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神の裁き

 カーテンの隙間から漏れる日の光を顔に受け、俺は自然と目を覚ました。

 首と背中が痛い。丸まって寝ていたせいだ。

 そう、優しい俺はベッドまで奴に貸してやっている。

 その「奴」というのは、昨夜俺のアパートに済ませてくれと長時間駄々をこねていた銀髪の少女。

 彼女は、リメルと名乗る異世界人且つ魔法使いだ。

 本当に不思議な出来事で、昨夜からずっと夢を見ていたのではないかと一瞬思ったが、ベッドの上から聞こえる「ンガッ、スピー」という盛大なイビキが全力で否定してくる。

 彼女は容姿に関しては抜群のステータスを持っているにも関わらず、それ相応の振る舞いに欠ける残念な子だということは、昨夜からなんとなくわかっていた。

 まあ、でもそういうところがわかりやすく表面に出てしまう彼女を、このしょうもないイビキも合わせて可愛いと思ってしまう。


 時計を見るともう午前十時。今日は休日で学校はないが、腹が減って落ち着かないので起きることにした。

「いてて……」

 背骨をバキバキ鳴らしながらゆっくりと起き上がり、伸びをしながらふとリメルの方へ目をやる。


 ――!!


 そこにはとても予想をしなかった光景が広がっており、俺は伸びをした状態のまま硬直してしまった。顔が赤くなっていくのを感じ、あわてて目をそらす。

 掛け布団が蹴っ飛ばされて布団から落ちてしまっているのはいいとして、なぜかねまきの上の方のボタンが外れており、胸元が露になってしまっている!

 いけない、これはいけない。

 俺は動悸を抑えながら、冷静な考えに脳内をもっていこうと努力する。

 夜も寒くなくなってきたし、この厚めの掛け布団をかぶせた俺が悪かった。なに、たかが胸元ごとき何でもない。しかもリメルは地球人ではないんだ。そうだ、地球外生命体の皮膚が見えただけ。地球外生命体の胸元が見えただけ。

 ところでこの地球外生命体の身体はどうなっているんだ?人間ととてもよく似ているのだが。

 冷静を維持する予定だったが、少し予定が変わった。俺はそらしていた目を再びリメルの方へ戻していく。

 やっぱり、人間と同じ形状ということは、その、やっぱり、その……。

 よく見てしまうと、小さな胸の膨らみが確認できる。胸の動悸が激しくなり、呼吸が早くなっているのがわかる。

 いや、だめだ、だめ……。


「あら、丈洋さん起きていらしたのですね」

 とんだことを考えていたらいつの間にかリメルが目を覚ましていた。

 俺は驚いた拍子に息を吸い込みすぎて、盛大に咳き込んだ。

「大丈夫ですか?」

 リメルは急いで起き上がり、優しく背中をさすってくれた。

 何て温かい心をを兼ね備えているんだ。

「あ、ありがとう、もう大丈夫だから」

 俺はなんだか少し気まずさを感じ、リメルから少し距離を置こうと台所に向かう。先程の彼女に対する不純な思考、深く反省しております。

「お腹すいてないか?パン焼いてくるよ」

「パン?何ですかそれ」

  リメルは興味ありの表情でそそくさと後ろをついてる。

「そんなことより服のボタン、ちゃんとしめて」

「まあ、私ったらまた……」

 リメルは少し顔を赤くして急いでボタンをかけ直してくれた。これで危険はなくなった。ただ、今の彼女の言動には少しばかり違和感があったがそこは突っ込まずスルーさせてもらう。

 俺は溜息をつきながら冷蔵庫を開けて、ちょうど食パンが2枚余っていたのでそれを取る。冷蔵庫からヒンヤリとした空気が部屋に漏れ出た。

「この箱、中がとても冷たいのですがなんでですか?」

「それは冷蔵庫っていって、冷たい空気を循環させて熱を奪っているんだ。食料が痛まないようにこの中に入れておくのさ」

「へえ」

 リメルは冷蔵庫の扉を全開にして、冷気を全身に浴びながら

「きもちぃ」

「おいやめろ、電気料がもったいない」

 俺はリメルを冷蔵庫から引き剥がし、扉を閉めた。彼女は少しムッとした顔になったがすぐに顔を上げ、

「そういえばでんきりょうって、でんきってなんですか?」

 首をかしげながら、今度はなんでも知りたがる子供の顔をしてやがる。

「おまえ、電気知らないの?」

「知らないから聞いているのですが」

 どうやらリメルの世界には電気がないらしいぞ。いや、でも待てよ。俺たち人間と体のつくりが似ており、こうして地球で生活してても問題ないということは、自然環境もむこうとこちらで似ていると考えて良いだろう。現に向こうの世界に空気と火が存在するのは確認済みだ。

 俺はリメルに質問してみる。

「ちょっとリメルの世界の環境を聞きたいんだが、水とか土はあるのか?」

「ええ、ありますよ」

「生活するのに必要十分な明るさは、何によってもたらされているんだ?」

「それがよくわからないのですが、空中にとても明るいボールが浮いているのです。昔、大物の探検家たちが調査に飛んだらしいのですが、行ったきり帰ってこなくて。それからも数人行っているのですが皆帰ってこないそうで……。あそこは神様の住んでいる場所だと噂されています」

 リメルは『恐ろしい』という感じでそう言ったが、俺は全くそうは思わない。

 だって今話に出た空中に浮かぶ明るいボールって

「こんな感じのやつか?」

 俺は窓のカーテンを開け放った。突如眩しい光が部屋にそそぎ込まれる。

 リメルは窓から空を見上げ、太陽を直視してしまったのか目をきつく瞑ったまま言った。

「そうですよ、まさにこんな感じ……ここの世界にも神様が……」

 これでわかったことは、リメルの世界も恒星による光と熱を受けているということ。自然を構成している要素は地球と大差がない、というよりほぼ同じだ。

 だとすれば電気が生成されていてもいいのではないか。

 それにしても……

「神が住んでいる、ねぇ」

 俺は思わず吹き出してしまった。そんなの古代エジプト人あたりが想像してそうなことだよ。

「な、何がおかしいのですか」

 リメルは少し頬を赤く染めて口を膨らませた。そして、なにか思い出したようにニヤリと笑うと

「いいんですか?そんなこと言っていると神様の裁きを受けることになりますよ?」

 え、いったい何の話?実はこいつ、なんかの宗教の信者だったのか?

「神様を馬鹿にしてはいけません。彼らはときに空から大地を揺るがすほどの轟音とともに、激しい裁きの光で私たちを戒めます。その光に当たった者は重度の火傷を負ったり、最悪な場合は亡くなってしまうんです。私たちはその光を見るたびに……」

「ちょっとまって、その光って電気じゃね」

 俺は話を遮ってそう告げてやった。話の途中から察してはいたが、これは明らかに雷のことを言っているだろう。

「はい?」

「だから、神様がお仕置きに使っているのは電気だと言ったのさ」

 雷に打たれたようとはまさにこのことだ。リメルは目が点になって身動きがとれないでいる。相当動揺しているな。

「ど、どうしてわかるんですか!?」

  ほんとに向こうの世界にの文明が、こっちの紀元前のものと同等ではないのかと思えてくる。

 俺はちょっとばかり優越感に浸り、口角が無意識に上がってしまう。

「これは実は神様の仕業とかそんなんじゃなく、自然の摂理なんだ。こっちでは雷って呼ばれてる」

「カミナリ……」

「雲っていうのは知ってる?」

「はい、空に浮いてる綿みたいなやつですよね」

 さすがに雲は知っているか。説明の仕方は別として。

「そう、実はその雲の中には氷の粒があって、その粒がぶつかり合って電気が蓄えられていく。それが限界に達したときにピカって光る感じかな」

 だいぶ端折って説明したが、電気すら知らない人にはとても理解し難いだろう。

 それでもリメルはこんな雑な説明でも真剣に聞いていた。

「なるほど、そんな原理があったとは知りませんでした。そこで質問なのですが、さっきの説明だと電気は何かがぶつかり合って発生するみたいな感じに聞こえましたが、あってますか?」

「ごめん、そこは難しくなるから言わなかったんだが、素粒子がプラスとマイナスの電荷を帯びることで……ってわかりずらいよなぁ」

 俺は頭を掻きながら説明の難しさを実感する。どうすればわかりやすく伝えられるのか。

「わかりました、少し試してみます」

 今の説明でリメルは何を理解し、何をしようとしているのか。

 彼女はとても真剣な表情で、その場に正座し目を瞑った。そして両手を静かに前に出すと、周囲に白い光の粒が溢れ出す。

「丈洋さん、プラスとマイナスの電荷を帯びさせるにはどうすればいいですか」

 こいつ、自分で雷の原理を試そうとしているのか?

 俺は危険を避けるためにやめさせようとしたが、彼女の顔を見て体が止まった。とても真剣な、母国を守る術をどうしても習得したいとする彼女の姿に、俺は負けてしまった。

 どうせ大した電気量ではないだろうし、今回は付き合ってやろう。

 俺は小さく息を吐いて、リメルの正面に腰を下ろす。

「まず水素原子を大量に抽出してそれらを接触させろ。プラスの電荷とマイナスの電荷の区別はつきそうか?」

 今リメルが何を見ているのかはわからない。ただ両手を体の前に出し、目を閉じているだけ。

「はい、できます」

「そしたらプラスとマイナスの電荷を帯びたものに分けて集合させてみてくれ。あとは力を加えず自然に任せて大丈夫なはず」

 妙な緊張感を覚え、学校でやる実験なんかよりよっぽど楽しいと思った。

 リメルは難所を過ぎたのか、やっと少し顔がほぐれてきた感じがした。さっきまでかなり集中していた様子で表情が一切動かなかった。


「できました、ではいきますよ」


 リメルがそう告げた刹那、白い光が俺の目の前で激しく弾けた。

 それは俺が初めて、電気に対して美しさを感じた瞬間だった。

 リメルはこれを見てどう思っているだろうか。美しいと思っただろうか。


 ――バチチチッ!


 スパークは一瞬で消えたが、三十センチほどの長さがあったそれはいつまでも力強く、まぶたの裏に焼き付いている。

 俺とリメルはしばらくの間、ただ呆然と床に座りこんでいた。


「成功したな」

「はい、すごかったです……」


 この後もしばらく二人で向かい合って座っていた。異様な静寂が空間を支配する。


「あの、丈洋さん」

 先に静寂を破ったのはリメルだった。

「なんか、体が痺れて動かないのですが」

「ああ、俺もだ」



神の裁き、恐るべし。

ほんとにこれで放電現象が起こるかはナゾですw

多めに見てください(><)

もし他に良いやり方ありましたら教えてください。


参考文献http://www.otowadenki.co.jp/knowledge/mechanism/

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