はじまりのニルス・オーラヴ
操縦桿を握り締めたまま、どれくらいの時間が流れただろう。
逃げ続けること一時間程度だろうか。
コートマシンの燃料が何時切れてしまうのかはわからない。なんにせよ、このコートマシンが停止してしまったら、一貫の終わりだ。NPCに捕まり、投獄されてしまうのだろうか。NPCに捕まったものがどうなるのかよくルールを知らない。
自警団のNPCは何機で編隊してくるのかわからない。追い掛けてきているのは間違いないが、盗賊のスキルに長けたコートマシンといえど、敵の情報を逃げながら掴むことはできない。
盗みなどしなければよかった。
コートマシンのバッテリーを盗んだのは、その必要があったからだ。
ガス欠でゲームオーバーだなんてダサすぎる。
まあ盗みを働くことは正解ではなかったかもしれない。
だがせっかく盗みの性能に長けたキャラクターとしてゲームをしているのだ。盗みを働いて何が悪いというのだろう。わからない話だ。バレなければいいだけの話なのだが、正直、ゲームの序盤ということで、簡単だとばかり…‥、つまり油断していたのだ。
だが確実に逃げ切ってみせる。バッテリーのおかげで機体は軽やかに進んでくれる。
コートマシンの操縦も慣れてきた。
盗賊のスキルを持ったコートマシンなので敏捷性もなかなかのものだ。自分自身の盗賊としてのスキルも合わさって、無改造、のこのコートマシンといえども自警団何かに捕まったりなんてしない。
そんなことを考えていたこのパイロット、アーシェは、深呼吸をした。
(いけるはず。このまま、飛ばす)
身を隠すステルスを展開する。そして、飛翔する。
森の中を走っていた機体を青空に浮かばせることで、索敵もついでにしてみせようとした。
追いかけてくる数は五機だとわかった。
アーシェは飛んでいた機体が地上に落ちるまでの間に敵の数を把握してみせた。まだゲームを始めたばかりの初心者としては、それは実に筋の良いことだった。
「追いつかれるか」
敵は迷いなく直進してきていた。その速度は俊敏はなずのアーシェよりもさらに早いようだった。おそらく地の利が働いていた。アーシェは森の木々に足を取られながら走行していたが、自警団にはおそらくそれがないのだ。
追いつかれるのであれば、戦闘になる。
アーシェはナイフをコートマシンの両腰から取り出し、両手に持たせて構えた。
盗賊風情にどこまでできるか、わかったものじゃない。
だがやるしかない。
「手加減してね!」
コンピューターが手加減してくれるはずはない。
それでもそう言わざるを得なかった。数があまりにも違いすぎて、手加減を請うしかなかった。
コートマシンを巨木に身を隠し、そして、息を潜める。
深呼吸をする。
耳を澄まし、音が近づいてきた瞬間に、ステルスを再度展開する。
自警団のコートマシンが巨木を通り過ぎた瞬間に、ナイフをあてがい、首元を掻っ切る。そして、すかさずコクピットの位置を貫く。
盗賊の本領発揮。一機、それだけで仕留めた。
だがそれまでだった。あっという間に、他のコートマシンに囲まれる。
四機がアーシェのことを取り囲む。逃げ場は失われていた。
アーシェは息をついてから、それでも諦めるつもりはなかった。
(財宝は私のものだ。隠された財宝一億円の価値、それを絶対に私が見つけると誓ったんだ。だからこのゲームにすべてを賭けてる。簡単には、負けられない!)
だが多勢に無勢である。
剣を構えたのが二機。残りの二機は杖を取り出していた。剣士タイプと魔法タイプの計四体。
アーシェは踊るような格好でナイフを振り回して抵抗した。その動きもやはりゲームを始めたばかりにしては華麗なものだったし、その舞踊は敵の布陣をわずかにだが乱した。
だがそれまでだった。
剣にナイフをはじかれてしまう。機体の動きをそれで止められてしまう。
「終わって……しまう……」
そう呟いた時のことだった。
頭上から魔法が降り注ぐ。その魔法は自警団の放ったものではないようだった。彼ら自身が唱えた魔法であれば、アーシエのコートマシンにそれは降りかかるだろう。だが、その魔法は自警団全員に降り注いだのだ。
火球の魔法が五つほど、天から落ちてきたのだ。
「勇敢なる盗人よ。私の仲間にならないかな?」
それが初めての出会いだった。