The Assassinator in The Broken Mirror ~鏡に潜んだ殺人鬼~
*キャラクター紹介*
*主な登場人物一覧
星野美波・・・元気よくて明るい少女探偵。
高橋秀樹・・・美波の幼なじみ。運動神経抜群。
桜木彩花・・・美波の親友。よく相談にのってくれる優しい性格。
蛭川直子・・・美波のライバル。探偵きどりの美少女。
松本千晴・・・美波の義理のいとこ。身元不明。
松本広子・・・美波の母の妹。千晴を引き取った人。
松本翔・・・美波の叔父。スポーツキャスター。
原田由希子・・・松本家のお手伝いさん。よく相談にのってくれる人。
石川愛・・・千晴の家の隣に住んでいる。千晴と唯一話す千晴の同級生。
大野宏・・・翔の友人のスポーツキャスター。
高木光太郎・・・松本家の庭師を務めている。
岸警部・・・小説の途中から登場する。頼りのおける警部。
ジョン・マツシタ・・・美波に恋を寄せる新人警官。
小林洋平・・・MILKYWAY株式会社社長。
小林誠・・・洋平の子供。千晴とつきあっている。
小林沙織・・・超美人女優。洋平の妻。
山崎美和・・・病死した千晴の母。
山崎健・・・GALAXY株式会社社長。自殺。
長谷川雄介・・・GALAXY株式会社副社長。二年前、車に追突されて死亡。
浜田陽子・・・GALAXY株式会社常務。麻薬を飲んで死亡。
安田啓介・・・MILKYWAY株式会社副社長。
藤野大助・・・MILKYWAY株式会社常務。
相葉涼太郎・・・MILKYWAY株式会社に千五百万円の借金。超貧乏。
安坂学・・・沙織と大学時代つきあっていたが、その後過労死。
安坂健太郞・・・安坂学の息子。
第1章
女探偵星野美波
「うわぁー。ちょっと見てよ、彩花。超きれいだよ!」と15歳の星野美波は飛行機の窓の外を指差しながらはしゃいだ。
「ほんとだ。きれいだね。」と美波の親友の桜木彩花は答えた。
「ケッ!つきあってらんねーぜ。なんで俺はこういう旅行でいつも男一人なんだよー?」そう文句を言ったのは美波の幼なじみの高橋秀樹だった。
「なによ!行きたい、行きたいってあんたが言うからつれてきてあげたんじゃない!」美波はむかついた表情で言った。
「おめぇが来て欲しそうな顔をしていたから仕方なく付き合ってやったんだ。」
「そんな顔してないもん!」と美波は口を尖らせて言った。
美波と秀樹が喧嘩するのは、毎日のような出来事だった。彩花はいつもあきれた顔をして、二人を見ていた。
三人で旅行することはよくあった。今回は、東北地方の三陸海岸沖にある小豆島の、美波の叔母の松本広子の家に泊まることになっていた。そこには、美波の叔父の松本翔や広子と翔の養子であり、美波の義理のいとこでもある松本千晴も住んでいた。
今、三人は飛行機に乗って小豆島に向かっていた。窓の外では果てしなく広がる海がキラキラと陽射しを受けて光っていた。美波はどうも落ち着かない様子でキョロキョロしていた。なぜこんなに興奮していたのかはっきりとは分からなかった。ただ何となく事件が起きるような気がしたのであった。
こう見えても実は美波はちゃんとした女探偵なのである。小さい頃から推理小説や探偵に興味をもち、シャーロック・ホームズなどの探偵に憧れていた。一応、自分の電話番号を持っていて、自分の部屋を探偵事務所として扱い、新聞に広告まで出したことがあったが、やはり来る依頼は少なかった。しかも、それらの依頼の大部分は、なくし物を探すのを手伝ってくれというものばかりだった。(探偵をなめんな!)と美波はつくづく思った。
美波が依頼を受けることが少ないのは、日本の警察があまりに優秀だからだ。どんな事件でもすぐ解決してしまう。また、事件関係者のプライバシーを守るためにあまり事件に関する情報を広めない。それに美波はまだ未成年の女探偵なのでもう少し年上の若者の方が信頼されるのは、無理のない事だろう。しかし、そのような厳しい状況の中でも美波は決して世界的有名な女探偵になる夢をあきらめない。いつか日本の警察や探偵に自分の実力を見せる機会を待っていた。
「まもなく、盛岡空港に到着いたします。本日は、日本航空に御搭乗頂きまして誠に有難うございます。またのご利用を乗務員一同よりお待ちいたします。まもなく、盛岡空港に到着いたします。まもなく、盛岡空港に到着いたします。」
「美波、起きて。」
「・・・ふにゃ?」
「盛岡につくよ。」彩花は、一生懸命美波を起こそうとした。
「・・・警部・・・まだ言いたい事があるんですけど・・・」
「何寝ぼけてんだよ、おまえ!」秀樹は笑いながら言った。
彩花と秀樹は何とか美波を起こす事ができた。
「次は確か東北航空に乗るのよね。」しっかりしている彩花は、美波と秀樹を率いた。
美波は、次の飛行機の中ではかなりムスッとしていた。さっきの飛行機の中でみた夢が気になっていたのだ。
その夢で、美波は大勢の警察や探偵にまぎれて、ある事件の調査をしていた。美波は、いろいろな事に気付いたが、それを警部に伝えようとするたびに邪魔が入り、結局言いたいことがほとんど言えないまま夢から起こされてしまった。
夢だと分かっていながらも不満でならなかった。その不満は美波の胸に熱い炎を灯した。
(見てなさい。今は警察なんかの時代じゃない。女探偵星野美波の時代よ!!)
それが、これから起きる全ての事件の始まりだった。
第2章
松本家にて
二時間後、飛行機は小豆空港に到着した。空港では、松本広子が三人を迎えた。
「広子叔母さん、ひさしぶり!」美波は、大きく手をふった。
「いやー、また大きくなったねー、ミナちゃん!本当、ますますお母さんに似てきたよ。」広子叔母さんは笑顔で迎えてくれた。
「紹介します。私の友人の桜木彩花と高橋秀樹です。」美波は二人を紹介した。
彩花は礼儀正しくお辞儀をした。「よろしくお願いします。」
「いえいえ、こちらこそ。人数が多ければ多いほど楽しいですからね。」広子叔母さんは嬉しそうに言った。
(叔母さんは、確か子供好きだったわね。)広子叔母さんはいつもお菓子の入った袋を持ち歩いて、知っている子がいたらお菓子をあげていたのを美波は思い出した。
美波達は、叔母さんの大きなリムジンに乗った。リムジンには、ミニチュアテレビや電話がついていた。
美波の叔父の松本翔は、有名なスポーツキャスターなので松本家は大金持ちだった。
「南風高校は、冬休みが長くていいね。いつ学校おわったの?」と広子叔母さんは聞いた。
「おとといです。」と秀樹は答えた。
「へー、いいわね。十二月十ニ日から冬休みの学校なんてそんなにないわよね。」
「その代わり夏休みが少し短めだけどね。」と美波は言った。
「でも夏休みは、どーせ蒸し暑い日を永遠と過ごすだけだから・・・それにしても嬉しいわ。ミナちゃん達が来てくれて。ほんと、ここでのクリスマスはすばらしいのよ。雪が積もって、街の明かりが灯って・・・あー、ほんと楽しみだわ。それにミナちゃんや秀樹君の誕生日もあるしね。」叔母さんはペラペラと喋った。
偶然なことに秀樹は、十二月二十四日生まれで、美波は、十二月二十五日生まれなのである。つまり、クリスマスイブは秀樹の誕生日、クリスマスは美波の誕生日なのだ。
十五分程で、松本家に到着した。その家のあまりの大きさに美波達は、あっけにとられていた。
ベルを押すとベルの音が家中に響き渡った。戸を開けたのは、松本家の家政婦の原田由希子さんだった。
「由希子、悪いがみんなを応接間に集めてくれ。これから十日間ここに泊まるお客さんを紹介するから。」と広子叔母さんは言った。
「はい、わかりました。」
その時、急に「秀樹くーん!」という声がした。
ドサ!!
美波が振り返るとある少女が秀樹に抱きついていた。
「あっ、あんたは・・・!!」美波は嫌な予感がした。
「あら、星野さん。何してるの、こんなところで?」
やっぱりそうだった。少女は蛭川直子、この前北海道の方に秀樹と旅行に行った時に会った子だ。直子は、すぐさま秀樹のことが好きになり、その旅行中は秀樹にべったりとくっついていた。
(もう二度と会わなくていいと思ったのに・・・)美波は、直子に自分の作れる最も怖い目線を送ったが、直子は超かわいい子ぶった笑顔を返してきたので、美波はよけいイラついた。
「ここで何してるって、ここは私の叔母の家よ!あんたこそ何してるの?」
「私は、千晴ちゃんの友達だからここに泊まっているの。今、うちの親はハワイに行っているから。でもまさか秀樹君に会えちゃうなんて・・・あー、私ほんとうれしい。神様に感謝すべきだわ。このようなすばらしい出会いを作ってくれて!」直子は、秀樹の手をギュッと握った。
「おいおい・・・」秀樹は困った顔をして、直子から離れようとしていた。
(まったく迷惑な子だわ。秀樹が嫌がっているのを知ってるくせに・・・)と美波は思った。
美波は、普段はこんな怖い子じゃなかった。明るく、おおらかで、とても優しい性格をしている美波だが、秀樹と必要以上に仲良く接する女性が絡んでくると、少し態度が変わった。特にその女性が直子のような人だとなおさら怒りを抑えるのが難しくなる。
「ねぇ、ちょっと秀樹君聞いてよー・・・」
美波は、直子の秀樹への慣れ慣れしい話し方に耐えられず、先に一人で応接間に行った。
しばらくしてから、応接間に人が集まった。
「みんな揃ったようだね。」と叔母さんは言った。「では、まず私から自己紹介を始めます。私は、松本広子です。趣味はテニス。美波ちゃん、彩花ちゃん、秀樹君よろしくね。」
次に翔叔父さんが自己紹介した。「松本翔です。スポーツキャスターをやっています。よろしく。」
続いて美波の知らない大柄の男性が一歩前に進み、「翔の友人で同じくスポーツキャスターをやっている大野宏です。しばらくの間ここに泊めさせていただきます。」と言った。
「この家の家政婦を務めている原田由希子です。皆さんよろしくお願いします。」さっき会った由希子さんは優しい笑顔で言った。
「庭師をやっている高木です。よろしくお願いします。」とソファーに座っているハゲた男性は言った。
「石川愛です。千晴の友達です。千晴のいとこが来るって聞いて、ここに来ました。これから十日間宜しくお願いします。」と眼鏡をかけた少女が言った。
「蛭川直子でーす!秀樹君、よろしくー!!」
(秀樹だけに自己紹介するなんて・・・)美波はあきれ返ってしまった。
そして最後は、美波の義理のいとこである千晴だった。
「松本千晴です。」とあっさり言って部屋を去っていってしまった。
「まぁ。何なのあの子・・・」叔母さんはあきれた顔をして千晴の後ろ姿を見た。そして、申し訳なさそうな顔をして「すみませんね、皆さん。最近、あの子ちょっと変なのよ。」と言った。
美波は、義理のいとこでありながら、千晴のことをあまり知らなかった。前会ったのはずっと昔だった。しかし、千晴がかなり辛い人生を送ってきたことは知っていた。幼い頃に両親を失い、孤児院の厳しいおばさんに二年間育てられてから、やっと広子叔母さんに引き取られたのだ。
それから皆、部屋を出て行った。秀樹は何とか直子から離れることができ、有名なスポーツキャスターである翔叔父さんや大野さんと話しにいった。彩花は、由希子さんと散歩することにした。広子叔母さんは、その間買い物に行った。
「美波も散歩しにいかない?」と彩花はドアから首だけつっこんで叫んだ。
「私はいい!」と美波は叫び返した。
松本家はとても広いので、玄関にいる彩花が応接間にいる美波に何か言いたい時は大声をあげなければならないのだ。
美波はさっき叔母さんが言った言葉が気になって仕方なかった。『最近、あの子ちょっと変なのよ・・・』いったいどう変なのか。義理のいとことしても、少女探偵としても、もうちょっと千晴について調べたほうがいいと美波は思った。カッコつけていえば、その千晴の瞳に隠された謎を解き明かしたかったのだ。
美波は、広い二階の廊下を歩いていった。「えーっと、千晴ちゃんの部屋は・・・」
と、その時、英語でCHIHARUと書いてあるドアが美波の目に飛び込んだ。中からは、かすかな音楽が流れていた。(オルゴール・・・?)と美波は思った。
トントン!
美波は、ドアをノックした。すると、突然千晴が怒った表情でドアを勢いよく開け、こう叫んだ。「だーかーらー!!今は、一人でいたいの!それが分からなー あっ、す、すみません、ほ、星野さん。ちょっと違う人だと勘違いしてしまって・・・」
(どうやら叔母さんは何度かここを訪ねたようね。まぁ、千晴ちゃんの苛立ちは増すばかりみたいだけど・・・)と美波は思った。
「いいのよ、別に。あっ、あと敬語なんて使わなくていいわよ。義理のいとこなんだから。それと、『星野さん』じゃなくて『美波』って呼んでくれれば嬉しいわ。」と美波は言った。
「そう・・・。」
千晴は机に戻り、オルゴールを止めた。音楽が止まると、急に部屋は静まり、美波はそこに居づらくなった。
千晴の机の横にはうさぎがかごに入っていた。うさぎは、かごの中でキョロキョロしていた。
「かわいいうさぎね。名前なんていうの?」と美波は聞いた。
「うさぎ。」
「え?だから、そのうさぎの名前は・・・」
「うさぎって名前なの。」と千晴は冷たい声で言った。
「へー。」
それから、しばらくの間、気まずい沈黙が続いた。千晴は、とてもおとなしく、口が重い子なので、会話するのは大変だった。
「千晴ちゃんって趣味とか、今ハマっていることとかある?」と美波はしばらくしてから聞いた。
「別に。」
「好きなスポーツとかは?」美波はあきらめようとしなかった。
「別にないけど。」
「好きな芸能人は?」
「別にいないわ。」
「あ・・・あら、そう・・・。」
また沈黙。その時、千晴の机の上に写真が置いてあるのに美波は気づいた。写真の中では、美人な女性と優しそうな男性が手をつないでいた。
「わー、誰この人、超美人!」と美波は叫んだ。
すると千晴は、あわてて写真を倒した。そして、美波に冷たい視線を送った。「勝手に見ないでほしいわ!」
「あ・・・ご、ごめんなさい。」美波は自分の声が震えているのに気づいた。普段はあんなにおとなしい千晴に、このようなきつい口調で話されてびっくりしたのだった。
と、その時、玄関のドアが開く音がした。
「あ、彩花たち帰ってきたみたい。私ちょっと行って来るね。千晴ちゃんもいっしょに行く?」
「私はいいわ。」
「そう。じゃあー・・・」美波は、半分逃げるようにして千晴の部屋を出て行った。
第3章
伝説のカップル
玄関に行くと、彩花と由希子さんと広子叔母さんが荷物を運んでいた。
「買い物に行った帰り道にバッタリと彩花ちゃんと由希子に会ったのよ。それで荷物運び手伝ってもらったってわけ。」と叔母さんは言った。
美波は叔母さんのことをじっと見ていた。そして突然こう言い出した。
「叔母さん、あなたは今、シルガーデンに行ってたでしょ。」
「えっ!なんで知ってるの?」叔母さんは、目を丸くして聞いた。
「叔母さんが買い物に行ったのは五分程度。五分で行けるスーパーマーケットといえば、かなり限られてくる。」美波は、まるで殺人事件のように低い声で言った。
「シルガーデンなんて五分では走ってもいけないわ。五分で行けるスーパーならSILVER MARKETがあるじゃない?」
「叔母さんは、彩花達と合流したと言った。彩花達が散歩しに行った方向と反対方面にあるSILVER MARKETまで行って、彩花達と合流する事はまずない。シルガーデンに五分で行けたのは、おそらく今工事している野原を近道として突っ走ってきたから。叔母さんのことだから『立ち入り禁止』という看板があるのにもかかわらず通り抜けてきたのでは?」
叔母さんの顔は、少し赤くなった。
「その証拠としては、叔母さんの靴に付着しているまだ乾ききっていないセメント。また、叔母さんのこう言われた時の反応からも、今、私が言ったことが正しいと分かるでしょう。」
「さすがミナちゃん!推理力は落ちていないね。」叔母さんは感心をこめて言った。
「推理力ってもしかして美波さん・・・」
「えぇ、そうよ。この子は、小さい頃から少女探偵をやっているのよ。」叔母さんは、まるで自分のことのように自慢した。
「へー、すごいですね。」と由希子さんは言った。
彩花と美波は、由希子さんに台所までついていき夕食の準備を手伝うことにした。台所もとても豪華な造りになっていて、大きな窓からは、海が見えた。絶えず動く波を見つめていると美波はとても落ち着いた気持ちになれた。
「とてもきれいな景色ね。」
「ほんと、料理しながらとても愉快な気分になれるわ。」と由希子さんは笑顔で言った。
「何年間ぐらい家政婦をやってきたんですか。」と美波は聞いた。
「うーん。七年だけどその中で広子さんのために働いたのは四年ぐらいかしら。」
「へー。家政婦ってどういうことをする仕事なんですか。」と彩花は聞いた。
「そうねぇー。家事はもちろん、千晴ちゃんの学校の送り迎えなんかもするわ。」
美波がイチゴババロアを作っていた時、秀樹が台所に入ってきた。すると突然秀樹はイチゴババロアに指を突っ込んだ。
「ちょっとやめなさいよ、汚いなー!」美波は秀樹の事を叱った。そして、ババロアを安全なところに置いた。「まったく、不潔なんだから・・・」
「ふん!どーせ自分が作ったんじゃないくせに。」
「残念でした!これは私が頑張って作ったのよ。由希子さんに色々と教えてもらいながら。」
「えー!! うっそー!」秀樹は開いた口がふさがらなかった。
「なによ、その驚いた顔は!いくら家庭科嫌いの私でもー」
と、その時、急に由希子さんは笑い出した。
「何がおかしいんですか?」と美波は聞いた。
「あら、ごめんなさい。ただ二人があまりにあの伝説のカップルに似ていて・・・ びっくりしちゃった。」
「伝説のカップル?」
「あ、知らない?ここでは、とても有名なお話なんだけどね。」
「どんなお話?」
「昔、この家に沖田ひかりっていう名探偵がいてね。その推理力ときたら、本当にすごいわ。すぐに行動に移り、空手で犯人を自分でやっつけてしまう。」
「あら私も空手できるわ!」武道ならなんでもできる美波は、少し自慢気に言った。
「ね、似てるって言ったでしょ。まぁ、そんな彼女にはすてきな彼氏がいてねー」
「なに、なに。なんの話してんの?」そう言って台所に入ってきたのは直子だった。
『もー、いいとこだったのにー・・・』美波はムカついた目で直子を睨んだ。
「ねぇ、思ったんだけどさー、なんで星野さんっていつも私のこと怖い目で睨んでくるの?」直子は秀樹の肩に手をのせながら言った。
美波は、内心怒りで燃えていながらも、それを顔には出さず、「あら、私は別にそんなつもりはないけど、蛭川さん。」と少し脅しの入った笑顔で言った。
「そう。だったらいいんだけど。いこっ、秀樹君。」直子は秀樹の腕を引っ張って、無理やり連れて行った。
『なんにも言わない秀樹も秀樹よね。』美波は明らかに嫌がっている秀樹の後ろ姿を見つめながら思った。もう由希子さんのお話の続きを知る気にもなれなかった。
レモンのキャラクター図鑑
☆美波のプロフィール☆
好きなスポーツ・・・格闘技
好きな食べ物・・・小豆
趣味・・・読書、格闘技、事件の捜査など
将来の夢・・・世界的有名な女探偵になること
あとがき
どーも、レモンです。この作品は、本当は40号にのせるはずだったんですが・・・ちょっと間に合わなくなってしまったのでごめんなさい。
レモンの文章はいつも横書きです。どうやったら縦書きにできるのか分からないからです。もし分かる人がいたら、教えてください!お願いします。
次回はいよいよ事件が始まります。今回よりもさらに面白くなってくると思うので是非読んでください。
次回の予告
「く、苦しい・・・」
洋平は倒れてしまい、全く動かない。
「あ、あなた・・・」妻の沙織は震えた手で洋平に触れようとした。
「触らないで!」美波は叫んだ。美波の顔は、真剣だった。「これは・・・殺人事件なんだから・・・」
四十号の作品の感想
☆ 井手の詩ども(井手悠さんへ)
井手悠さんの詩にはとても独特な感じがあります。頭の中で空想するものをそのまま上手く言葉に表せているのがすごいです。私が一番気に入ったのは、『夏のきれっぱし』です。井手さんの詩は、少し暗めの切ないものが多い印象ですが、この詩はとても明るい雰囲気が作り出されています。特に「スローモーションの水飛沫」という表現が好きでした。
あっ、あと井手さんは帰国子女なんですか。私もです!なんかまだ会ったこともないし、話したこともないけど、もう共通点があるようですね。これからもよろしくお願いします。大学でも頑張って下さい。
☆ 五人の探偵(K・K・Lさんへ)
こんにちは。K・K・Lさんの小説はとても面白かったです。ハッピーエンディングはいいですねー。途中ででてきた暗号はとても難しかったです。十分ぐらい考え込みましたが、全然分からなくて、とうとうあきらめてしまいました。同じ推理小説作家として情けなく思っています。K・K・Lさんの作品を見習ってこれからも頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします。
また、他の湘南の南風のメンバーにも素晴らしい作品を書いておられた方々は大勢いましたが、時間の都合により、感想を書けなくなってしまいました。こんなレモンですが、きっと来年もこのゆとりをとることになると思うので、ぜひ回覧の時などに感想を下さったら、とっても嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。
The Assassinator In The Broken Mirror
鏡に潜んだ殺人鬼
レモン作
*主なキャラクター*
星野美波・・・少女探偵。元気で明るく格闘技ができる。
高橋秀樹・・・美波の幼馴染。運動神経抜群。
桜木彩花・・・美波の親友。優しくて、よく相談にのってくれる。
蛭川直子・・・美波のライバル。
松本千晴・・・美波の義理の従妹。人一倍おとなしい。
前回までのあらすじ
小豆島にある美波の叔母が住む松本家に到着した美波、秀樹、彩花。そこで出会ったのが、美波の叔母の松本広子、叔父の松本翔、翔と同じくスポーツキャスターをやっている大野宏、家政婦の原田由希子、庭師の高木光太郎、美波の義理の従妹の松本千晴、千晴の親友の石川愛、そして美波のライバルの蛭川直子。直子が秀樹に想いを寄せ、美波はどうしても不満を隠せない・・・
第四章
レストランでの出来事
美波達は次の晩に中華料理のレストランへ行った。そこで悲劇が起きることも知らずに・・・
「わぁー、綺麗!」
美波が振り向くとそこには直子がやはり秀樹の腕にしがみつきながら大げさにレストランを指差していた。
直子の一つ一つの仕草が癪にさわり、美波は苛立ちを隠すのもそろそろ限界な気がしてきた。
と、その時、「あら、翔君。久しぶり。」聞き覚えのある女性の声に美波は振り向いた。そこには、なんと美人女優の小林沙織が翔叔父さんの前に立っていた。広子叔母さんは不安そうにその女優をじろじろ見ながら、「あなた知り合いだったの?」と聞いた。
「ああ、大学が一緒だったもんでな。」翔叔父さんは機嫌良さそうに話した。
小林沙織さん達と一緒に夕食を食べることになった。かなり不機嫌そうな広子叔母さんを見て、美波は思わず笑い出したくなった。(私も周りからみれば広子叔母さんみたいな感じなのかな。)と思った。
かなり大人数だったので、個室を一つとることにした。集まった人々の中には、有名人が多くいた。スポーツキャスターの翔叔父さんをはじめ、女優の沙織、Milky Way 株式会社の社長で、沙織の夫である小林洋平などがいた。松本家は翔叔父さん、広子叔母さん、由希子さん、直子、秀樹、彩花、千晴、美波、そして庭師の高木さんまで来ていた。また、沙織と洋平の子供の小林誠もいた。誠は美波や千晴と同い年だった。
大きな丸いテーブルの周りで、にぎやかな会話があちこちから聞こえてきた。
誠は千晴と美波の間に座っていた。
「千晴はー、千晴さんは今どこの学校通っているの?」と誠は聞いた。
千晴はとても冷たい目線を送り、同じくらい冷たい声で、「小豆中学校。」と答えた。
「そうなんだ。」誠は少し悲しそうな複雑な表情で言った。
しかし、美波はそんな二人の様子よりもテーブルの反対側にいる秀樹と直子の方に注目していた。直子は、いつもの通り大げさに笑いながら話していた。さらに美波がムカついたのは秀樹が一緒に笑っていたことだった。
「私ちょっとトイレ行ってくるわ。」千晴は席を立った。
「いってらっしゃい。」美波はぼんやりと答えた。美波はちょっとした秀樹への仕返しが頭の中に浮かんできた。美波はこっちを見向きもしない秀樹を見ながら、その仕返しを今、実現することにした。つまらなそうに中華料理を食べている誠に美波は自分の出せる最もかわいらしい声で、「ねぇ、誠君だよね。」と話し掛けた。
「うん、そうだけど。」
「私の名前は星野美波。よろしくね。」
すぐそばに座っていた沙織は広子叔母さんに「ずいぶんたくさんの子供たちがいらっしゃるんですね。」と言った。
「いえ、今ここにいる子供たちは私の姪と姪の友人たちです。」広子叔母さんはやはり沙織に対して少し対抗意識を持っているようだったが、夫がいると聞いてだいぶ安心したようだった。
「そうなの。」
だいぶ時間が経ってから、次の料理が机の上に置かれた。美波はウェートレスが帽子を目の下までかぶせていたのと料理を置いてからやや慌て気味に部屋をすばやく去っていったのを少し不思議に思った。
おいしそうな点心セットとチャーハンを、話しながら食べていると、突然洋平が「うっ!」と言って激しく咳をしだした。
「どうしたんですか、洋平さん!」美波は席から飛び上がって叫んだ。
「く、苦しい…」
洋平は倒れてしまい、全く動かない。
「あ、あなた…」妻の沙織は震えた手で洋平に触れようとした。
「触らないで!」美波は叫んだ。美波の顔は、真剣だった。「これは…殺人事件なんだから…」
「そ、そんな…」沙織は嗚咽しながら泣きだした。
「死因はおそらく青酸カリによる毒殺。洋平さんの口から出ているアーモンド臭がその証拠です。」
「どうしたの?」
皆の視線は、戸口に立っている千春に向いた。
「洋平が…洋平が…」沙織は泣きながら言葉も出てこなかった。
「洋平さんが今青酸カリによって殺されたのよ。さっきのウェートレスさんが怪しかったわ。帽子を目の下までかぶせていて。千春ちゃん、そんな人とすれ違わなかった?」
「いいえ、そんな人見てないわ。」千春は、割と冷静に、でも目を丸くして答えた。
「とにかく、警察を呼ばなきゃ!」広子叔母さんは、千春の横を通り抜けて、部屋の外の公衆電話へと走っていった。
美波は、千春のことをじっと見つめると、千春は目をそらした。(まさか千春がね…)と美波は頭の中で思った。しかし、他に部屋にいた人には全員アリバイがある。
「この店の店員全員に事情聴取する必要があるわね!」直子は言った。
(そうだ、確かにレストランの従業員なら料理人からウェートレスまで全員が容疑者だわ。)美波は、直子の初めて見せた真剣ぶりにちょっと感心し、直子を見直した。
しかし、直子はその直後に秀樹の腕に自分の腕を絡め、「なんかワクワクするね!」と秀樹に言った。
秀樹は顔をしかめた。美波も、この直子の不真面目さにはすっかりあきれ返ってしまった。(やっぱり直子は直子だわ。)
警察が到着した。直子の言っていた通り、店員は全員事情聴取された。しかし、全員自分には身の覚えがないことを訴え、この事件は結局未解決のままとなってしまった。
次の日、美波と秀樹が小豆湾を小さな船に乗ってこぎ回っていると、突然船が倒れてしまった。幸い、美波も秀樹も運動神経がいいので、無事岸に到着することができた。「秀樹くーん、大丈夫?」直子は秀樹にしがみついた。
美波は直子に対して嫌悪感を抱くあまり、直子の足を踏んづけていった。
「いったーい!ちょっと謝ってよ、星野さん。」
「何よ、あなたの足が邪魔なところにあるからいけないんでしょ!」
「まぁ、何ですって!このニセ探偵が!」
「ニセ探偵はあんただろ!」
「おいおい。」秀樹は困ったように二人の喧嘩を止めようとした。
こうして、船が転落した事故よりも、むしろこの二人の探偵たちの喧嘩の方がおおごととなってしまい、広子叔母さんもこの二人の仲の悪さに少し困り果てた様子だった。
第5章
小林家での事件
MILKYWAY株式会社社長の小林洋平殺人事件で、一番の容疑者とされたのが、MILKYWAY株式会社に千五百万円の借金をしている相葉涼太郎という人物だった。彼の事件が起きたときのアリバイはない。彼は一人で散歩していたという。
事件の起きた二日後、一同は小林家で事情聴取を受けた。しかし、誰も洋平自身や洋平の食べ物には触れておらず、また動機もないので、数時間後に解放された。岸警部はしっかりした年配の警部だった。それに対し、ジョン・マツシタは日本語もろくにできない新人警官だった。
二人の警察が帰ってから、事件は起きた。
広子叔母さん、翔叔父さん、由希子さん、高木さんは子供たちを残して松本家へ帰った。小林家の家もとても大きく、広いプールがついていてリゾートチックだった。
「秀樹くん、外行こうよ!」直子は秀樹の手を引っ張った。
彩花は二人の後を追うべく、あわてて走っていった。
「ほら、千春さんも行こう。」誠は千春に優しく微笑みかけながら手をさしのべて言った。
千春はだまって下を向いたまま誠の手をとった。
美波は沙織さんとMILKYWAY株式会社常務の藤野大助さんと部屋に残っていた。藤野さんは警察が帰ってから、小林家の家に来た。もう少ししたら、MILKYWAY株式会社副社長の安田啓介が来るのだ。沙織は、台所に紅茶を注ぎに行った。その間に美波は、藤野さんと色々と話をしていた。
藤野さんによると、MILKYWAY株式会社はもともとGALAXY株式会社の子会社だったそうだ。しかし、3年前に独立して次第にGALAXYのライバルとなった。そして去年、ついにGALAXY株式会社の社長山崎健の自殺とともに、GALAXY株式会社は閉鎖した。MILKYWAYもこのままでは存続が危ないので、これから会議をするのだそうだ。
沙織が台所から戻ってきた。そのとき安田啓介さんのリモジンが到着する音がしたので、美波は玄関へ向かった。
ドカンっ!!!
ある爆発音がリビングからした。美波はリビングの入り口へ戻ると、そこは火の海になっていた。
「沙織さん!藤野さん!」美波は叫んだ。
返事はなかった。
美波は壁へもたれかかった。動こうと思っても動けない。(私このまま死ぬのかな…)
すると強い風のようなスピードで、美波を拾い、台所のドアから無事プールのそばへと連れて行った人がいた。その人は秀樹だった。
「ひで-」直子は言いかけたが、ぐったりした美波を見て、心配そうに「星野さん、大丈夫?」と聞いた。
「大丈夫。」美波はかすれた声で言った。
警察が到着した。
「ミナミさーん、大丈夫デスカー?」
新人警官のジョンは、必要以上に美波に近寄りながら言った。彼は美波のことが好きなようだ。
「は、はい。」美波はちょっと焦った感じで答えた。
「コワカッタデショウ。デモ、もう大丈夫デスカラネー。私がイマスから。」
ジョンはにっこり笑った。
相葉さんはまたしてもアリバイがなかった。
「僕はやっていない!」彼は必死で叫んだ。
「しかし、あなたには動機があるし、二件ともアリバイがない。殺人容疑で逮捕します。」と岸警部は言った。
「そ、そんな!僕は絶対違う!」
彼は叫びながら、警察に連行された。
また、容疑者はもう一人現れた。それは、大学時代沙織とつきあっていた安坂学の子、安坂健太郎であった。彼の父は、過労死してしまったのだが、それは沙織が洋平と結婚してからも沙織のことを愛していて、気を紛らわせるために仕事に集中し過ぎた結果であった。健太郎にも洋平や沙織を殺害する動機は充分にあった。藤野大助さんはその殺人計画に巻き込まれたと考えられる。
彼も無実を主張したが、アリバイがなく、警察に逮捕された。
第6章
松本家での事件
生き残った安田啓介は、しばらくの間小林洋平の友達だった松本翔の家に泊まり、身の安全を確保することにした。また、誠も松本家に泊まることになった。
「やっぱり怪しいのはあの安坂健太郎って人かしら。関係のない藤野大助さんまで殺すなんてひどいわね。」広子叔母さんが言った。
「相葉さんという人も怪しいですよ。MILKYWAY株式会社が倒産すれば、借金はなくなるかもしれないのですから。」彩花は言った。
「でも、二人とも逮捕されたし、もう安心だな」と翔叔父さんが言うと、美波は「分かりませんよ。犯人はこの中にいるかもしれないから。」と言った。
辺りはしんと静まり返った。
「いったい誰が犯人だというのかね?」翔叔父さんは聞いた。
「いえ、まだ特定できないけど、油断しちゃいけないということです。」と美波は答えた。
その夜、またしても悲劇が起きた。
安田さんは一人で寝ることにした。誰も安田さんと一緒に寝たいとは思わないし、安田さんも人を巻き込みたくないというのと、もし仮に一緒に寝た人が犯人だったら…という恐怖心からそう決めたのである。
朝になり、由希子さんは安田さんの部屋をノックした。応答はなかった。「安田さん?安田さん?」トントントン!
「どうしたんですか、由希子さん?」
眠そうな目をこすりながら、美波は尋ねた。
「安田さんがなかなか目を覚まさないんです。」
美波はドアを開けようとした。鍵がかかっていた。
「任せてください。」
美波は数歩下がってから、ドアに突進していき、いきなり回し蹴りをした。ドアは破壊され、中には安田さんがベッドの上で横たわっていた。胸元をナイフで刺され、血だらけだった。
「安田さん!」美波は叫んだ。
由希子さんはこの光景を見た瞬間、「きゃーーーーーー!!!」と悲鳴をあげた。
この声で全員が安田さんの部屋の前に集まってきた。
数分後、警察が到着した。今度は誰がやったのか誰にもわからなかった。夜だったので、全員それぞれの部屋で寝ていてアリバイがない。松本夫婦が互いのアリバイを証言できる以外は。
また、奇妙なことに、安田さんの部屋の窓もドアも閉まって鍵がかかっていた。完全な密室殺人であった。
安田さんの寝ていた2階には、広子叔母さんと翔叔父さんの部屋、美波の部屋が廊下の左手に、秀樹の部屋が廊下の奥に、千春の部屋と安田さんの部屋が廊下の右手側にあった。美波は直感的に一番部屋の近い千春を疑った。彼女に安田さんを殺す動機があるのかどうかは別として、ちょっと千春について調べることにした。
ちょうどその時、千春の部屋は空室だった。美波は、千春の机の上にある写真立ての写真を眺めた。この男の人、どこかで見たことがあるような…そこで、美波は思い出した。(この人確か去年自殺したGALAXY株式会社の社長山崎健だ!千春とどんな関係だったのだろう…)よーく眺めると、写真の中の男性と女性は千春に少し似ている気がしてきた。(もしかして親子とか…?)
次に美波は安田さんの寝ていた部屋へ行き、千春の部屋に近い方の壁を見た。そこにはクローゼットと洋服箪笥がある。美波はクローゼットを開けた。服の間には何もない。しかし、美波はクローゼットの内側で、一番奥の両脇に縦に幅1センチぐらいの傷があることに気づいた。美波はクローゼットの奥の部分を力いっぱい押した。すると、クローゼットのその部分は、ずずずっと奥へ下がった。それは、千春の部屋の壁とつながっていて、しばらく押すと千春の部屋に着いた。
足音がしたので、美波はあわてて壁を元に戻した。
「何してるの、人の部屋で!」
千春はいつもより全然きつい口調だった。
「ご、ごめんなさい…」
美波は千春と目を合わせず、あわてて部屋から出ていった。
レモンのキャラクター図鑑
☆秀樹のプロフィール☆
好きなスポーツ:サーフィング
好きな食べ物:なんでも食べる
趣味:サーフィング
将来の夢:世界的に有名なサーファー
次回予告
「あれ、そういえば千春は?」と愛が言う。
「千春さんがいない!」誠は叫ぶ。
(えっ!)美波は目を丸くし、必死で辺りを見渡す。すると、Egg Houseの入り口の反対側で、銃を持った全身黒をまといサングラスをかけた怪しげな人が立っていた。
The Assassinator In The Broken Mirror
鏡に潜んだ殺人鬼
レモン作
*主なキャラクター*
星野美波・・・少女探偵。元気で明るく格闘技ができる。
高橋秀樹・・・美波の幼馴染。運動神経抜群。
桜木彩花・・・美波の親友。優しくてよく相談にのってくれる。
蛭川直子・・・美波のライバル。
松本千晴・・・美波の義理の従妹。人一倍おとなしい。
小林誠・・・千春と付き合っている。
石川愛・・・千春の友達。
前回までのあらすじ
小豆島にある美波の叔母が住む松本家に泊まっている美波、秀樹、彩花たち。ある中華料理屋でMILKYWAY株式会社社長の小林洋平が毒殺され、続いてその妻の小林沙織、同じ会社の常務の藤野大助が小林家で焼殺された。さらに、松本家で同会社副社長の安田啓介が密室の部屋で刺殺された。犯人の密室殺人で使ったトリックや動機について美波は独自に捜査を済ませ、一同は遊園地Wonder Egg 7へ行く…
第7章
最後の戦い
「ねぇ、今日Wonder Egg 7行くのやめない?」美波は言った。
「えっ!」秀樹と彩花は目を丸くして美波を見た。
「あんなに行きたいって言ってたの美波じゃなーい。」と彩花は言う。
「今日こんなにいい天気だしよー。それに俺の誕生日のお祝いするんだろ。」秀樹は言う。
「星野さん、体調でも悪いの?それなら星野さんだけ家に残ればいいんじゃないの?」と直子が言った。
「わかった、わかった、行きますよ。」美波は直子を睨みながら言った。
今日は、クリスマスイブで、美波、秀樹、彩花、直子、愛、千春、誠で、遊園地Wonder Egg 7に行く日だった。
美波は何とかして千春を止めないとと思っていた。美波が千春を警察に通報したところで、誰もきっと信じてくれない。千春が次の行動に出るまでは、千春を捕まえることができない。
しばらく7人は普通に遊んでいた。ジェットコースター、コーヒーカップ、パイレーツ…千春は、いつも通りむすっとした感じだったが、特に変わった様子もなかった。(全部私の勘違いなのかな…)と美波はそんな千春を見ながら思った。
しかし、秀樹が「次あのEgg Houseに入ろうぜ!」と言った後、事件が起きた。
Egg Houseは巨大な卵型をしていて、中には3つの部屋がある。お化け屋敷と占いの部屋と鏡の部屋である。まず一同は占いの部屋に入った。
美波が言われたのは、「あなたはこれから死ぬか生きるかの重大な選択をするでしょう。」であった。(縁起でもないこと言わないでくださいよ)と美波は思った。
次にお化け屋敷に入った。皆キャーキャー言いながら走って出ていった。
「面白かったねー。」彩花は笑いながら言う。
「次はあのジェットコースター乗ろうぜ!」と秀樹は指差しながら叫んだ。
すると、いきなりそのジェットコースターは止まった。Egg Houseの中からはキャーキャーという声が一段と激しくなる。見渡すとすべての乗り物が止まり、電気が消えていた。音もしない。
「あれ、そういえば千春は?」と愛が言う。
「千春さんがいない!」誠は叫ぶ。
(えっ!)美波は目を丸くし、必死で辺りを見渡す。すると、Egg Houseの入り口の反対側で、銃を持った全身黒をまといサングラスをかけた怪しげな人が立っていた。
「危ない!」と美波が叫ぶ前に銃声がした。
次の瞬間、誠が肩を撃たれてかがんでいた。犯人はEgg Houseの鏡の部屋へと逃げ込んだ。
美波は全力疾走で犯人の後を追った。
「美波!」と後ろから秀樹が叫ぶが、美波は振り向かなかった。
鏡の部屋へ入るとしばらくは一本道だった。美波はタッタッタッと息を切らしながら走った。すると道は二つに分かれた。(どっちに行けばいいのだろう…)犯人の行った方の道に入らなければ…美波はこれがさっき占い師に言われた「重大な選択」な気がした。
迷ってる暇もなかったので、美波は左の道を選んだ。
しばらくはやはり自分の鏡像しか見えない。するといきなりバリン!と美波の目の前の鏡が割れた。その壊れた鏡には、美波のほかにもう一人黒をまとった人物が映っていた。美波ははっと振り向くと、そこには黒をまとっているがサングラスを外した千春が立っていた。両手で銃を抱え、美波にその銃口を向けていた。
しばらく二人はだまっていて、荒い二人の息の音だけが聞こえた。
「やっぱりあなただったのね。」美波は言った。
千春はうっすら不気味に笑った。
「今朝見つけたわ。あなたの部屋の壁の秘密とあなたの両親のこと。」
千春は、今度は唇を震わせた。そして、銃を撃とうとしたそのとき-
千春の後ろから「おらー!」と声を上げてタックルしてきた人がいた。秀樹だった。千春と秀樹は地面にひれ伏した状態になり、秀樹は千春の上にのっていた。秀樹は必死で千春の銃を持った手を押さえようとしたが、千春はむやみに美波の方に向けて発砲しだした。
バリン、バリン!と鏡の割れる音。美波は抜群の運動神経で銃弾をうまくかわし、千春の方へ向かって走り、彼女の手を蹴った。銃は飛んでいった。
美波の後ろから直子や彩花もやってきて、全員で暴れる千春を抑えた。
やがて、警察が到着し、すべての事件の犯人は千春だったということで、相葉容疑者や安坂容疑者は解放された。千春は警察に連行され、刑事収容所に連れて行かれた。
動機はやはり自殺に追い込まれた親の仇だった。MILKYWAY株式会社社長の小林洋平、その妻の小林沙織と同会社常務の藤野大助、同会社副社長の安田啓介、そしてさらには社長の息子で自分と付き合っていた小林誠までも…
誠は涙を流しながら、千春が警察に連行される時に千春を見送った。千春は一瞬誠の方を見たが、すぐに目をそらし、下を向いた。
(愛と裏切りは紙一重なんだ)と美波は思った。
「誠くん、きっと彼女のことは忘れられないと思うけど…」美波は、誠を励ましてあげようと思ったが、同情の涙が出てきた。
また、千春の友達であった愛も泣いていた。
「俺の誕生日にこんなことがあるなんて…」と秀樹は言った。
「ま、明日は美波の16歳の誕生日だし、盛大に祝ってあげましょう。」と彩花は言った。
「私、今日で帰るわ。」直子は言った。
「ほんと!?私たちは明日帰るんだけど。」美波は言った。
「うん、この後上海に行くから。」
「あ、そうなんだ…」
「そういえば星野さん、今日ちょっとカッコよかったよ。」
「ありがと…」美波はライバルに褒められて、少し照れずにはいられなかった。
「だから、秀樹きゅん、今夜は私の最後の夜だからWonder Egg 7に一緒に行こう!」
直子は秀樹の手をとって、Wonder Egg 7の入り口の方へ走り出した。
「待ちなさいよ、秀樹は私の幼馴染よ!」美波は秀樹の反対の手をとった。
「いいえ、秀樹くんは、私のものですぅ!」直子は秀樹を自分の方へ引っ張った。
「ちょっと、ちょっと」彩花はあわてて後を追う。
こんな感じで美波、秀樹、直子、彩花は再びWonder Egg 7に入り、美波と直子は喧嘩しながらも、4人は今度は本当に楽しい時間を一緒に過ごせた。
エピローグ
「いやぁ、海は気持ちいいね。」
美波、彩花、秀樹は3人でビーチでのんびりしていた。直子と愛と誠は皆松本家を去った後で、家は少し静かになった。
「ちょっと私、トイレに行ってくる。」と彩花は言い、席を立った。
彩花がいなくなってから、美波はそっと「ねぇ秀樹、伝説のカップルの話って聞いた?」
「あぁ。」
「なんだかああいうのって憧れちゃうな。」
「ふーん。」
美波は秀樹の関心のなさにムカッときた。「由希子さん、私と秀樹に似ているって言ってたよね。でも、私にはさっぱり分からないわ。秀樹別に私の素敵な彼氏じゃないしー。」
「はぁ?そんなこと言ったら、お前だってそんな名探偵じゃねーし!」
「あぁ、もう秀樹なんて知らない!」
美波はイライラして泣きそうになって鼻をすすった。
秀樹は美波の手をとり、「でもお前のことが好きだという点では、伝説のカップルにも負けないぜ。」と言った。
美波はにっこり笑い、秀樹の顔に自分の顔を近づけた。
二人はキスをすると、急に赤面した。
「あんだよ、お前いきなり…」
「あなたこそ…」
「てゆーか彩花遅くない?」
「遅い、遅い。何してるんだろ。」
二人はしばらくだまっていた。美波は幸せそうに日の光を浴びて寝そうになっていた。
すると、「ハッピーバースデー!!」という声がして、見ると彩花と広子叔母さんがケーキをもって砂浜の美波たちのところにやってきた。ケーキには16本のろうそくが線香花火のように全てピカピカと燃えていた。
「きゃー嬉しい!」美波は飛び上がって叫んだ。
「お前もやっと俺に追いついたか。」と秀樹はにこにこしながら言った。
「あなたは昨日なったばっかりでしょ!」と美波は言った。
「いいから、いいから、早く食べようよ!」彩花はぴょんぴょんはねながら言う。
「じゃあミナちゃん、ろうそくの火を消す時願い事をするの忘れないように!」と広子叔母さんはにっこり笑いながら言った。
「はい。」
美波は少し考えてから、目を閉じろうそくの火を全部消した。幸せいっぱいのろうそくのけむりを吸い込みながら、美波はこの旅行中に起きた全てのことを思い、大きな安心したため息をついた。(よく無事にこの日を迎えられたな…)
これから先どんなことがあってもこわくない!そんな自信と希望と喜びを胸に抱き、秀樹と彩花と誕生日の記念写真に写る時は、広子叔母さんに向けて三人そろって最高の笑顔を見せた。
あとがき
今回は初めてちゃんとした日本語の小説が書けました。いやー、書いてて楽しかったです。
もともと『湘南の南風』に連載でのせようと思っていたのですが、第一回にして途中で終わってしまいました。読者で続きを楽しみにしていた皆さん、本当に申し訳ございませんでした。
しかし、今度は完成したのをブログに連載として載せられるのをとても嬉しく思います。皆さんのご感想お待ちしております♪
美波たちみたいに幼馴染の恋も、ある時偶然に出会って結ばれる恋もどちらも素晴らしいものだと思います。伝説のカップルの話の続きは、またいつか出すかもしれないし、出さないかもしれない。あえて読者様のご想像にお任せするのも悪くないか(笑)
まぁそんな気まぐれマイペースな作家にどうか愛想を尽かさず、これからも応援していただければ幸いです。ではでは☆




