糸口
ダイビングショップの古びた木製扉は、長年営んできた年月を語っている。そこからシンジが出てきた。これで15件目になる。ツカサの行きそうな場所を片っ端から潰しているが、まだこれといった情報は何も得られていない。ミナミが待っている車の助手席に腰掛けて深く息を吐いた。
「その様子だと、駄目だったんですね。」
「すいません、一緒に行動してるのに傷心してしまって。」
「全然。ツカサが行きそうな場所はまだまだありますから、どんどん回りましょう。」
「お願いします。」
「ここからすぐのところに、祖父が所有するコテージがあるんです。いつもそこを拠点にして、ダイビングの練習をしてるんですよ。もしかしたら、そこに立ち寄ってるかもしれません。ツカサも合鍵を持っていますから。」
喉を潤したいのとリフレッシュしたかったのでミナミの祖父のコテージへ向かう途中にコンビニへ寄った。「何か買ってきますね」と伝えドアを閉めた。
「いらっしゃいませ。」
スタッフが元気な挨拶とお辞儀で出迎えてくれた。都会では、AIコンビニが当たり前なので、人間のスタッフがいるお店は新鮮だった。この店にはAIは採用されていないようだ。
冷たいお茶とコーヒーを冷蔵機から取り出し、レジの台に置いた。改めて「いらっしゃいませ」と深々とお辞儀をされ、会計を始めた。スタッフの名札にはオーナーと書いてあった。念の為、ツカサが最近ここのコンビニを利用してないか確認をしてみた。
「お忙しいところすいません。最近、この男性を見かけませんでしたか。」
シンジはツカサの写真をオーナーに見せた。
「うーん、ちょっと心当たりがありません。」
「そうですか、ありがとう御座います。」
「先日も警察の方が来られましたが、また何かあったんですか。」
「いえ、私は友人を探してこの村に来た者です。警察が来られたって事は何かあったんですか。」
「この街で不審者が出没しているようで、防犯カメラの確認をさせて欲しいと依頼がありまして。」
「不審者は映っていたんですか。」
「結局警察が求めていた映像は無く、それらしき人も映っていなかったみたいです。ただ・・・。」
「どうされました。」
「気持ちの悪い映像が何回かありまして。幽霊でも映ったんじゃないかった皆んなで言ってたんですよ。」
「幽霊・・・ですか。」
「そう幽霊。バカバカしいでしょ。田舎の人間は退屈なんで、すぐに話題を作りたがるんですよ。気にしないでください。」
「よかったら、その映像を私に見せてもらえませんか。」
「ええ、いいですけど。」
ツカサに関わる映像とは関係無いとわかっていても、何かきっかけになる情報が欲しかった。ミナミに内容を説明し一緒に映像を見てもらう事になった。ミナミも車から降りてコンビニへ向かった。
「いらっしゃい。あれ、シュウゾウさんとこの嬢ちゃんじゃない。」
「御無沙汰してます。」
ミナミはぺこりと頭を下げた。
「やっぱりそうだ。久しぶりだね。」
「はい・・・。」
「ミナミさん、ここのオーナーとお知り合いだったんですか。」
「昔からよく祖父の別荘に遊びに来てましたから。湖に行く時はよく利用させてもらってるんです。」
「お知り合いでしたら尚更良かった。後で映像の録画の許可も頂こうと思ってたんです。最近は個人情報とかなんとかで厳しいお店が多いので。」
そう言ってシンジはお店のバックヤードに入った。
「幽霊が出たと言われる日時はいつ頃ですか。」
手慣れた様子でカメラ映像の操作をした。
「確か1ヶ月前位の2時頃かな。」
「覚えてる日を全部教えてもらってもいいですか。」
シンジはオーナーから不審な映像が映っている日をメモに書き留めた。
「少し時間がかかりそうですが大丈夫ですか。」
オーナーは「いいよ」と言って店内に戻っていった。
「ツカサに関係する映像があるんですか。」
ミナミが不安そうにこちらを見ている。
「わかりません。ただ、気になった事は全部確認しないと駄目な性分でして。時間かかりそうなんで車で待ってて下さい。」
「わかりました。」
ミナミは車椅子を転回しレジにいたオーナーに挨拶をしてお茶のペットボトルを2本購入し車に戻った。
車の扉を閉めると、先程の購入したペットボトルを助手席に放り投げ舌打をした。ルームミラーで見る自分の顔は目は吊り上がり酷いものだった。
1時間程してシンジがオーナーに向かって深々とお辞儀をして、車に戻ってきた。助手席の扉が開くとストレスから解消された笑顔のシンジが現れた。
「何かわかりましたか。」
みなみの顔は普段通りに戻っていた。
「はい。でも、ツカサに繋がるかはまだわかりませんが、解析出来る機械があれば、何かわかりそうです。帰ったら分析してみます。」
「幽霊の正体がわかりそうなんですね。」
「はい、お陰様で。」
シンジはニヤリと笑った。
ミナミはそれ以上コンビニでの事は聞かず、次の場所へと車を走らせた。