アーシェとリリィ
「私はいわば魔法使いと言ったところでね。様々な魔法を初期の状態から覚えている」
森から抜け出た後の草原で、彼女はまず自己紹介をした。
長い金髪で、赤い両眼。颯爽とした身のこなしで彼女のコートマシンから降りてきて、自分はリリィだと名乗った。リリィという名にそぐう、凛とした姿だった。
自警団を撒くことができたのは彼女の魔法のおかげだった。だから、アーシェはその点に関してはありがたかったと思ってはいるが、いろいろと合点のいかない感覚があったため、素直に感謝の気持ちを表せずにいた。とりあえずアーシェも自己紹介として自分の名を名乗り、盗賊としてのスキルに長けたコートマシンに乗っている、自らも盗賊に長けたキャラクターだ、と言った。
リリィは薄く微笑んだまま、
「で、どうなんだい」
と唐突に訪ねてきた。アーシェは気味が悪いと思った。
最初に言われた言葉を思い出す。
「ああ……。仲間にならないか、って?」
「君の腕を見込んでだよ」
「自警団相手にドジ踏んでる私を?」
思い返すと情けないことだとアーシェは感じた。先が思いやられる話だ、と。
「君の盗賊としてのスキル、操縦技術、その二つを魅力的だと感じたのだよ。それと、」
「それと?」
「勘だね」
「勘?」
「私は直感を大事にするタイプでね。君に、魅力を感じてしまったんだ」
「直感って……」
「君だって直感で動くタイプじゃないのかい? 少なくとも、計画性の高い行動を行う人物とは思えないね。あんな盗みを働いて、あげく追い掛け回されるようなタイプに、計画性もへったくれもあったものじゃない。君は、私と似ている」
「じゃあ、あなたも盗みを働くんですか?」
「それは愚策だよ。自警団には、ポイントがないからね」
「あなたも財宝を目指しているんですよね?」
「まあ仲間が多いとその分取り分も減ってしまうとはわかっているよ。だが、ひとりではこの世界の攻略は難しいと実感しているのも事実だ。先ほどのような魔法も、必ずしも有効な魔法とは言えないしね。さっきは森だったから、その効果がてきめんだったというだけだしさ。……まあ、財宝は目指しているよ。仲間は、君も含めたら、三人がいいと思っている。それなら財宝は三等分さ。私は、それでも十分だと思っている」
「ポイントが減るよ。三人だったら、三等分。そんなんで財宝を見つけられると思う?」
「だが、そうすることで出来ることも増えていく。ポイントが足りないと思ったら、あとでチームを解散すればいい」
「私は盗人だから、優秀な武器だって盗んでから去っていくとは思わないの?」
「信頼できるかどうかは、その立ち振る舞いを見ればわかる。君は、信頼できると思う。私から何か盗もうとしたなら、その時は私が魔法でお前を焼き払うよ。焼死さ。それだけでいい」
「こわいね」
「そんなことはない。さあ、どうする。組まないなら、ここでお別れだ。組むなら、貴重な情報を教えてあげよう。私と組んで損はさせない。アーシェ、君の力が必要なんだ!」
(貴重な情報は欲しいな。そこに向かってから別れてもいいか……)
打算を考えたアーシェは、赤のオッドアイを輝かせた。
アーシェは左目が黒眼、右目が赤眼だ。そういう設定を自分で登録した。
それが自分の中二病のような気がふとして、居心地が急に悪くなったので、慌ててコートマシンに乗り込んで、リリィと通信を繋いだ。
「じゃあ、情報がどれほどのものか、みせてよ」
「ふむ、いいだろう」