直感
車を走らせて約1時間になる。高速道路は混雑する事もなく、スムーズに車を走らせる事が出来た。
2人でよく聴いてたJーPOPがFMから流れてくる。頭の中はツカサの事ばかり考えてしまう。
一緒に全国制覇した全小(全国小学校バレーボール大会)の事や、2人で行った北海道弾丸ツアーの事、女子風呂を覗いてこっ酷く顧問から怒られた事、バレー引退に最後まで反対してきたツカサが引退祝いの席を準備してくれて1番泣いてくれた事。
あの頃を懐かしみながら頬を伝う感情を我慢出来なかった。
自宅から車で東に走ると2時間程でツカサが住んでいるマンションに到着した。途中、サービスエリアで土産でも買って行こうかと思ったが、やめておくことにした。パンとコーヒーだけ購入し、トイレを済ませて足早にサービスエリアを出た。
「来るのは初めてだな。」
持ち出した年賀状の住所を確認しながら、ツカサのマンションを車内から確認する。引っ越ししていなければ住所は変わってない筈だ。
この辺りは都市開発の煽りで軒並み古い建物が潰されて更地になっており、似たような高級マンションが聳え立っていた。類似したマンションばかりでよくわからなかったので車を降りてマンションを探す事にした。
それらしきところに到着してマンションを見上げシンジは目を丸くした。想像していた高級マンションとは全く違い、本当にこのマンションか何度も年賀状を見直した。
そこには築50年はする小汚いマンションが聳え立っていた。管理員も居なければエレベーターもない。何分マンションを見つめただろう。我に返って部屋番号を確認する。幸いツカサの部屋は1階なのでさほど問題はない。
「お前もっと給料貰ってるだろ。」
返って来る筈はないが、横にツカサが居るかのように1人で喋り出した。
「最近独り言が多くなったなあ」と頭をかいた。聞いてもらう相手が居ないからなのか、歳を重ねたからなのか自分でも解らない。
玄関のベルを鳴らしたが案の定返答はない。携帯にも連絡を入れたが取る気配はない。
シンジは溜息を吐いたが、こうなることは薄々分かっていた。一欠片の期待を込めてマンションに来てみたが結果は予想通り。
どうしようかと考えながらツカサのLINEを眺めているとある事に気がついた。半年間音沙汰なかった画面に「既読」の文字があらわれた。
LINEを教えてくれたのもツカサだった。携帯はガラケー。基本「通話のみ」を見兼ねて、スマホに変えるのを勧めてきた。特に必要無かったが、ツカサの砲撃のような着信がLINEであれば少しはマシになるかと思えた。
しかし、この半年間はそのLINEすら打つ意味をもたなかった。
喜びなのか悔し泣きなのか判らない感情で目頭が熱くなった。と同時に「連絡よこせよ」と舌打ちをしていた。
すかさず「大丈夫か」とINEを打ってみた。相変わらず返信はなくすぐには既読にならなかった。
生きている確証は無いが、進展はあった。今日はこれ以上収穫は無いだろうと諦めて車に乗り込もうとした時、背後に気配を感じた。
見返してみると、そこには1人の美女が車の運転席からツカサのマンションを眺めていた。知り合いでは無いが、美女を見てるとシンジの心臓は疼きだした。なんだか解らないがシンジの細胞が美少女に声を掛けろと伝えてくる。なんの保証も無いが意を決めた。
「ツカサの彼女さんですか。」