狂乱と苦痛
ピアノの音が響くと共に、観客達の目に精気が宿る。いや、それは精気というより狂気と呼ぶのが相応しいか、、、
そして木石の如く動かなかった連中が、赤く目を血走らせながら、そろそろと立ち上がる。
「ぬう、、、まずいぞぃっ!」
室田の叫びに有働が応じた。
「確かにヤバい空気だな、動きはトロいが数が多過ぎるっ!一先ず俺達も下に降りるからよ、楓ちゃん、兄弟、それまで持ちこたえてくれっ!!」
「当然っ!!」
「ダレに・ものヲ・イッテいる!!」
楓が孫六ブレードを抜き、ニコライもハンドガンを構える。
しかし、、、、
「ならん!殺してはならんぞぃっ!!」
「な、、、?」
「!?」
室田の台詞に楓とニコライが、信じられない物を見るかの様な目を向けた。
「オイオイ!爺さん正気かっ!?こいつらはどの道死ぬ運命の死刑囚だぜっ!?」
「それでもじゃっ!!ワシ等の敵はミミックであって人間では無い。人間を救う為の旅で人間を殺しとっては主客転倒じゃろうがっ!!」
「チッ!お得意のヒューマニズムってか、、、~ったよっ!!ただし手足の1~2本はイカせて貰うからよ、そこは目を瞑れよなっ!
オイッ!ヤコブッ!!聞こえてっか?とりあえず俺達も下に向かうぞっ!!」
(ザ~、、、ガガ、、ガガガ、、、)
「ヤコブッ!?」
「あ、あぁ、すまない、、、インカムの調子がどうも、、、わかった、一足先に下に向かうっ!!」
「ったく、どうりでさっきから無口だと思ったぜ、、、とにかく頼んだっ!俺も直ぐに追い付くっ!!」
通信を行っている間に動き出した観客達は、目につく者を無差別に襲い始めた。
前後左右、手近に居る観客同士で
殴り合い
蹴り合い
投げ合い
噛みつき合う、、、
その動きはゾンビの如く緩慢ながら、一切の容赦が無い。やはり人間らしさや理性は完全に失われているらしい。
背後から襲われぬ様、最奥の壁際に室田を押しやり、その前に立ち塞がる楓とニコライ。
幸い暴徒と化した観客達は未だ同士討ちに夢中で、室田達の方へは意識を向けていない。
しかしそれも時間の問題と言えた。
そして、、、
「クッ!、、、あれ、、、?」
楓が頭に手をやり、、、
「グゥッ、、、」
ニコライが顔をしかめる、、、
「ぬぅ、、、こ、これか?お、お主が言うておった苦痛っちゅうのは、、、?」
そう言いながら室田は、頭上高くで指を躍らせるショパンへと視線を投げた。
「フフフッそうだよ♪ある高音域では強烈な頭痛が襲い、そして、、、」
ショパンが言うなり、今度は皆が腹部を押さえながら腰を折る。
「クウッ、、、」
「グハッ!」
「ンヌゥ~、、、」
「ある低音域では内臓へと衝撃が走るのさ♪」
まさに見下しながらショパンが言い放ったその時、ホール1階の扉が勢いよく開いた。
飛び込んで来たのはヤコブ、そしてその右手にはS&W(スミス&ウエッソン)M686コンバットマグナムが握られていた。




