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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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2人のカジモド

有働とニコライが男の約束を交わしていたその頃、楓はヤコブと食料を買い込み、その足でノートルダム大聖堂を目指していた。

名所だけあって前の広場は多くの人達で賑わっており、その間を縫う様にして歩みを進める。


密集した人の群れを避けて歩く、、、ただそれだけの動きだが、2人とも流石に無駄が無い。

目立ってはいけないし、目立つつもりも無いのだが、その流麗な動きは嫌でも人目をひいた。

尾行や偵察など、裏の世界で生きて来た事で染みついてしまった身のこなし、、、

そればかりはどうあっても隠し切れないらしい。

そしてそれを自覚しているヤコブが、不安そうに一言溢した。


「こんな大衆の中に居て大丈夫だろうか、、、」


「大丈夫、大丈夫!あんまりキョロキョロしてたら余計に目立つわよっ!」


どうも自覚の足りない楓がそう答えたが、根が真面目なヤコブは1度気になり始めるともういけない。

周囲の全てが自分達を見ている様で、気が気では無かった。

そんなヤコブの前に、頬を膨らませ腰に手を当てた楓が立ち塞がる。


「コラッ!Dも言ってたけど、これは命の洗濯なのっ!楽しめる時には楽しむっ!解った?」


両腕に食料の詰まった紙袋を抱えたまま、気圧された様に立ち止まったヤコブ。

しかし数瞬の後、その表情を緩めると


「確かにな、、、いつ死ぬとも知れん身だものな、、、すまなかった」

そう言って微笑みかける。


「解ればよしっ♪それにね、よく言うでしょ?木の葉を隠すなら、、、」


「森に隠せ、、、か」


「そういう事!貴方は顔バレするのを恐れてるんでしょ?じゃあ逆に訊くけど、今日の道中ですれ違った人達の顔、1人1人いちいち覚えてる?」


問われたヤコブは紙袋を脇に抱えたまま、その指先で鼻頭を掻く。そして苦笑いを浮かべる事で返事の代わりとした。


「ほらね?それに人々は室田一行として5人組で認識してる、、、まさかその内の2人が食料抱えて、こんな観光名所にいるなんて誰も思わないわよ」


ウインクを飛ばした楓が足を速め、ヤコブもそれに続く。そして眼前に迫ったそれに2人は圧倒された。

ホテルの部屋からも、散策した街中からも常にそれは見えていた、、、

しかし目の前で聳える凹の形をしたその建造物は、遠くから見るより遥かに美しく厳かで、息を呑むに十分な存在感を示している。


「うわぁ♪」

子供の様に目を輝かせ、楓が声を弾ませた。

つられたヤコブも声を洩らす。

「なんて気高い、、、」


すると突然、ヤコブが左手に抱えてた紙袋をひったくった楓。

そしてそれを左脇に抱えると、空いた右手でヤコブの左手を握った。

それはごくごく自然で、何の躊躇いも恥じらいも無い動きだった。そう、引き寄せられる磁石の如く、まるでそれが当然の姿であるかの様に。


「行こっ♪」


「ああっ!」


弾かれた様に駆け出した2人。

そのままの勢いで人の波をすり抜け、大聖堂内部を目指す。


正面ファサードの門を、聖人達の彫刻に見守られながら潜ると、そこは外界とは一線を画す完全なる別世界だった。

これ程までに多くの人々が世界から集まっていながら、堂内は信じられない程の静寂に包まれている。

荘厳、重厚、、、そんな空気に皆、いやがおうにも身が引き締めさせられるのだろう。


南北の壁には円形で花を模した「薔薇窓ステンドグラス」が幻想的な輝きを放っており、その美しさは万華鏡を連想させる。


「ねぇヤコブ、映画ノートルダムの鐘は観た?」


「ん?あぁ、、、子供の頃にアニメを観て、大人になってから原作を読んだ。その内容の違いに衝撃を受けたのを覚えてるよ、、、」


「原作、悲しい結末なんでしょ?人にそれを聞いたから、私、読んで無いんだぁ、、、」


「、、、、」


「私ね、あのアニメが大好きでさ。ほら、私って普通の人と違うじゃん?だから主人公のカジモドと自分を重ねちゃってさ、、、それだけにハッピーエンドで終わってて欲しいの。だからきっと今後も原作は読まないと思う」


「解るよ。俺ももう人とは違うから、、、」

遠い目で淋しそうに洩らしたヤコブ。

それを見て楓は「しまった」と思ったが、謝るのは何か違う気がして、ただ握った手に力を込める、、、

そして、それを同じ様に握り返してくれたヤコブに楓が呟いた。


「ねぇ、、、人と違うって、、、悪い事なのかな、、、?」


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