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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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観客の秘密

1曲目を弾き終えるとショパンは手を止めた。


直ぐに2曲目に入るかと思いきや、なかなか演奏は始まらない、、、

室田が怪訝な目を向けるとショパンは、身体ごと室田の方を向き足を組んで微笑んでいた。


「なんじゃい、続けんのか?」


「少しお話しようかと思ってさ」


「、、、良いのか?ワシ等に時間的余裕を与え、起爆までの時間が延びる事になるんじゃぞ?」

真意を探る様にショパンを睨む。


「たかだか数分の事、大して変わらないよ。それよりさっき言った事について貴方と話したいからさ」


「、、、、」

室田は答えずホール内を見渡す。

すると演奏が止まっている事に気付いたニコライもこちらを見ており、2階からは有働もステージを見下ろしていた。


「気にせんでええっ!!主等は爆弾探しを続けてくれぃっ!!」

室田が叫ぶ。

さすがは音楽ホールだけあって、生声のままでもその声はよく通った。しかし、、、


「このジジイッ!デケェ声出すなバカッ!インカム入ってんだから普通に話しゃいいんだよっ!!」

仕返しとばかりに有働も怒鳴り、、、


「まだ耳がキーンって言ってるわっ!!」

キレ気味に楓が言うと、、、


「ツイに・ボケた・カ?」

ニコライも罵る。


ヤコブからの通信は無かったが、まさに非難轟々である。


「お、おぉ、、、すまなんだ、すっかり忘れとったわ。とにかく皆はそのまま作業を続けてくれぃ。大音楽家の先生が何やら話したいらしいでな、、、内容はインカム越しに皆も聞こえるじゃろう、探しながら聞いといてくれ」


言い終えた室田が再びショパンを睨む。

「で、、、何を話したいんじゃ?」


「さっきの続き、可聴域外の音の事だよ。一般的には、ただ聴き取れないだけと思われてるけどさ、僕は見つけたんだ。

精神、肉体に苦痛を与える音域を、、、ね。

それを今から体験して貰うんだけど、もう1つ話しておきたい事があってさ」


ギリリと歯を鳴らす室田に、ショパンが更に問い掛けた。

「アウシュビッツ研究所、知ってるよね?」


「無論じゃよ、、、悪名高きその名を知らぬ者などおるまいて」

吹き出る嫌な汗、それを拭いながら室田が答えるとショパンは突然立ち上がり、両手を広げながらオペラ歌手さながらに声を高めた。


「ここに居る観客達っ!!

彼等は皆、世界中から集められし死刑囚さっ!!そしてこの罪深き者達は、アウシュビッツにて僕の友人による手術を受けているんだっ!!」


「手術、、、友人、、、じゃと?」


「うん、貴方なら知ってるんじゃないかな?

ヨーゼフ・メンゲレの名を、、、ナチスに仕えた医師、死の天使と謳われた男さ」


「なっ、、、!?」

声にならぬ声をあげ、室田が付近の観客に目を向けた。

すると凝視せねば判らぬほど目立たないが、額の部分、髪の生え際辺りに傷痕らしき物が確かに見える。


「ま、まさか、、、脳手術(ロボトミー)か?」

唸る様なその言葉に、ショパンが満足そうに頷く。


「ピンポ~ン♪今回はちゃんと答えてくれたね、その通りだよ流石だね!

この連中はヨーゼフにより前頭葉をチョチョイと弄られててね。普段は廃人同様なんだけど、不可聴域のある音域を聴かせると、共感覚の一種を引き起こすんだ。ほら、よく音に色を感じたり、味に形を感じたりする人が居るでしょ?あれと一緒でさ、この連中はその音域を聴くと恐怖心や破壊衝動を感じる、、、そして周囲に居る者を無差別に襲い始めるんだ。貴方達は苦痛を感じる中、彼等の襲撃を防ぎながら宝探しをする訳さ、、、どう?面白いでしょ♪」


「良いのか?その話が本当ならば、お主も襲われる事になるんじゃぞ、、、」


「フフフッまさかまさか、ラスプーチンじゃあるまいし、僕はそんなにバカじゃ無いよ」

そう言うとショパンが指をパチリと鳴らした。

するとステージの床がせり上がり、ピアノごと天井付近まで持ち上がった。


「僕はここで演奏しながら、残酷な光景を楽しませて貰うよ。まさに高見の見物だよね♪

あ、脳手術を受けてるとは言え普通の人間だからさ、殺す事は出来るんでそこはご自由に。

それとモニターやCPUを破壊すれば、即座に起爆する事になってるんでそのつもりでね。

ついでに言っておくけど、ピアノを破壊するのはOKだよ。ただし爆弾を解除する手段が無くなる訳だから、、、そんな真似は出来ないでしょ?」


「ならばお主自身を撃ったならどうなるね?

観客の動きも止まり、爆弾が起爆する事も無くなる、、、まさに万々歳じゃろ」

怖い笑みを浮かべながら問う室田。

しかしそれをいなす様に微笑むとショパンは、着ていたワイシャツを胸元まで捲り上げた。

そこには何かの装置が貼り付けられているのが見える。


「これは僕のバイタルサインを読み取る装置でね、異常を感知したらこれまた即座に起爆する仕組みなんだけど、、、試してみる?」

勝ち誇った顔を向けられた室田、米噛みを掻きながら苦渋の表情で呟く。


「よう出来とるわい、、、」


「そういう事!貴方達に残された道は1つ。

いち早く爆弾の所在を突き止め僕に報告し、別れの曲をミスタッチ無しで演奏して爆弾の動きを止める事だけなのさ。

話が少し長くなっちゃったけど、そろそろ2曲目に入るとするかな♪」


ショパンが再び椅子に座りピアノへと向き合う。

そして目を閉じると、愛撫するかの様にその指をゆっくりと鍵盤へと触れさせた。


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