開演
「とりあえず、、、だ。ピアノを弾けるのがヤコブの大将しか居ねぇ事は変えようのねぇ事実なんだ。解除の件は大将を信じるしかねぇ。それよりも先ずはチックタック鳴るやつを見つけるのが先決、、、だろ?」
「確かにね、、、見つけない事には解除も出来ない、、、」
「じゃな、、、」
「15フン、、、か、、」
各々に言葉を並べるメンバーに反し、プレッシャーからかヤコブだけは押し黙っている。
そんなヤコブを励ますべく肩を叩いたのは、意外にも有働だった。
「ようよう大将!なんてぇツラしてんだよ。
俺達全員がアンタを信じるっつってんのに、アンタ自身が自分を信じねぇでどうすんだよ!?」
「解っている、、、解っているが、俺のミスはここに居る全員だけでは無く、人間社会の崩壊に直結する。やり直しのきかないミッションだ、、、重圧を感じるなという方が無理な話だろ」
ここに来てまだ弱音を吐くヤコブ、、、有働はその首根っこを引き寄せ、頬が着く程に顔を寄せるとその耳元に小声で囁いた。
(おい、こいつぁアンタが楓ちゃんに相応しい男かどうかの試金石だぜ、、、アンタに惚れた女、アンタが惚れた女、どっちでもいいが大切な女ならその手で守って見せろや、、、
ピアノ弾けるんなら俺が代わりてぇくらいの美味しい役割だぜ。しかし残念な事に俺はピアノが弾けねぇ。悔しいけど譲ったるわぃっ!!)
ヤコブがぎょっとした表情で有働を見た。
ヤコブとて、有働が楓に気がある事くらい気付いている。それなのに有働はヤコブと楓の間を認めるとも取れる発言をした、、、
その事に驚いたのだ。
己の心を殺してまでくれた励ましの言葉、それを聞いてヤコブの顔が男の物へと変わった。
それを見届けた有働は微笑みながらヤコブの胸を叩くと、ショパンへと向き直る。
そしてポケットから取り出したコームで髪を撫で上げると
「よう、こっちは準備完了だぁ、、、そろそろ始めようや」
そう言って頭頂部へ達したコームをショパンへと向けた。
「あ、準備OK?ならお言葉に甘えて始めさせて貰おっかな♪そんなゆとりは無いだろうけど、僕のピアノ存分に楽しんでよ」
そう答えたショパンがジャケットを脱ぎ、ネクタイを外して椅子へと腰掛ける。
そして悦に入った様に目を閉じると、官能的な表情で白黒のストライプへとその指を躍らせた。




