幼稚園とは
幼稚園とは、とにかく子供達が騒がしい。
この幼稚園は住宅地からも離れた河川敷にあるから、どれだけ五月蝿くしても苦情はないと母親は嬉しそうに言っていたが、子供が五月蝿いのは当たり前なのだがと思う。
でも、先生は大変そうだ。
五才の子供に纏まりは無いから、皆んな好き勝手に動き回っている。
「わたし、うまくやっていけるかな?」
考える私は五才。
先生達の方では無く、子供達の側なのだ。
「ね、あなたなまえは!」
どうしようかと戸惑っていると、女の子が先に声を掛け来た。
子供って積極的だ。
「みおだよ」
「わたしは、なるみ!同じ『み』だね」
ここで『み』が同じだから何とか言っては行けないのだろうね。
「うん、同じだね」
お互いの手を取ってはしゃぐ。
何だか、最近幼児後退している気もするけれど。幼児なのだし、良いよね?
なるみちゃんは黒髪をショートにした見た目通りに少し活発な女の子の様だ。
二人で手を取って、はしゃぎ回る子供たちの方に向かう。
「みおちゃんは何がすき?」
「へ?」
「わたしは、イチゴが好き」
なるみちゃんの突然の質問に言葉を失ったけれど、食べ物だった様です。
うん、目の前の男の子が開いている絵本が食べ物の絵本ですね。
「わたしは、リンゴかな?」
あの真っ赤な果物は、向こうの世界に無かった食べ物で、母親が私に離乳食として食べさせた初めてのこの世界での食べ物でもあった。
食感も好き。
最初こそバラバラだった園児達だが、流石は先生。
いつの間にか園児達を集め、ピアノを弾き歌い出す。
これってテレビの歌だね。
子供向けに流れているテレビの歌だ。
私はあまり子供向けの番組には興味がないと言うか、少し嫌なのだけれど。母親が変えるのだから仕方がない。
私としてはニュースが見たいのだけれど、変な行動が出来ないから素直に幼児番組を見ている。
そう言えば、テレビと言うものを理解するまで、私はテレビに恐れおののいていた。
テレビの様な道具など、魔具でも無かったのだから当然なのだけれど。
テレビが別のところから電波で映像を送って受信し、映すモノだと理解するまで私は本気で危険な魔具だと勘違いしていたのだから。
なるみちゃんと手を繋いだまま園児の輪に加わり。知っている歌だったので、皆と歌う。
少し、いやかなり恥ずかしいけれど。
変に目立ちたくはない。
この国で魔女何て信じられてはいないけれど。魔女などと、言われない様にしなければ成らない。
あの何も知らない、優しい家族の為にも。
歌の後は、食事とお昼寝の時間だった。
お腹が膨れれば、眠くなるもの。
私は、お友達に成ったなるみちゃんと手を繋いだまま眠りについた。何だが、馴染みすぎて怖いのですが。
お昼寝が終わった後は自由時間なのか、またそれぞれ好きな事をしている。
年少の私達は外に出しては貰えず。室内で、絵本や積み木で遊んでいた。
なるみちゃんも私の横で動物の絵本を開いている。
向こうの世界では、生き物の知識は生きる為の知恵だったが、この世界では子供の娯楽なのだから意味が全然違う。
この国で普通に暮らしている限り出会う生き物と言えば、イヌやネコ。
そのイヌだって凶暴な種は少ない。ネコに至っては危険など先ずない。
向こうの世界では、そうは行かない。
一見、ネコに似た大きさも同じくらいのガガと言う生き物いや魔物がいるのだが、こいつが素早い動きをするだけで無く。首筋を狙って来る攻撃をして来るものだから、単独の場合は全身鎧でもなければ逃げろと言われる程の危険な魔物だったりする。
だから、私はネコが苦手だ。
「ネコさんかわいいよね」
「そ、そうだね」
絵本とは言え、つい腰が引けてしまうのはトラウマからでしょうか?
その後は、なるみちゃんと動物の絵本を見てはしゃいでいた。
迎えの時間が迫って来たのか、先生達が慌ただしい。
帰りの用意をする様に言っているので、私も園児カバンを用意して、なるみちゃんと迎えを待つ。
先に来たのは、なるみちゃんのお母さんだった。
なるみちゃんのお母さんは、なるみちゃんととっても似ていた。まさに親娘って感じでが、お母さんはスーツ姿でテレビで見るキャリアウーマンって感じを受けた。
テレビの影響って、私も慣れたものよね。
この世界に転生して五年、慣れるには十分な時間。
なるみちゃんのお母さんと挨拶して、なるみちゃんを見送ると一人に成った。
まだ、私が話すのは、なるみちゃんだけだ。
明日は、なるみちゃんと遊びながら他の子とも遊ぼう。
友人関係は大事だからね。
そうして待っていると、母親ではなく。兄が迎えに来た。
「お兄ちゃん!」
「みお、迎えに来たよ」
迎えは良い。
それは良いのだけれど、何故、兄は両手に花で迎えに来たのだろうか?
「こんにちは、みおちゃん。私はソトガワ・ハルカ、お兄ちゃんとは同級生なの」
「ハルカ、抜け掛けはズルい!あ、私はトモヤマ・ナツナ。同じく同級生で同じクラスよ。ナツナお姉ちゃんて呼んでね」
「抜け掛けはナツんじゃない!」
何だろうねこの二人。
ちらっと兄を見れば笑っていた。
「みお、帰ろうか」
兄は私の手を取って先生に挨拶した後、四人で帰宅する事に成った。
年上の記憶を持つ私からすれば、兄は子供だがどうやら、兄はモテるのではないか?
「お兄ちゃん、モテモテ?」
「いや、どうかな」
「そうよ。お兄ちゃんはモテるのよ」
兄はそっと私から視線を外すけれど、答えはハルカから聞けた。兄を見れば照れている。
「それよりも幼稚園はどうだい?」
「おともだちできたよ、なるみちゃんて言うの」
「そうか」
兄が誤魔化したがっているので、今はそれに乗っておくとしよう。
私は、兄想いの妹なのだからね。