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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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脱魂

「え、、、お前が?、、、ピアノを?」

有働がヤコブへと訝しげな目を向ける。


「何だよその目は、、、不服そうだな?」


「いや、人は見かけによらねぇもんだな、と」


(バシッ!!)


「ってぇ~!!」

薄笑いで皮肉を吐く有働の頭を、楓が光の速さではたいた。


「ここは素直に感謝するとこでしょっ!!

それに見かけによらないって何よっ!?この中でピアノが一番しっくり来るのはヤコブじゃん!1人は小便垂れの偏屈爺い、、、1人は鍵盤を一気に2つは叩いちゃいそうなデカい鉄の手、、、極めつけはヘビ革スーツでリーゼントの変人ときてる、、、そうなるとヤコブ以外に誰が居るってのよっ!?」


「、、、、」


「、、、、」


とんだ貰い事故でディスられた室田とニコライの2人、、、どんより雲を背後にした様な佇まいで押し黙っている。

それを見たヤコブが慌てて楓の肩を叩いた。


「お、おい、、、楓、、、」


「いいから貴方は黙ってて!このバカには1回ちゃんと解らせないとっ!!」


「いや、、、そうでは無くて、、、」

小声で答えながらヤコブが、目線だけで室田とニコライの方を指し示した。

それを追って楓の目線も2人へと動く、、、


「あ、、、」

そこには「チ~ン」という効果音が聞こえそうな程に凹んで、置物の如く動かない2人の姿があった。

そして寂しそうな笑顔を浮かべ、静かに室田が口を開く。


「そうじゃろう、そうじゃろう、、、

どうせワシは小便垂れで偏屈の耄碌爺いじゃろうて、、、」


「い、いや、、、耄碌とは言ってないし、、」


「ソウだよナ、、、このテ・デハ・けんばん・ノ・2つや・3ツ・いっき二・タタいてシマウ、、、いや、、、ソレどころカ・ピアノ・そのモノ・すら・ハカイ・しかネン、、、よな」


「いや、あのぅ、、、ニコライ?そこまで言ってないんだけど、、、」


いじけ虫2匹を宥める楓の背後では、天を仰いだ有働が口から魂を吐き出し、脱け殻の様になっている。

無理もない、、、

惚れた女がヤコブを擁護した上に、自分に対する認識はヘビ革・リーゼント・変人である、、、これ以上の地獄があろうか、、、

涙が溢れぬ様に上を向いたままで有働は思った


(シェークスピアにも匹敵する悲劇だわ、、、これは映画化キボンヌ、善兵衛も泣くっちゅうねん、、、)


灰の様に真っ白となって立ち尽くす有働の肩を、ヤコブが揺すりながら必死に呼び掛ける。


「おいっ!流石っち!しっかりしろ!戻れ、、、戻って来るんだっ!!」


そんな光景の中、突然ショパンの無邪気な笑い声が大きく響いた。


「ハハハハッ!!君達どっかの劇団の人?面白い寸劇楽しませて貰ったよ♪

でもピアノ演奏会の前座にはちょっと相応しくないかなぁ、、、だからそろそろ本番を始めたいんだけど?」


その言葉で室田、ニコライ、有働もようやく正気を取り戻し、全員が期待の目をヤコブへと向ける。

だがここで室田が1つの疑問を口にした。


「ところで、ピアノをやっていた事は解ったが、、、お主キャリアはどれ程のもんなんじゃ?」


それを受けたヤコブが、1つ咳を払って神妙に答える。


「10歳から12歳までの2年間習っていた」


「、、、、」


「、、、、」


「、、、、」


「えっと、、、ヤコブ?、、、それってつまり、、、20年くらいブランクがあるって事、、、かしら?」


「、、、まぁ、、、そうなるな、、、ハハハ」


頭を掻きながら首を竦めるヤコブだが、その前では今度は楓も含めた全員が、白目で天を仰ぎながら口から魂を吐き出していた。


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