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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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無理難題

「とりあえず座りなよ」

相変わらず親しげな口調でショパンが言う。


「その前に訊きた、、、」

言いかけた室田だったが、ショパンが人差し指を口許に立てて見せた為、思わず口をつぐんだ。


「まぁまぁ爺さん、とりあえずは座ろうぜ」

有働に促され、不満げながらも腰を下ろした室田。続いて他の面々もそれに倣う。


「うひょ♪さすがに座り心地抜群!」

有働は子供の様に腰を跳ねさせて、座席の感触を楽しんでいたが、その横で立ったままのニコライに気付いた。


「どしたの?」


「、、、セマくて・すわレン」


巨体のニコライには、肘置きで仕切られた形の座席は窮屈過ぎて座れない。

飛行機の時もそうだったが、肘置きを外した上で2座席が必要となるのだ。


そんな仁王立ちのニコライを見て状況を察したショパン。


「あぁ、ごめんよ~、、、そこまで大きい人が居るとは思って無かったから、、、ちょっと待ってね、直ぐに用意させるからさっ!」


申し訳無さそうにそう言うと、パチンと指を鳴らして見せる。

すると先のドアボーイが、2人がかりでロビーに設置されていた長椅子を運んで来た。

それをドスンと通路へと置き、又も嘘臭い笑顔を浮かべる2人。


「失礼致しました。どうぞお寛ぎ下さいませ」

その言葉を残すと、慇懃に頭を垂れてから出て行った。


「あら♪兄弟、スペシャルシートじゃん!」

早速有働が冷やかしにかかる。

それを一睨みしたニコライは


「ゲセぬ、、、」

巨大な我が身に恨み節を溢しながらも、椅子を壊さぬ様におずおずと腰を下ろした。


穏やかな笑顔を浮かべながらその様子を見ていたショパンだが、全員が着席したのを見届けるとパンパンと2度手を叩き、一行の視線を自らへと集める。


「じゃあそろそろ始めようと思うんだけど、、、これがD様のゲームの一環だって事は理解してくれてるよね?」


「フンッ当然じゃ!くだらん事を言うとらんで、とっとと始めたらどうじゃ!?」


「ハハハ、話には聞いてたけど本当に口が悪いなぁ、、、でもコンサートにはMCってのも付き物でしょ?もう少し僕の話に付き合ってよ」


「、、、、」

己の不機嫌を隠しもせず、ムス~と音が聴こえそうな程に睨む室田。

だがショパンは臆す事無く更に続ける。


「先ず、今日の演奏は4曲を予定してるよ。

『3つのノクターン』3曲と、最後に『別れの曲』なんだけど、、、」


語尾の弱まった事に有働の目が光った。

「なんだけど?」


「ん~、、、その4曲目の演奏者は僕じゃ無いんだ、、、それどころか場合によっちゃ演奏無しになるかも知れないんだよね、、、」


「、、、話が見えねぇ、どういう事った?」


「うん、言いにくいんだけどね、、、3曲目が終わる迄に見つけ出して欲しい物があってさ、それを時間内に見つけ出して貰え無かった場合、4曲目が無くなるって寸法なんだ」


「見つけて欲しい物、、、それってまさか、、、」


「お察しの通り、爆弾だよ♪」


「、、、、やっぱり、、、で?」


「それはこの大ホール内の何処かに設置されててね、約15分で爆発する事になってる。

あ!でもまだタイマーはスタートしてないから安心して。僕がピアノの音を奏でると同時にカウントダウンが始まり、3曲目を弾き終えると同時にボンッ!!って訳。

1曲目の第1番変ロ短調が5分8秒、、、

2曲目の第2番変ホ長調が3分35秒、、、

そして最後の第3番ロ長調が6分8秒で計14分51秒。曲間にそれぞれ数秒挟むから、タイムリミットは15分ジャストと思ってくれていいよ」


「なるほどね、結局はゆっくり座ってクラシック鑑賞とはいかない訳だ、、、で、そのボムちゃんを発見したら、どうやって御機嫌を窺えばいいんだい?」

顎をさすりながら、独特の言い回しで爆弾の解除方法を問う有働。

しかし返って来た答えに、その手は動きを止める事となった。


「なぁに、そんなに難しい事じゃ無いよ!

爆弾の在り処が判ったら、直ぐ僕に声をかけてよ。それが正解だったら僕は即座に演奏を止める。そして君達の誰かが、僕の代わりに4曲目を演奏するのさ。

第3番ホ長調、、、別れの曲をね。

これをミスタッチ無しで弾き終えられたなら、タイマーはストップするよ。ただしミスした時は、、、言わなくても解るよね?」


「ああ、言わなくていい、、、聞いたら吐いちまいそうだわ、、、」


頭を抱える有働を横目に、今度は室田が口を開いた。

「で、この動かぬ観客と、そのモニターだらけのふざけたピアノは何んなんじゃい?」


「この人達は単純に人質でもあるんだけど、今は催眠にかかって貰ってる。そしてこのピアノはその催眠と関係してるんだけど、、、それは後のお楽しみさ♪」


ショパンは意味深な笑みを浮かべてそう答えると、室田に向けてウインクをして見せた。


「!!」


「!?」


「??」


「?!」


「、、、、」


そのウインクを皆が見逃してはいなかった。

瞬き出来ぬはずのミミックが見せた、そのウインクを、、、







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