9話【ダンジョン攻略しました。ところであなたは誰?】
目が覚めると太陽の下で横になっていた。
テントを敷く時に使うアルミシートの上に寝かされていた私は、ゆっくりと体を起こす。
ダンジョンを攻略した後は、ダンジョンの外に転移させられるようだ。背後を振り返れば、ダンジョンのあった小山から入口が消滅している。
「テトが運んでくれたのかな」
アルミシートと毛布を掛けられて寝ていた状況からそう判断できるが、肝心のテトがいない。
「まぁ、周囲の警戒に出てるのかな? とりあえず、何か食べよう」
マジックバッグから【創造魔法】で作り置き(?)しておいたお茶を取り出して、飲んで落ち着く。
ちなみにお茶は、アフタヌーンで有名な紅茶シリーズのミルクティーである。
砂糖たっぷりで甘めなのだが、底に乳脂肪分が沈殿するので、よく振ってから飲む。
そして落ち着いたところで、私のいる場所に何かが近づいてくるのを感じ、反射的に傍に置かれた杖を掲げて、魔法を使えるように待機する。
すると一人の全裸の女の子が私を見つけて、笑顔で駆け寄ってくる。
「あー、魔女様が起きたのですー!」
小麦色の肌と茶色の髪に、琥珀色の瞳。
17歳前後だろうが、雰囲気的にやや幼さを感じる少女が、たわわに実った胸部を揺らして私に近づいてくる。
「ちょ、全裸だよ! 全裸! それに誰!?」
「えっ……私のこと分からないのですか?」
目に涙を溜める健康的な美少女に困惑するが、その手には見覚えのあるものを持っていた。
重量だけ重く頑丈なナマクラな剣は、何かを撲殺した後なのか血が付着している。
「もしかして……テト!」
「うん、やっぱり魔女様、分かってくれたのです!」
「なぁー! だから、全裸だって!」
剣を投げ捨て、私を全身で抱き締めてくれるテト。
クレイゴーレムのはずだが、ほんのりと温かく抱き締められた胸が柔らかく感じる。
なんだか、癒やされるのを感じて、ハッとする。
「ふ、服! 服を着させなきゃ! ――《クリエイション》!」
私は、とりあえず、創造魔法でテトの衣服を創り出す。
上下に飾りっ気の少ない下着とシャツ、そしてズボンを創り出した。
「魔女様? これなんなのですか?」
「服だよ! 全裸は禁止! 絶対にこれを着て!」
「えー、今までは良かったのです……」
「クレイゴーレムの不定形な形と、ちゃんとした人型じゃ違うの! お願い!」
私がお願いと言うか、命令をすると渋々身に着けようとするが、初めての経験であるために、上手く身に着けることができない。
なので私がテトの着替えを手伝うのだが、その際にパンツを履かせるためにしゃがんで見たのだが――
(……無毛、だと)
ロリ巨乳な美少女で無毛な無知っ子など、激しく属性を盛っている気がする。
「大丈夫。まだこれから成長する。まだ成長する」
「うーん。魔女様? どうしたのですか? 胸が苦しいのですか?」
服を着せたテトは、不思議そうに服の胸辺りを掴む私を不思議そうに見つめる。
「心配ないよ。それよりテトは、どうしてその姿になったのかな?」
「うーん、と。岩のゴーレムさんを倒して、核を食べた後、ダンジョンの核を食べたのです。そしたら、ダンジョンの核に精霊さんが居たのです。その子と一緒になったら、こうなったのです」
「ダンジョンコアの精霊……」
囚われの精霊から魔力を生み出し、抽出して稼働していたのかもしれない。
「それってテトが取り込んだ精霊は、どうなったの? テトの意識は、クレイゴーレムのもの? それとも精霊のもの?」
「うーん。精霊さんは、ダンジョンの核の中で魔力を吸われ続けて、自分がないのです。それにテトは、テトなのです」
屈託ない笑みを浮かべるテトだが、私は、現在の状況を考察する。
「自我が崩壊した精霊の力を取り込んだ、ってところかな? その際に精霊の姿がゴーレムの体に影響を与えたのかな? テト、ちょっと確かめたいことがあるけど、いいかな?」
「うん! いいのです、魔女様!」
私は、ダンジョンで見つけた鑑定のモノクルでテトを見る。
【テト(アースノイド)】
ゴーレム核の魔力6590/12000
スキル【剣術Lv2】【盾術Lv2】【土魔法Lv3】【怪力Lv1】【魔力回復Lv1】【従属強化Lv1】
テトには、相変わらずゴーレムの核が存在し、それが体力と魔力量を合わせたような感じだろう。
それに精霊としての魔力回復能力もあるのでジワジワと魔力がチャージされていくし、様々なスキルが強化されているようだ。
「テト、新しい種族になってるよ。ゴーレムからアースノイドだって」
「そーなのですかー」
あんまり分かっていない感じのテトの様子に私は、苦笑を浮かべる。
「テト、おいで。ストーン・ゴーレム戦でよく頑張ったね。魔力をチャージしてあげる」
「わーい。魔女様の魔力、好きなのですー!」
魔力に好きも嫌いもあるのだろうか、と思いながら、自身の魔力の多くをテトに送り込んでいくと、あー、と温泉に入ったように気持ち良さそうにする。
そして、チャージが終わって離れたテトは、とても元気いっぱいだった。
そこでふと気が付く。
「そう言えば、テト? あなたに渡した剣や盾ってどこにあるの?」
「うん? ここにあるのです!」
そう言ってテトは、クレイゴーレムの時と同じように体の内側から取り出してみせる。
その際、人間っぽかった体の一部が粘土質な物に変わり、内側から膨れる質量に、衣服が破けて、大自然の前にそのたわわな果実を晒すのだった。
「体内に収納できることは分かったよ。だけど、服は破かないようにね」
私は、自身のマントを外してテトに羽織らせる。
私が普段着ているマントに包まるのが嬉しいのか、とてもニコニコしている。
一応【原初魔法】の水と光の浄化で汗や汚れなどは落としているのだが、匂いは残っているのだろうか。
どこかお風呂でも入りたい。
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