で発生した害獣の駆除、それから特に薬草採取などを行い、町の名産や歴史などを聞いたりする日々。
そして、ゆっくりとした歩みで海を目指した私たちは、河川を下って港町の入口前に並ぶ。
ただ、いつも使っている【空飛ぶ絨毯】で門の近くまで進んだために、衛兵たちが不審に思って私たちのところまでやってきた。
「そこのお前ら! 何者だ!」
「この町に海の幸を食べに来た冒険者よ」
「エビやカニ、焼き魚とか美味しい海の幸を食べるのです!」
「う、海の幸を食べに来た? 冒険者? とりあえず……ギルドカードを見せてくれ」
港町を守る衛兵の人たちが訝しげに私とテトを見る。
十数年ほど前までは、Aランク冒険者になったと言ってもまだ10代に見える二人組の少女の冒険者だ。
魔物と切った張ったを繰り返す冒険者のイメージからかけ離れているために、度々町の入口で止められることがあった。
そして今回もギルドカードとパーティー名を見せれば、大体は解決する。
「Aランク!? それに【空飛ぶ絨毯】!? あの有名な!」
私たちが先程まで移動に使っていた絨毯と私たちを見比べて、怪しんでいた態度から姿勢を正す。
「そんな高名な冒険者がこの町に来ていただき、ありがとうございます!」
「おりょ? 魔女様やテトのことを知っているのですか?」
「もちろんです! ガルド獣人国で有名な【空飛ぶ絨毯】のパーティーの話は、この国にも伝わっております! つい先日も、この国で賞金首の盗賊を捕まえた話は伝わっております!」
そう言って、敬礼するほどに姿勢を正す衛兵の姿に苦笑を浮かべてしまう。
どうやら、私たちがゆっくりと小さな村や町の雑務依頼などを受けながら進んでいる間に、私たちの情報が先に届いたらしい。
大きな町にすぐに伝わるということは、やっぱりアリムちゃんたちが住む廃坑の町は、重要な情報の伝達経路から外れているようだ。
「それでは、こちらにどうぞ!」
「いえ、別に緊急ではないからこのままゆっくりと列に並んで待たせてもらうわ」
「魔女様と一緒に待っているのです!」
Aランク冒険者は、貴族に準じた立場が保障される。
ただ、それは緊急性のある依頼を受ける際に、貴族が使う通用口などを利用できるようにするための身分保障のために、急ぎでもないために一般の冒険者列に混じって待っている。
「は、はぁ、そうですか」
怪しいと感じた私たちへの疑いも晴れて、渋々戻っていく衛兵に苦笑を浮かべながら、待つ。
町を出入りしている人の表情は、明るく、血色もいい。
内陸は、地脈の魔力をマザーが吸い上げていたために不作傾向にあったが、沿岸付近は、漁業で取れる食べ物もあり、不作の影響も無さそうだ。
そうして順番がやってきて町中に入ることができた私とテトは、冒険者ギルドに向かう。
「ようこそ、パーティー【空飛ぶ絨毯】。俺がこのギルドのギルドマスターのドグルだ」
私たちを待っていたのか、身長が2メートルを超す筋骨隆々な男性だ。
腕は、灰褐色の鱗に覆われ、地面に擦れるほど長い尻尾、地の肌は日焼けして浅黒く、頭部には二本の角が生えていた。
人と竜の両方の特徴を持つ人種――ドラゴニュートである。
「初めまして【空飛ぶ絨毯】のチセよ。そして、相棒の――」
「剣士のテトなのです!」
そう言って元気よく手を上げるテトに、ドラゴニュートのギルマスは、私たちを応接室に案内する。
Aランク冒険者になると、何かと守秘義務が発生する依頼を受けることがあるために、案内してくれるようだ。
「さて、【空飛ぶ絨毯】の二人は、何の用でこの町に来たんだ? 必要なら俺も協力するが?」
そう言って問い掛けてくるドルグだが、私とテトは、首を傾げる。
「衛兵から話は伝わってない? 海の幸を食べに来たのよ。それと王都の方に観光に行くつもりよ」
「協力してくれるなら、美味しいお魚が食べられるお店を教えてほしいのです!」
私とテトがそう言うが、はぁ? といった感じの顔になるギルマス。
「いやいや、ガルド獣人国で有名な冒険者が隣国まで足を延ばしたんだから、何か目的があったんだろ?」
「目的と言うか、知り合いからのちょっとしたお願いでローバイルまで来たけど、それも終わったから本来の目的で休暇しつつ魚介類を食べに来ただけだったわね」
「それに目的もなくフラフラ旅の予定なのです!」
そう言って、ほぼ旅行気分で立ち寄ったことを伝えると、ギルマスは深い溜息を吐き出す。
「マジかぁ。まぁ、内陸のガルド獣人国側からしたら新鮮な海の幸は、旅してまで来る価値があるんだろうな……」
そう言って、私たちの予想外の話に長身の男が空を仰いで脱力する。
「まぁ、しばらくは滞在するから、手が空いたらギルドで溜まりがちな不人気依頼は処理するわ。得意なのは薬草採取よ」
「雑務依頼って楽しいのです。お婆ちゃんたちの買い物のお手伝いするとオマケが貰えるのです!」
「薬草採取が得意で、買い物の手伝いとかの雑務依頼を好むAランクかぁ。お前ら、ある意味凄いな」
ギルマスは、私とテトの言葉に苦笑を浮かべる。
冒険者は、ランクが上がれば上がるほど、依頼の割が良くなるために初期に受けた薬草採取や雑務依頼は軽視される。
また、高位の冒険者がランクの低い依頼を受けることは、冒険者の価値を貶めるので快く思われない場合がある。
その結果、気位が高くなるなどと言われるが、私たちの場合は――
「別に生活やお金に困ってないし、そもそも私たちに合うAランクの依頼が殆どないのよね」
「だから、魔女様とテトは、冒険者にもギルドにも配慮して残りがちな依頼だけを選んでいるのです! シャカイホーシってやつなのです!」
「なるほど……【空飛ぶ絨毯】の話は分かった。なら、こっちから残りがちな依頼を用意しておくから時間がある時に頼む。それと王都方面に移動するなら、船舶の護衛依頼がないか探しておこう」
その後、ギルドマスターから受付嬢に案内が引き継がれ、町でオススメの宿や借りられる家などを聞いた。
最近では、宿は高く付くので、借家に【転移門】を設置して就寝は【虚無の荒野】まで戻る方が便利であるために、借家を借りるのだった。
本日、魔力チートな魔女になりました1巻がGCノベルズ様より発売されました。
発売日ですが宣伝告知として、スクウェア・エニックス様のガンガンONLINEでのコミカライズが決定しました。
作画は、春原シン様が担当してくださるそうで、可愛らしいチセとテトのやり取りがコミックで見られるのを作者も非常に楽しみにしております。
ぜひとも原作小説のみならず、コミカライズの方も楽しみにしていただけたらと思います。