20話【盗賊捕縛の事後処理】
子どもたちを助け出した私たちは、危険な夜でも空を飛んで町まで帰る。
「うわぁぁっ、凄い、凄い!」「チセちゃん、凄い魔法使いだったんだ!」「空を飛んでる!」
空飛ぶ絨毯に乗った私とテトは、子どもたちを乗せた馬車と盗賊たちを捕まえた檻を浮かせて、町に戻る。
空を飛んでいると言っても高さ数メートルで速さも子どもたちが怖がらないスピードだ。
途中、子どもたちのために食事や休憩などを挟み、途中で疲れて寝てしまった子どもたちを乗せて夜明けの頃に町に戻ってくることができた。
「なんだ、あれは!」「空飛ぶ絨毯と馬車!? 行く時は箒だったのに!?」「それより、子どもたちだ!」
馬車の外の騒がしさに気付き、目を覚ます子どもたちが町に戻ってきたことに気付き、馬車から身を乗り出して大きく手を振っている。
「お父さん! お母さん!」
「「――アリム!」」
次々と自分の家族の元に走っていく攫われた子どもたちを見る一方、町の纏め役をやっている町長のドワーフの老人がやってくる。
「ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか……」
「子どもたちを守るのは、大人の務めだからね。気にしないでください」
12歳で体の成長が止まってしまった私に言われて、なんとも困ったような表情を浮かべる町長だが、そんな彼を気にせずに今後の話をする。
「それより奪われた魔剣のことなんですが……」
そう言って、マジックバッグから浄化して折れた魔剣を取り出すとドワーフの町長が目を見開く。
「人の生気を吸い取る危険な魔剣だったので、勝手に浄化しました。許可も取らず、すみませんでした」
「……これは強さに囚われた名工――わしの祖父が己の血と命を捧げて作り上げた呪われた魔剣じゃ。今まで何度も浄化しようと教会の聖職者を派遣してもらったが、誰一人浄化を成功させることができなかった。むしろ、感謝しております」
そう言って、折れた魔剣の柄を持ち、町長がそう呟く。
しばらく、沈黙して魔剣に対して心の整理がついたところで、改めて捕まえた盗賊の処遇について尋ねる。
「捕まえた盗賊に関してですが、どのような話し合いになっていますか?」
「夜明けと共に、町の若い者が馬に乗って近くに他の町に助けを呼びに行く予定でした」
一応、元鉱山の町ではあるが、廃坑になり村のような規模になっている。
駐在する騎士なども居らず、盗賊たちを捕らえておく牢屋もなく、適切に裁くこともできない。
それに、これだけの規模の盗賊たちを養う余裕もない。
何より――
「おらっ! てめぇら! よくも俺たちの町を襲ってくれたな!」「出てきやがれ! 俺が殺してやる!」「全員、この町を襲ったことを後悔させてやる!」
血気盛んな自警団たちが盗賊たちを捕らえた檻に鞘に入った剣や槍の柄、蹴りを入れている。
一応、あの程度じゃ檻は壊れないが、このまま目の前に置いておくと、感情に走った自警団が私刑を行いそうだし、それに抵抗した盗賊からの反撃に遭いそうだ。
「私がこのまま近くの町まで運んで騎士団に盗賊たちを引き渡してきます。なので、騎士団とも円滑に話を進められる人物を出してくれますか?」
「わかったわい。チセ様たちが盗賊を連れていくから案内で一緒に付いていってくれ!」
纏め役の町長の息子と自警団の隊長の二人のドワーフが私たちに同行してくれる。
子どもたちを乗せていた馬車に二人を乗せて、帰る時と同じように、日の出と共に盗賊たちを連れて他の町に向けて出発する。
そこからは、軽く説明しよう。
他の町に辿り着いたのが、午後の三時頃だろう。
そこそこ人の出入りが大きな町で不審な浮遊物があるために町を守る騎士たちがやってくる。
事情説明して、町中に入り、盗賊たちを引き渡す。
また、盗賊たちを【罪業判定の宝玉】で罪を確かめると共に私たちも確認され、詳しい事情聴取などを行う。
最後に、完全な引き渡しと盗賊の捕縛に掛かる懸賞金。
また、私が両腕を切り落とした盗賊は、ローバイル王国とガルド獣人国での人攫いと近年の不作で食い詰めた農民たちを扇動していた賞金首だったらしく、その懸賞金を受け取った時には、既に夜になっていた。
「流石に……昨日の夜から寝ずに動いていたから疲れたわね」
「なのですね。どこか宿に泊まって明日帰るのです」
一日中、働き詰めだったので流石に疲れた。
眠気で目がしばしばする。
「すまねぇな。俺たちの町のことなのに、全部任せちまって……」
そんな私に謝る纏め役の息子と自警団の隊長だが、私は全部やっていない。
「二人が居てくれて良かったわ。話がスムーズに済んだからね」
Aランクパーティーの【空飛ぶ絨毯】としての知名度と実績はある。
だが、私たちの容姿からそれらが一致せずに確認で手間取ることも多いのだ。
そこで廃坑の町の信頼できる人間が同行し、状況を説明してくれたことで、私たちの素性とは関係なく、とりあえず盗賊の処理をスムーズに進めることができた。
「それじゃあ、美味しいご飯を食べて、明日帰りましょう」
「廃坑の探索の続きもしないといけないのです!」
そうして、宿を取った私たちは、明日町に帰ろうと計画した。
だが、この町のギルドマスターに私たちの存在が伝わり、面会に1日。
更に、他国で有名なAランク冒険者が訪れたことを聞いた町を管理する領主との面会で1日。
更に、更に、ラリエルやリリエルたちを奉る五大神教会の神父様に、私たちの滞在が知られて面会で1日。
合計三日、足止めされることになった。
「はぁ、やっと帰ることができた……」
「疲れたのです。宿の美味しいご飯が恋しいのです!」
町を出た私たちは、空飛ぶ絨毯と馬車に乗ってぼやく。
私たちに巻き込まれて思わぬ滞在を延長した纏め役の息子と自警団の隊長は、私たちの都合で滞在を延長させてしまった。
「チセ様とテト様、すごい人だったんだな」
「洞窟に入る物好きな子たちかと思っていたが、思った以上の大物だった」
すっかり町にふらりと訪れた物好きな冒険者から、Aランク冒険者の二人組と凄さが伝わってしまった。
そんな彼らは、私たちの都合で振り回してしまったので、町のためにドッサリとお土産を馬車に詰めて、帰っている。
そうして、思わぬ人攫い騒動を解決した私たちは、探索日数を空けてしまったが、再び廃坑探索に戻るのだった。
魔力チートな魔女になりました1巻は、GCノベルズ様より12月26日発売となります。
イラストレーターは、てつぶた様が担当し、とても可愛らしくも大人びたチセが表紙を飾っております。
書店購入特典には――
ゲーマーズ様より、SSペーパー
虎の穴様より、SSイラストカード
TSUTAYA様より、SSイラストカード
メロンブックス様より、SSイラストカード
――以上の書店で配布予定となっております。
また書籍のアンケートにお答え頂くと書き下ろしSSを読むことができます。
ぜひ、よろしくお願いします。