ショパンのモノサシ
「な、、、オイオイ、、、その話、ちょっとおかしくねぇか?」
ゲームの内容を聞いて、有働が待ったをかけた。
「と、言うと?」
「さっきアンタ言ったよな?時間にして15分、3曲弾き終えた時点で爆発するって。
それなのに解除するには第4の曲である(別れの曲)の演奏が必要ときたもんだ。
確か別れの曲って4分半くらいある曲だよな?
て事はだ、仮に13分で爆弾を発見出来たとしてもよ、それから4分以上ある曲を弾いてたら、タイムリミットの15分には間に合わねぇ。
つまり実質は10分程で爆弾を見つけなきゃならねえはず、、、なのにアンタはタイムリミットを15分とハッキリ言い切った。
ここにどうも違和感があってね」
真顔で疑念の矢を射る有働と対照的に、何故かショパンは愉しそうである。
その証拠に目を輝かせながら、弾む様な口調で答え始めた。
「うわぁ♪D様の言ってた通りだね!本当に切れ者なんだぁ!!
えっと、、、有働君、、、だったっけ?
君の言う通りだよ、よくそのカラクリに気付いたね!
実はこの爆弾はある仕掛けが施してあってね、、、僕が演奏を始めると起爆待機状態になり、3曲目最後の1小節を弾き終えると爆発する仕組みなんだ。
つまり僕がスムーズに演奏を終えたなら15分で爆発するけど、逆に言うなら最後のフレーズを弾かない限りは爆発しない、、、」
「なんじゃ、、、そんな事なら、お主の演奏を力づくでも邪魔すりゃええっちゅう事か?えらい簡単な話じゃのぅ、、、」
拍子抜けした様に呆れ顔で言う室田であったが、それを上回る呆れ顔を見せたのがショパンであった。そしてその表情のまま人差し指を振り、チッチッと舌を鳴らす。
「そんな甘い話な訳無いじゃん、お爺ちゃん、、、この爆弾にはもう1つ起爆ルートがあるんだよ。
僕が演奏の手を止めて一定時間が経つと、最初の起爆待機は解除される代わりに、別の起爆スイッチが入るんだ。そしてそれを解除する為には、、、」
「別れの曲、、、って訳かぃ」
低く唸る様に言葉を転がした室田。
「ピンポ~ン♪その通り!
15分以内に爆弾を発見して僕の手を止めて、今度は君達の手で別れの曲を弾き終えたら完全に爆弾は解除される。ミスタッチ無しでね。
どう?よく出来てるでしょ?」
「いや、てかさぁ、、、」
絶賛 自画自賛中のショパンへ有働が口を挟む。
「ん、、、何だい?」
「そもそも俺達の中に、ピアノ弾ける人間が居るかどうか、、、なんだが?」
「、、、、」
ショパンが無言で固まる。
「、、、、」
有働も無言で次の言葉を待つ。するとショパン
「え、、、ピアノ弾けない人間なんてこの世に居るの?」
愕然とした表情でそう言い放つ。どうやら本気でそう思っているらしい。
「いやいやっ!弾けない人間の方が圧倒的多数派だからよっ!!」
「そうなんだ、、、あ、でも大丈夫!
何も流れる様に1曲弾き終えろって言ってるんじゃ無いからさ。
とにかくミスタッチせずに全ての音符を弾けばOK、、、たとえそれが全て単発で鍵盤を叩いた、曲として成り立って無い物でもね。
ホラッ!楽譜もちゃんと用意してるしさ♪」
その返答に頭を抱えた有働。
「いや、あのさ、、、楽譜を読めない人間も圧倒的多数派だから、、、」
「、、、それって人としてどうなの?人じゃない僕が言うのもなんだけどさ、、、」
又も愕然とするショパンに、いよいよ有働の口調も荒くなる。
「バカッ!テメェのモノサシで物言ってんじゃねぇぞっ!!大体この面子見てよ、『ピアノやってましたぁ♪』なんてキャラが居るとでも思ったのかよっ!猛省しやがれっ!!」
「えっと、、、流石っち、、、ちょっといいか?」
ここでヤコブが申し訳無さそうに口を挟んだ。
「んだよっ!?」
面倒くさいとばかり、ぶっきらぼうに答えた有働だったが、、、
「いや、昔、、習っていたんだ、、、ピアノ」
ソロリと言いながら、小さく手を上げるヤコブがそこに居た。




