人魚
自動ドアが開くと無邪気に車椅子を全速力で漕ぐ美少女が現れた。
「ミナミ危ないわよ。」
母に注意されてもその笑顔に変わりはない。
「だって久々の外出だよ。3週間も入院してたんだからハシャギたくもなるわよ。」
「まったく。」
ミナミは18歳の高校生。
8年前、友達と待ち合わせ場所に向かってる途中に事故にあった。
奇跡的に軽症で只の骨折と診断されたが、骨折が完治しても歩ける兆しが無かった。細密検査をしても特に異常は見当たらないと医者に診断された。
「原因不明だね。本人の心の問題かもね。」
と匙を投げてしまった。
ミナミの母は「あの医者はヤブ医者だ」と他の病院を転々とするが、どんな名医が診ても結果は同じであった。だが母は諦める事無く、TVで紹介されていた病院にお世話になることを決めた。今回はここで診察を受ける為の精密検査入院。当初は1〜2週間の予定であったが、病院側から追加の検査を促された為、結果的に3週間費やした。
「退院祝い何がいい。それとも何か良い物食べにいく。」
母親が優しくミナミに話す。
「久々に思いっきり泳ぎたい。お腹空かせて焼肉いっぱい食べるんだ。」
満遍の笑みが母を苦しめた。
「焼肉ね。今日はママ奮発するわ。」
「やったぁ。特上ロース、特上カルビ。ダメだ考えただけでお腹空いてきちゃった。」
結局この病院でも、ミナミの足を完治させる治療方法は見つからなかった。