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人魚に恋したモンキー  作者: shinpanzees
6/21

疑問

 

 蝉が喧しく鳴いていた8月の暑い夏




 最初に訪れたのは水景北小学校5年3組のクラスメートであるユウジとタツヤだった。額からしたたり落ちる汗を拭いもせず猛ダッシュで近づいてくる。


 ユウジはガキ大将の名がピッタリな体格と風貌。そして喧嘩も学年で1番。喧嘩で1度しか勝ったことが無いシンジは、隊長に従う二等兵のように命令に従っていた。悪い奴ではなかったが、ユウジの強烈なキャラクターが自分と被り受け入れられなかった。


 タツヤはユウジに付き纏うコバンザメ。いつもユウジのご機嫌をとっていた。弱いくせにユウジという権力を武器に何かと偉そぶってくる。なぜかシンジが子分扱いだ。


 そんな2人も今日ばかりは目頭が赤くなっていた。ユウジの手にはいつも自慢してたNYのユニホーム。タツヤの手にはフェラーリのラジコン。


「これやるよ。」

 ユウジからNYユニホームが渡された。餞別品だった。


  「向こうでも頑張れよ・・・。」

  堪えきれず泣いてしまったのはタツヤだった。


 フェラーリをタツヤから受け取ると、母がマンションの3階から降りてきた。2人にお返しのプレゼントを渡し2人を抱きしめて、


  「これからもずっと友達でいてあげてね。」

  と笑顔で言った。


 2人は母から貰ったプレゼントを大事そうに抱えながら帰っていった。


 次に訪れたのが初恋の相手チカだった。1人では恥ずかしかったのか、友達を数人連れていた。


 チカとは小学1年生の時に同じクラスで、他の男子が呼ばれない誕生日会に呼ばれ両思いと自惚れていた。色々理由はあるが恋は実らなかった。今はチカがシンジに片想いだが好きな人がいるからと断った。


「これ後で読んでね。」

 可愛らしい便箋をシンジに渡した。


「うん、ありがとう。元気でね。」


 涙を流し友達に慰めながらチカが帰って行く。


 トラックが到着して1時間が過ぎた。3階から次々と荷物が運ばれていく。昨日から母がテキパキと引越しの支度をしてくれたお陰で順調に作業は進んでいる。


「ツカサちゃん来ないわね。マンションに行ってみたら。」

 そう言って母がプレゼントを渡してきた。


 マンションから歩いて数十メートルのところに、心友ツカサの家がある。億ションとも噂をされる豪華なマンション。小走りでツカサのマンションに向い、マンションエントランスのインターホンを鳴らした。


「あがってこいよ。」

 インターホンからツカサの声がする。


 玄関の扉を開けると、ツカサのお母さんが迎えてくれた。


「シンジくん、いらっしゃい。何時に出発。寂しくなるわね。大黒柱が居なくなったらチームも弱くなるね。」


「大丈夫だよおばさん、ツカサが居れば問題ないよ。」

 ツカサの母はニコッとしてキッチンに向い紅茶とお菓子を持ってツカサの部屋へ案内してくれた。


 部屋に案内されると、ツカサは「よく来たな」と笑顔で迎えてくれた。夏季バレーボール大会優勝時の話、恋話、新しく買って貰った自転車の話。昨日遊んだ時と全く代わり映えしない話であっというまに1時間が過ぎようとしていた。


 扉をコンコンとノックしてツカサの母が入ってきた。


「シンジくん、お母さんがそろそろ出発するから戻ってらっしゃいって。」


 それまで馬鹿騒ぎをしていた二人の手が止まり、すぐにツカサが笑ってこう言った。


「次会うときは、全小の決勝だな。ちゃんと練習しとけよ。お前のチームなんてけちょんけちょんにしてやるからな。」


「望むところだ。」


「ところでシンジ、最後にミナミとは会ったのか。」


「ん、ミナミ。誰。」


「ツカサ」横からツカサの母が話を遮ってきた。


「違うでしょ、名前なんだったっけ。ほら、髪の毛短い可愛らしい子。」


「おばさん、チカならさっき来てくれたよ。」


「そうそう、チカちゃん。最後に挨拶出来て良かったね。」


「おばさん、別に最後じゃ無いよ。またどっかで会えるよ。」


「そうね、何処かで会えるわね。あら、もうこんな時間。そろそろシンジくんとバイバイしなさい。」


「うん、わかった。じゃあなツカサ、またな。」


「おう、またな。」


  二人はクスリと笑った。


 マンションに戻ると、母がご近所さんに最後の挨拶を済ませトラックに乗り込もうとしていた。


「シンジお帰り。ツカサちゃんに挨拶出来た。」


「うん、出来たよ。母さん・・・、俺友達にミナミっていたっけ。」


「さあ、聞いた事無いわね。でも母さんがシンジのお友達全員知ってる訳じゃあ無いからわからないけど。」


「そうだよね、ごめん。今の忘れて。」


 慌ててトラックに乗り込むと、同時にトラックのエンジンがかかった。


 窓から映る住み慣れた風景がやけに愛おしかった。ふとツカサの言葉を思い出した。考えても思い出せないが少し胸が苦しくなった。「ミナミ」の名前が頭から離れず余韻には浸れなかった。

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