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人魚に恋したモンキー  作者: shinpanzees
12/21

挑戦

 国道623号線を北上して、長いトンネルを抜けると白馬にある吉野に出る。更に30分程車を走らせると、ミナミの祖父が所有する別荘がある。辺りは自然が手付かずで、山、川、湖と休日になるとレジャーを楽しむ家族連れで賑わう。


 海外リーグ戦を終えて、久々の日本でゆっくりしたいツカサの要望を叶えようと、旅行を提案したのはミナミだった。誰にも邪魔されずに、ミナミと一緒に居るには良い場所だとツカサも賛成だった。今や世界バレー界の大スターツカサが帰国したとあってプライベートショット欲しさに都内自宅付近にはマスコミやファンがウジャウジャいる。都内より地方に姿を消した方が利口だと考えた。ツカサとミナミは久々の旅行にテンションが上がった。



「なんだこの別荘、超豪邸じゃないか。こんなにとは想像して無かった。」


「気に入ってくれた。」


「爺ちゃん仕事何やってんだよ。ミナミってやっぱりお嬢様なんだな。」


「やめてよお嬢様なんかじゃないわよ。お爺さん、昔会社の社長してて、その時に購入したんだって。」


「凄いな、車何台停まるんだ。」


「よくわかんない。私も昔はお父さんによく連れてきてもらってたけど、ここ最近来てないな。家族以外で来るの初めてなんだ。だから勝手がわかんないけど許してね。」


「全然いいよ。今回の目的はミナミと一緒にゆっくりすることなんだから。ミナミも気を使うなよ。」


「ありがとう。」


 ツカサはミナミの車椅子を押しながら別荘の玄関迄キョロキョロと辺りを見渡した。海外では、トップアスリートは別荘を購入して家族サービスをするのが当たり前。ツカサもチームメイトに「早く結婚して別荘を持った方が良い、それがトップになった人間のやる事だ」と、いつも結婚と別荘購入を促される。ミナミとの結婚を本気で考えているツカサも、ミナミには秘密で新居と別荘の下見をしていた。そこにきてミナミの別荘を見せつけられたので、少しハードルが上がりそうだと1人心の中で笑っていた。


「何ニヤニヤしてんのよ。」


「い、いや、別に。何でもないよ、こっちの話。」


「なにそれ。秘密ごとは無しでしょ。」


「秘密じゃないよ。俺はミナミには何でもオープンさ。」


「じゃあ、何ニヤニヤしてたか教えなさいよ。」


「それは、ディナー迄のお楽しみ。」


「ディナー迄待てない。」


「ダメダメ、それまで教えません。」


 ミナミは、夜のサプライズが気になって仕方ないといった表情で、ツカサに別荘内を案内した。


 昼食を簡単に済ませた2人は出掛ける支度を始めた。水泳界のオリンピック金メダル有望選手は、現在競技を変えて世界一を目指していた。


 足が不自由になり一度は泳ぐ事を諦めたミナミであったが、ツカサと出会い、世界で闘うツカサと一緒に過ごすなかで刺激を受け、改めて何か自分に挑戦出来ないかと悶々としていた日々を送っていた。そんな時、たまたま2人で行ったアメリカの海でフリーダイビングの世界大会が開催されていた。2人共競技自体初めて観るのだが、その大会で男子選手がCWT(垂直潜水)-140メートルを記録した。-130メートルの壁が破れずここ10年記録が止まっており、専門家は「人類の限界だ」と記録更新は100年以上は難しいと断言していた。ここにきて-10メートル以上更新した事に、記録更新をした本人のみならず、関係者全員が驚きを隠せなかった。

 その大記録樹立を目の当たりにしたミナミは彼等に圧倒されていた。気付いたら車椅子を押していたツカサの右手を強く握っていた。


「ツカサ・・・。」


「ん、どうした。」


「私、ダイビングやる。」


「え。」

 ツカサは笑ってミナミの顔を覗き込んだが、真剣な表情を見て意思の固さが伝わってきた。ツカサもすぐに前を向き直した。


「あぁ、世界獲ろう。」


「うん。」


 暫く手を握り黙ったままアメリカ選手の表彰式を見守った。時折、握る力が強くなるのを感じて、ミナミの本気度が伝わってきた。


 アメリカから本土に帰るとすぐさま、日本フリーダイビング協会に問い合わせをした。しかし返答はあまり良いものではなかった。それもその筈、日本ではフリーダイビングはまだまだマイナー競技のうえ、健常者でも過酷なトレーニングを積まなければならない。自然が相手だけに尚のこと危険を共にする競技なので、障害を持ったミナミに良い回答が返ってくる筈もなかった。



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