謎と謎
アーシェとリリィの二人組は、草原を北へと向かって、荒地に出た。
その荒地の中央辺りに、遺跡があるというのだ。
遺跡といえば眠りし秘宝。
「間違いない情報だよ。私が最初にいた村人からある隠された方法で聞き出したのだよ……」
「最初の村の情報があてになるかな」
「隠された情報だと言ったろう? 期待してくれていい。その遺跡の奥には、旅を楽にしてくれる秘宝が隠されているのだよ」
「隠された情報って……どうやって、聞き出したの?」
「いろいろさ。面倒だから割愛」
「……そう。ところで、燃料が遺跡につくまで持てばいいんだけど」
「燃料が尽きたら、徒歩でいくことになるだろう」
「燃料を盗んだ方が早いよ」
「盗むと! 君は懲りない人なんだね!」
「まあね。バレたら魔法の出番だよ」
「あれは森だからうまくいった奇襲だったんだがね」
「そっか……。じゃ、ばれないように上手くやるよ」
「やっぱり君は、直感で動くタイプだねえ、あはははははは」
「うるさい」
二人はそんな会話を交わしながら、荒地の南に村を見つけた。
自警団が歩いている村の中を、コートマシンを降りて、堂々と入り、堂々と歩いた。
そして燃料の保管されているであろう建物に目星をつけた。保管庫と書いてあるので実にわかりやすいものだった。ピッキングをして鍵を開けてから、ステルスで身を隠しつつ、アーシェは保管庫内に侵入した。
燃料を見つけるとそれを入手し、隠し、急いで保管庫から出る。
そこで、大きな声をかけられる。
「そこの君、盗んでいるな! 見つけたぞ、報酬はいただきだ!」
報酬? どういうことなのか理解する前に身体が動いていた。鋭い敏捷性を活かして一瞬で相手の背後を取ろうと動く。だが、相手は距離を置いた。背後は取れなかった。
「僕は銃で敵を仕留める! おとなしく降参するなら、撃たないでおいてあげるよ、ははは!」
「報酬って、なに」
「報酬は報酬だよ。村の人からもらえるんだ。盗人を捕まえれば一万ポイント。序盤にしてはおいしいミッションさ」
ひとりで、得意気な顔で男は笑っていた。
「あのさ……悪いけど。こっちは二人だから」
笑っている男の背後を別の存在がすでに捉えていた。リリィである。リリィの持っている杖が、男の背中を押した。男は、ひきつった微笑みを浮かべた。それは敗北の微笑みではない。勝利を確信しての微笑みだった。
「こっちは、五人さ!」
背後の茂みからがさごそと音がして、男が四人飛び出してきた。
二対五。あまりにも、不利だ。
「コートマシンに乗り込むよ!」
「火の玉をお見舞いしてやろう!」
二人は急いで身を翻し、コートマシンが動いても大丈夫な広いところまで走った。そして、二人はコートマシンを召喚し、そして乗り込んだ。じつにゲームらしい部分である。
「相手もコートマシンを出してくると思うけど、負ける訳にはいかない。たとえ数で不利だって、こんなところで躓いてたら、財宝なんて手に入らない!」
「わかっている。相手が雑魚だといいんだが、そう簡単にはいかないだろうね」
「やってやる!」
アーシェは意気込んでコートマシンのナイフを両手に構えた。
勝ち目は薄い。
逃げた方がいいかもしれなかった。リリィは冷静にそう分析した。
だが、退くこともできない。
仲間である相方が、こんなに意気込んでいるのだ。放って逃げるなんてこと、するはずもない。リリィも、臨戦態勢を取った。
そして敵の五機が姿を現した。五機のコートマシンが、それぞれタイプの違うものらしかった。
そしてその瞬間だった。
声。
それは声である。
コートマシンの通信に割り込んでくる声。それは五機が発するものでもなければ、アーシェやリリィの発した声でもなかった。
その声は、同じことだけを繰り返す単純なものだった。だが、その言葉は凶暴だった。
じつに簡単な言葉であるそれが、繰り返し通信として流れた。
それは、「殺ス……、壊ス……」、とだけ、いっていた。
その声の主は、五機の背後から迫ってきていた。
どんどんその声は大きくなっていった。殺ス、壊ス、とだけ繰り返すそれは、一定のリズムで繰り返されていた。男たちの五機は、慌てて背後にそれがいると気がつき、振り向いた、が、まるでそれでは遅かった。一瞬の殺戮。
――ぎゃあああああああああ。
五機が炎に包まれた。そして、真っ二つに裂けてしまった。
あまりに早すぎて、目で捕らえるのでやっとのことだった。
男たちの断末魔と、その魔神から発される声が、重なって響いた。
次の標的は誰なのか。考えるまでもないことだ。
次は、私たちだ。
アーシェはそう悟ったし、リリィだってそれはわかった。
殺ス……壊ス……。
その声を発しているのは、どうやらそれもコートマシンではあるらしかった。だがそのコートマシンは紫色のオーラのようなものをその身に纏っており、さらに剣を構えているがそれも気のような、いや、邪気のようなもの、を纏っていた。
「あれは倒せばポイントになりそう」
「火の玉を試してみるべきか、悩むところだね?」
「無駄だよ。ここで、私たちも終わりだ」
勝てる理由が見当たらない。やられる気しかしない。だが、ただでやられるだなんて、ごめんだ!
「一撃、食らわしてやる」
アーシェはナイフを構えて、機体を走らせた。そして、ステルスを展開すると同時にすばやく背後へと回り込もうとした。
そうしようと思っていたはずなのに、次の瞬間には、自分が背後を取られていた。
「はっ……?」
アーシェは思わず半笑いを浮かべてしまった。それほどにどうしようもない状況がそこにある。だからもう助からない。終わった、今すぐ切られてゲームオーバーだ。こいつを倒せばどれほどのポイントが手に入っただろう。ポイントを使ってコートマシンを強化して、私自身のスキルも上げて、どんどん強くなって……。
剣が、背後から振り下ろされる。
遮るものは何もない。
だが、アーシェのコートマシンは、斬られなかった。
アーシェが状況を理解したと同時に機体を急いで反転させてリリィにも合図を送り、二人共逃走に入った。逃げる隙が生まれていた。何者かによる射撃。それが敵のコートマシンの腕を貫いたおかげで、剣が上手く振り下ろされなかった。さらに射撃は続き、敵の両足を貫いていた。だから追ってこられることはなかった。射撃というより、狙撃。
アーシェとリリィは、安堵のため息をついた。まるで二人とも示し合わせたかのような同時のため息だった。それほどに緊張していたのだ。
とにかく、二人は謎の狙撃のおかげで、助けられたのだった。




