第五話 山伏の弟子
ここは霊山の中腹あたり、険しい山に入り修行に励む山伏たちの領域。
途中の山道は獣も通らないようながれきにまみれていて油断すると滑落は免れない。
儂は決して足を踏み外さぬよう慎重に山道を下りながら昨日までの修行の日々を思い返す。
毎年のことであるからして厳しい修行とはいえ滅多なことは起きないのであるがして……。
「それがまさかこんなことになるとは」
儂は山伏である師匠(80歳)につきそい、この山でもう何年も修行をしているプロの弟子である。
いや、弟子であったという表現が正しかろう。つい先日、破門になってしまったのだ。
地面から立ち上った土煙が目に染みる。滲んだ涙を乱暴に拭った。
事の発端は滝行祭りのことだ。年に一度、近隣の山伏が一堂に会して開かれる滝行の祭典がある。
師匠が滝行の途中、「唇の乾燥がひどい」というので儂が代わりにリップを買いに麓の町へ走った。
たどり着いたのは寂しい農村だった。どこを探してもリップを売っているような店など見あたらない。
困り果てた儂は似たような形をしたルージュを買って帰ることにした。
何年も放置されていたかの如く埃をかぶったそれに違和感を感じていたのは事実だ。だが急いでいたのだ。
急ぎ山へ戻り、師匠の乾いた唇に塗ったルージュを見てハッとした。かわいいラメ入りキャンディピンクだった。
違和感は確信に変わった。ぷるるんキュートな唇の師匠(80歳)が滝に打たれている姿はそれだけの説得力を持っていた。
――あ、これじゃない。