25話【女神の使徒】
夢の中――いつもの神託で女神と出会うあの空間に居るのに気付いた。
夢見の神託でリリエルに出会ったら、廃坑の町についてお礼を言おうとしたのに。
ラリエルに出会ったなら、一言文句でも言おうと思っていた。
『あたたたたっ! ちょ、いたたたたたっ!』
『あなた、私が、私が転生させて見守っていたチセにお願いした挙げ句、アフターケアも無しって、どういうことよ!』
だが、辿り着いたあの空間では、思いがけぬ光景を見せられた。
それに隣には、何故かテトも一緒に並んで不思議そうに首を傾げている。
「ああ、コレは夢ね。いつもの夢見の神託じゃないわね」
「魔女様? ラリエル様? が知らない女性に締められているのですよ」
「テト、アレは、女神リリエルよ。って、夢のテトに言っても仕方ないのかな?」
リリエルは、姉のラリエルにコブラツイストを掛けている姿だった。
『ちょ、助けて! 助けてくれ! チセ、テト!』
『ラリエルが原因でしょうが! あなたは、昔から考え無しで! 尻拭いは私がして!』
更にプロレス技をしながら体重を掛けるリリエルに私たちは、唖然とする。
途中でラリエルが力尽きたのを見たリリエルが解放し、姿勢を正して私たちと向き合う。
『ようこそ、チセ。そして、初めましてテト。私は、リリエル。チセをこの世界に転生させた女神です』
にこやかに挨拶するが、復活して息も絶え絶えのラリエルの姿を見ると、やっぱり夢ではないか、と思う。
「ああ、これは夢ね。テトもいるし」
『夢ではありませんよ。チセとテトは、そこの馬鹿姉のラリエルが頼んだ依頼を達成したのに、その結果が心に傷を負わせかねない未来なのに事後処理もしないので締め上げていました。それと、二人が私の使徒になったために、こうして招くことができました』
まさか、夢じゃないとは……と驚く私は、テトを見ると小首を傾げている。
「えっ、それじゃあ、そもそも使徒ってなに?」
『使徒は、神の使い。神が地上に直接影響を及ぼすことを制限されているので、その代わりに影響を及ぼしてくれる人物です。そこの馬鹿姉が不完全なお願いをした結果、残った枯れ掛けた大地に二人が大量の魔力と祈りを捧げてくれたので認定できました』
だから、二人にラリエルのお願いを聞かせるのは嫌だったのだ、中途半端なことしか伝えずに最善の状況にできないのが分かっていたから……とブツブツと呟き、呪詛を吐きまくっている。
その間に、ゆっくりと起き上がるラリエルは、全く悪びれた様子も無く、話に加わる。
『まぁ、使徒認定なんて、深く考えなくてもいいさ。ただ、神託を与えてくれた神様の声が聞こえやすくなるだけ……信仰心に厚い人間なら、泣いて喜ぶだろうけど、あたしたちにとっては友達認定と同じなんだから……』
『まぁ、使徒認定ってのも強い切っ掛けがないと与えられないので、その点では良かったですけどね』
ラリエルが考えなしの結果、私の祈りがリリエルに伝わり、恵みの雨の奇跡が起きて私とテトがリリエルの使徒になったようだ。
それにしても――
「わーい、新しい友達ができたのです!」
「使徒が友達って軽いわね……」
ラリエルの物言いにテトは素直に喜ぶが、私は苦笑を浮かべる。
『まさか、チセは私と友達が嫌なの?』
「いいえ、リリエルと友達、って感覚よりも同志って感じなのよね」
【虚無の荒野】の森林も増えつつあり、動物を放ち、生態系の構築など、個人的に好きでやっていることだ。
そんな【虚無の荒野】の再生を共に見守り、荒涼とした寂しい大地より緑豊かな森を作り出そうとする同志、そんな感じであることを伝える。
『うう、チセェェェェェッ! ありがとぉぉぉぉっ!』
そう言って、私に抱き付いてくるリリエル。
最初は、無機質な女神だったのだが、話をすると知的ながらも苦労していることが多いのでついつい、支えてあげたくなる。
「よしよし、頑張っていることを知っているわよ」
「話は聞いているのです。大変だったのです……」
『ありがとぉぉぉっ!』
女神だけど本気で今まで溜め込んだものを吐き出すように泣き始めるリリエル。
その話の殆どは、森林ができて、小動物を放ち、地脈の再生が始まったことへの感謝だった。
だけど、私としても感謝である。
リリエルが廃坑の町で恵みの雨の奇跡を起こしてくれたから、大地は枯れずに私たちに良くしてくれた町の人々の生活を守ることができた。
そして、ある程度落ち着いたリリエルと色々な悩みを抱えるリリエルの不満を聞いて視線を逸らすラリエル。
『そもそも、そもそも! ラリエルが前に呼んだ転生者が、あの廃坑の山に住み着いていた魔物を倒した後、ミスリルやオリハルコンが発見されて廃坑探索が始まったのに! 自分の転生者が原因での問題だったのに! なんで私のチセたちに解決を頼むのよぉぉっ!』
『だって、仕方がないだろ! 300年前に転生させた時は、こんなことになるとは思わなかったし!』
『それに! 討伐した後の後処理も雑よ! いくら自分が太陽神だからって、少しは大地のことも考えなさいよ! 地脈の魔力が抜かれた後の影響も考えなさいよ! 全部、私が尻拭いをするのよ!』
そんな裏事情を聞きながら、私は若干ラリエルに冷ややかな目を向け、テトは、相槌を打つようにリリエルの背中を摩っている。
そして、最後に――
『今日、チセの地脈制御用魔導具で僅かに地脈を回復してくれてありがとう。本当はもっと格式張った感じでやりたかったけど、――チセ、テト。あなたたち二人を地母神・リリエルの使徒と認めます。今後ともよろしくお願いね』
『それと妹神の使徒は、あたしの友達ってことで今後ともヨロシクな!』
若干泣き腫れた目元をしながらもそう宣言するリリエル。
そして、ちゃっかりと私たちを友達宣言するラリエルの言葉を聞いて、私とテトは、夢から目覚める。
「なんか、凄いことになったわね。女神の使徒か……」
私が目が覚めた後、リリエルたちを奉る教会でも建てる必要があるか、と考え、その日は旅の再開ではなく、リリエルたち五大神を奉る教会を屋敷から少し離れた場所に【創造魔法】で建てた。
その建物の中には、リリエルとラリエルの女神像を創り出して小さく祈ることにした。
魔力チートな魔女になりました1巻は、GCノベルズ様より12月26日発売となります。
イラストレーターは、てつぶた様が担当し、とても可愛らしくも大人びたチセが表紙を飾っております。
書店購入特典には――
ゲーマーズ様より、SSペーパー
虎の穴様より、SSイラストカード
TSUTAYA様より、SSイラストカード
メロンブックス様より、SSイラストカード
――以上の書店で配布予定となっております。
また書籍のアンケートにお答え頂くと書き下ろしSSを読むことができます。
ぜひ、よろしくお願いします。