誓約
「Please give me two |coffees.」
「Got it.」
AIロボが45度のお辞儀をして厨房に戻って行く。30秒後にはコーヒーを持って戻ってくる。いつもと変わらない風景だ。
「ツカサも英語で話せばいいのに。」
「なかなか上達しなくてさ。永遠に話せないんじゃないかと最近不安に思うよ。」
「そんな事ないよ。もっと積極的に話せば上手くなるよ。自信持って。」
「ミナミはほんと前向きだな。そう言われたらなんか出来そうに思えるから不思議だよ。」
「何言ってんのよ。日本バレーボール界のスーパースターが英語如き出来なくちゃ、海外の猛者共にバカにされちゃうよ。」
「そらそうだけど。」
ツカサは出来たてのコーヒーを啜った。
「ミナミのフランス語ほんと上手だよな。他にも色々話せるみたいだし、その語学力を俺の為に使ってくれないかな。」
ツカサは真っ赤な顔してミナミの眼を見て気持ちを伝えた。
「いいわよ。」
ミナミも真面目な顔してツカサを見て伝えた。
「え。」
拍子抜けする程即答でツカサは少し戸惑った。
「私は良き妻としてツカサを海外で支えればいいのね。フランス語はもちろん、英語も話せるし中国語もそれなりに話せる。いい通訳にもなれるわ。でも、これプロポーズじゃないよね。プロポーズはもっとお洒落なお店か夜景が観えるところにしてよね。」
漫勉の笑顔を作ったかと思えば、一転して顔を曇らした。
「でも、もう少し待ってね。この間も言ったけど、まだ気持ちの整理がつかないの。」
そう言ってと、俯いてコーヒーを口に含んだ。
「前の彼氏の事か」ツカサはふーっと息を吐いた。
「そのことは、もう忘れろよ。ミナミが悪い訳じゃないんだから。相手が既婚者ってことミナミは知らなかったんだろ。相手は判っててやってたんだろうし。それに勝手に自殺したんだろう。しかも、別れた後なんだから知ったことか。」
「でも、やっぱり。相手の奥さんになんて言っていいか。今思えば、思い当たる節がいくつもあるのよね。家にも呼んでくれないし、会えるのはいつも短時間。急患だって言ってたのもほんとだったのかしら。そんな事にも気付かないなんて。奥さんは今でも私が原因で彼が亡くなったって思ってるだろうし。だからあんなメール・・・。」
「なんにも言う必要なんかないよ。自分の旦那の事棚に上げてあんな陰湿なメール送ってくるなんて信じられないし、ほっときゃいいさ。今度メール送ってきたら俺がガツンと言い返してやるから、ミナミは何も心配するな。」
「ありがとう。ツカサはほんと優しいね。」
ツカサは握った拳を照れくさそうにテーブルの下にしまった。
「ツカサのお陰で元気になったら甘い物食べたくなっちゃったな。」
「ガンガン食べちゃって。おーい店員さん、注文注文。」
ツカサがAIロボに大声で話しかけたが反応はない。
「ツカサ、追加注文はこの端末からだって。ほんと全然覚えないんだから。」
ミナミが楽しそうに笑った。「ごめんごめん」とツカサが照れながら頭を掻いた。
ミナミの笑顔を見てると自然とパワーが湧いてくる。どんな困難も2人なら乗り越えられる。バレーで頂点に上り詰めるにはこれからミナミが絶対必要だ。夢が叶ったその時はミナミを絶対に幸せにしてあげれる。俺と一緒になったことを後悔はさせない。
「この笑顔は自分が絶対守るんだ」左手小指につけた先月ミナミに渡したハート型ダイヤ付きペアリングに誓った。