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プロローグ

 

 四月も下旬。だんだん日が長くなってきて、5時限目の講義の帰りも外は明るかった。講義後半目を瞑ってしまっていたためか、目が夕日の明るさを拒絶している。

 もう大学に入学して早1年。振り返ってみると楽しいことも辛いこともない、ただ課せられた勉強をこなすだけの1年だった。小中高で教師たちが口を揃えて「大学はめちゃめちゃ楽しいぞ!」と言っていたのは嘘だった。まだ2年次始まったばかりだというのに膨大な量のレポートに追われ、俺の周りは皆死んだ魚のような目をしている。

 まったく、髪をカラフルに染めてイキイキした面持ちで学校に通う文系学科の末路を呪ってやりたい。

 そんなどうしようもないことを考えながら毎日帰路につく。そしていつも通り、いつもの自販機でいつものお茶を買う。

 百円玉を出そうと財布を広げると、ポケットを逆さにして開けてしまったせいで、カード類が全て地面に散らばってしまった。

「ほんともう、やれやれだな……」

俺は溜息をつきながらゆっくりとしゃがんで、ポイントカードやサービス券の下敷きになった学生証を拾う。まだ楽しいであろう大学生活に期待して、活気にあふれている自分の顔写真がそこにはあった。

 瀬本丈洋。Cランク大学に通う工学部生。平凡な顔、平凡な容姿……と自分では思っているが、それ以下かもしれない。趣味はこれといって無いが、たまにプラモデルを作る。こんな感じの何の変哲もない19歳。

 気だるげにカードを拾い集め、百円玉を取り出して投入口へ入れる。そのとき俺は、なんとなく背後に何者かの気配を感じてゆっくりと首を後ろに動かした。


 ――ザザッ


 いきなり後ろの草木が音を立てて揺れた。明らかに何かいる。

 少し怖くなって早くこの場を去ろうと慌てて自販機のボタンを押した。


 「おお!」


 ……ん?なんか今声がしなかったか?お茶の入った缶が落ちてくるのと同時に、なんか後ろで声がしなかったか?しかも高めの子供っぽい声だった。

 あたりを見渡すが、それといった人影は見当たらない。周囲が暗くなってきた。薄気味悪くなって、早足でその場をあとにした。


 最近女子高生を狙う不審者の情報が出回っているが、今は色々な人がいるから男だって気をつけないといけない。子供のような声を出して、近寄ってきた人をいただく作戦かもしれないだろ。

 そんなことより早く帰ってレポートの続きを書かないといけない。そこから俺はしばらく無心で歩いた。しかし、喉が渇いてきたのをきっかけに、お茶を自販機から取るのを忘れたことに気付いた。アパートまでの帰り道にもう飲み物を買える場所は無いし、限られた少ない金で百円のお茶を一本でも無駄にはできないという思考に至った。もう変な声を出す不審者もいないだろう。俺は走って今来た道を引き返した。

 しばらく走ると小さな十字路がある。結構交通量があるせいか信号が設置されているが、この時間帯はあまり来ない。赤信号だったが、俺は道路を横断しようとした。

 瞬間、視界の端で街灯の光を受けて鈍く光りながらこちらに迫ってくるものがある。

 無灯火車両だ。全く気づかなかった……!時速四〇キロは出ているだろう。車はもうすぐそばまで来ていた。避けられない!

 頭の中が真っ白だ。俺は轢かれることを覚悟し、目を瞑った――。


 体が温かい。今まで感じたことのない、優しく、柔らかな抱擁感が俺の身体に広がっていく――。もしかして、死ぬときってこうなるのか?

 うっすらと目を開けてみる。眩しい。目を細めて、視界に入ってくるものが何なのかを認識しようとするが、光の粒に邪魔されて何も見えない。

 そこに、どこからともなく穏和な女性の声が聞こえてきた。


 ――――大丈夫。今助けてあげるから――――


 何が起こっているのか分からないまま、今度は自分の身体が急に横へ移動する感覚を受け、ほのかな甘い香りが鼻腔をくすぐる。


 突然視界が開けて、気が付くと俺は地面に倒れていた。眩しい光の粒は消えており、周囲を見渡すと、そこはさっきまで走っていた見慣れた路地だった。どうやら轢かれずに十字路を渡りきることができたようだ。

 さっきぶつかりそうになった車の音が遠ざかっていく。俺は今の不思議な現象や出来事を受け入れられず、しばらく放心していたが、さらなる異常な事態に目を見開く。

「あの、どちらさまで……」

体が重いと思ったら、暗くてもわかるプラチナのような綺麗な長い銀髪を腰のあたりまでのばし、黒いローブを纏った十五、六歳くらいの少女が、俺の腹に顔をうずめて倒れていた。

「てか、おい大丈夫か?」

俺は無意識に両手を上に挙げたまま、腹の上のそれに向かってたずねる。

 決して自分から触れてはいけない。痴漢と思われて大声を出されたら、この両手が後ろで固定されてしまう。

「むふぅ……」

少し苦しそうに少女が顔を上げ、俺と目が合う。途端に俺は呼吸をまともに出来なくなった。

 透き通った紫色の瞳に、桜の花びらのような唇。綺麗な張りのある肌。その整った顔立ちは、MMOゲームから飛び出してきたのではないかと思ってしまうほどだった。

「無事だったのですね、お怪我はありませんか?」

彼女がほっとしたようにその美貌で微笑んでくる。俺は首を縦に振ることしかできない。

「この液体をあなたがお忘れになったので、届けに行こうと探していたんです。そしたら丁度見つけたときに、硬そうな動物に突進されて殺されそうになっているところでして……」

見ると少女は、右手に俺が自販機で買ったお茶の缶を持っていた。彼女が言っていることは本当なのか。

「つまり、君が俺を助けてくれたと?」

「はい、頑張りました!」

可愛くガッツポーズを決め、また嬉しそうに微笑んだ。見てるだけでこっちの頬が緩んできそうだが、必死に冷静さを装う。

「そうか、ありがとう。でもどうやって」

「時間を止めました」


 「――は?」


 聞くところによると、彼女は限られた時間だけ空間を操ることができるという。俺を助けたときは、車とぶつかる手前で時間を止め、急いで走って制限時間ギリギリで俺を突き飛ばし、救出に成功したらしい。得意げに説明してきたがやっぱり何を言っているのか理解できないし、なにより事態が思ったより間一髪だったことに冷や汗をかいてしまう。

「まあ、その、助けてくれてありがとう。そのお茶はやるよ」

理解できない上に、命の恩人にどう接していいか分からず、とりあえず立ち上がり際にそう言った。

「この緑色の物ですか?ほんとですか!?ありがとうございます!」

彼女は心底嬉しそうに缶を両手に持ち、興味深そうに見回している。

「もう遅いからそろそろ家に帰らないと。立てる?」

俺はいつまでも地面にペタンと腰を下ろしている少女に手を差しのべる。

「そのことなんですけど……」

すると少女は急に決まりが悪いという表情になり、突然俺の足にしがみついてきた。

「先ほどあなたを助けたときに力を全部使ってしまってたてないんです。それとここには帰る家がありません。どうか、助けてください!」

 ­­­­はい?どいういことですか?

 わけがわかりませんという俺の顔を見て、目に涙を滲ませながら彼女は続けた。

「私はここの世界の者ではありません。この地球という場所で課せられた使命を果たさなければ、私の友人達や村の皆が、いえ、国の皆が苦しい思いをしてしまう。ぐすっ、、ねえ、命を救ってあげたでしょう?ぐすっ、どうかだずげで〜!」

駄々をこねる子供と化した。

たしかに、髪や目の色から見て地球外生命体だと言われれば納得はできないが、まあそうなんですか程度の反応には至れる。そして気になるのは、もし本当に地球外生命体なのだとしたら、地球に何をしに来たのか。

俺は実はその手の話が結構好きだったりして、たまにテレビで放送されるUFOやUMAの映像特集は、いつも釘付けになって見ていた。

「まさか、地球侵略をねらっているのか」

「いえいえ、まさか」

少女はあわてて首を激しく横に振る。同時に長い銀髪がふさふさと揺れ、さっき光の粒に囲まれていたときに嗅いだのと同じ甘い匂いが周囲に香る。

 ­­やはりあの現象を起こしたのはこの少女だとしか考えられなくなった。

「私は科学というものを学びに来たのです」

少女ははっきりとそう言った。

 まあ地球の科学技術は大進歩をとげ、注目を浴びていることだろうさ。だからこの理由はわかる。しかし、空間を操れるほどの技を使える生物はもっと別な魅力的なものがあるだろうと思うのだが。

「科学を学んでどうするの?やっぱり地球侵略?」

「私の住んでいる世界では、制限はありますが自然のものを自由に操作できる力を皆が持っています。いわゆる魔術というものです。その力を駆使して国どうしで争いが起きようとしているんです。私たちの国は魔力が弱く、他国に比べて発展もしていない。何か打開策はないかと考えたあげく、地球の科学技術に目をつけたということです」

話の筋がややこしい。

「いや、それは急な話で、魔法が駄目なら科学にしようっていうのは極端すぎる。魔術についてはよくわからないけど、なんとか魔法を強化できるように魔力を増やす術を見つけた方がいいんじゃないか。科学だってそうすぐには発展しない。今この地球にあるものは、長年の知恵と努力の賜物なんだぞ」

どれだけ学習能力が高い生物なのか知らないが、この膨大な分野を網羅しようとしてるのであればそれは無理だろう。

「魔力とはその土地の資源のようなもので、人工的に増やすことはまだどこの国も出来ていません。そして科学についてなのですが、実は私たちの魔術と繋がりがあることがわかったのですよ」

少女は微笑みながら両手を胸の前で合わせる。すると、手の隙間から微かな赤い光が漏れ始めた。

「例えば、魔術によって炎を出す場合」

そう言って合わせていた両手を肩幅くらいに開くと、その中央でポッと小さな炎が生まれた。

 俺は驚いて目を見張る。魔法だ。マジなやつだ。内心密かに興奮していた。少女は嬉しそうな表情を浮かべている。

「ふふ、驚きました?でもこれは何の工程もなしに出来るのではありません。まず、この大気中にある塵などの可燃物を瞬時に集めて個体化し、それに高温の熱と酸素を与えることで炎が発生します。これが魔術によって炎を出す基本事項です。ねっ、科学でしょう?」

なるほど、たしかに科学だ。しかし、今まで神秘的なものだと思っていた魔法が、こうも現実的な現象だったとわかるとなんか悲しくなってくる。

「あ、ああ、驚いたよ。なるほどな、科学は君たちの魔術の発展材料にもなるってことか。だいたい繋がりは理解したから、どんなことがしたいのか言ってくれれば知恵を貸すよ。命の恩人だしさ」

まだ自分は学生の身で、どこまで力になれるかわからないが、助けてあげてもいい気がしてきた。

「ほんとうですか!では早速なのですが……」

少女は満面の笑みで俺のことを見上げながら


「あなたのお家に住まわせてください!」

これからぼちぼち書きたいです。

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