友情
熱いコーヒーを体内に注ぎ込む。時計を見て頭をかく。まだ頭の回転が正常に戻らない。
昨日は呑みすぎた。ツカサに煽られて調子に乗り過ぎたようだ。
映画館並みのスクリーンに映し出された朝のニュース番組をただ眺めていた。リビングの大きさは50畳はあるだろうか。男の癖に部屋は小綺麗で黒と白をベースにしたインテリアも数少なくその空間を邪魔しない。ツカサらしい構成だ。将来はこんな部屋も悪くないと頭に少し刺激を与えてみた。リビングに飽きて寝室に入るとキングサイズのベットが部屋中央を陣取っている。ただ眺めていると妙な違和感を覚えた。枕が二つあるのは不思議では無い。昨日、本人から彼女の話を聞いたのを思い出していたからだ。そんな物理的な違和感では無く視聴的な違和感だった。
「そうか。」一気に眠気が飛んで脳がフル回転し出した。
この部屋にはベット以外何もなかった。寝室だからそれでも不思議では無い。ただ欠陥だらけの昔の建築物ならまだしも最新のタワーマンションにはクローゼットくらいあっても不思議では無い。「もしかして」シンジは部屋の壁や床あらゆる所を触り出した。宝探しをしているかのように目が輝きだした。シンジにはそうゆうところがある。
小学校の頃ツカサの家に遊びに行った時もそうだ。女子に書いたラブレターを恥ずかしくてまだ渡せていないと聞かされ、なかなかそのラブレターを見せないものだから、ツカサがトイレに行っている間に勝手に部屋中を探し回って、ツカサが戻ってくる頃には大笑いしてラブレターを読んでいた。
「これだ。」
空間の少し歪んだ円状の所を軽く両手で擦ると壁から扉が現れた。静かに扉が開くと、シンジの住む部屋くらいの大きさの収納庫が現れた。
「金持ちは嫌だね。」
笑いながら収納庫へ入ったが中を見て冗談が言えなくなった。
大勢の美しい女性がシンジを一斉に見つめていた。辺りを見渡す限り、大中小100は超えているだろう。どこで撮ったのかわからないような特大のポスターから、証明写真に使うような小さな写真までそこにはあった。
シンジはあることに気づいた。そこにある全てがどれも同じ女性で、どの彼女もみんな笑顔だった。
「お前も熱いシャワー浴びてこい。生き返るぞ。」
先にシャワーを済ませたツカサが上半身裸でリビングに戻ってきた。シンジにはツカサの言葉が届かなかったようだ。
「二日酔いがキツそうだな。」
ツカサが笑って頭を乾かしているとようやくシンジが言葉を発した。
「ツカサ・・・。」
「何だよ。」
「聞いていいか。」
「だから何だよ。」
頭をバスタオルで乾かせながら面倒臭そうにツカサが言った。
「なんでお前の写真にミナミが写ってるんだ。」
「え。」
ツカサは不意を突かれた。「何の事だ」と誤魔化そうとしたがシンジの顔はずっと真剣だった。
「俺達付き合ってるんだ。だから彼女が一緒に写っててもおかしくないだろ。ミナミの事いつ思い出したんだ。黙ってるつもりはなかったんだ、いつ話そうかいつ話そうかタイミングをはかってたんだ。」
「付き合ってる。ミナミの事俺がどう思ってるか知ってるだろ。ツカサお前も昔から知ってるだろ。」
シンジは声を荒げた。
「何言ってんだシンジ。お前達もうとっくに別れてるじゃないか。そうか記憶喪失で覚えてないか。」
「何言ってんだ。俺はミナミと別れた覚えは無い。」
「お前こそ何を言ってるんだ。お前達が別れた後、寂しそうなミナミの側に居たのは俺だ。ミナミの事ずーっと守ってきたしこれからも俺が守る。何を今更偉そうに言ってんだ。」
「うるさい黙れ。 」
シンジは怒りのままツカサへ詰め寄った。