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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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いつもの組み合わせ

ホテルに着くと、この上無い慇懃なもてなしでスイートルームへと案内された。

恐らくはDから、脅しにも似た連絡を受けたのだろう。

だからと言って油断は出来ない。

神戸のホテルでの一件もある、いつ一般客やホテルマンが刺客に変わるかは判らないのだ。


この旅において一番の敵は倒すべきミミックでは無く、守るべき存在であるはずの人間である、、、

神戸のホテル、淡路島のサービスエリア、そして先の飛行機と、今まで襲って来たのは全て人間だった。

まして「味方」と完全に油断していた身内であるはずの、スケアクロウ内部の人間からも裏切りにあっている。

一同は皆、そんな「守るべき者」に少なからず虚しさを覚えていた。

ゲームが始まってまだ数日だが、緊張感に縛られた日々は心をささくれ立たせている。

そんな中、Dの用意したこのホテルでの時間は、多少なりとも安全とも言える。

確かにDの言うように、心の洗濯と呼べる時間なのかも知れなかった。


「ふぃ~、、、長旅ちゅうのは老体に堪えるわい、あの件のせいで機内でも寝れなんだし、ワシは少し仮眠をとるでな」


そう言ってベッドに身を投げ出すと室田は、よほど疲れていたのか10秒後には(いびき)をかき始めていた。

それを見て有働は、いつDから連絡が入っても良いように室田の荷物から端末を取り出すと、それを手にリビングのソファーへと陣取った。

その隣でヤコブも深々とソファーに身を沈めている。


ニコライはリビングの丸椅子をわざわざドア付近にまで移動させ、そこに身体を預けていた。

どうやら外の気配に気を配る為らしいが、普通サイズの椅子にチョコンと乗った巨体は、三輪車に乗るサーカスの熊を連想させる。


そして楓、、、

「さて、、、神戸での事もあるし、ホテルの料理は口にしない方が無難よね?だから街に出てちょっと買い出しして来るわ。ねぇヤコブ、ちょっと付き合ってよ♪」


名指しされたヤコブが自分を指差したまま、楓へと確認の視線を投げる。


「そっ、貴方よ!なんかご不満でも?」

腕組みして答えるその様は、有無を言わせぬ風格すら感じる。

それを受けたヤコブ、キョトンとしていた表情をキリリと引き締めると


「不満?まさかまさか。喜んでお供させて頂きますよ姫」

そう言って胸に手を当てながら、執事の様に腰を折って見せた。


その答えに満足そうに頷いた楓。

「じゃあニコライ、流石っち!その間はムロティーの警護よろしくね♪インカムは繋いでおくから、何かあったら連絡して」


そう言い残すとヤコブと共に、足取りも軽く部屋を出て行った。

それを見送った有働は、憮然たる面持ちで頬杖をついている。


「結局は又この組み合わせかよ、、、いいよなぁヤコブの大将は、、、」


ごちる有働にニコライが鼻を鳴らした。

「フン!おれ・ダッテ・スキで・おマエ・ト・いっしょ・ニ・イル・わけ・では・ナイ」


「ケッ!、、、でもまぁ、悔しいけどお似合いなんだよな、、、あの2人」

フッと力の抜けた表情でそう言う有働、そこには優しさと寂しさが同居して見える。

その意外な言動に、暫し無言で視線を送ったニコライ。


「んだよ?そんな見んなよ、、、ハッ!ま、まさか兄弟、お前、、、俺の事を、、、お、俺にそっちの()は無ぇぞっ!!」


「アホ、、、しんパイ・するナ・カリに・おれが・そっち・ノ・シュミ・が・あろうト、、、ゼッタい・に・おマエ・だけ・は・エラバんよ」


「そりゃど~も!」


「ところデ、、、おマエ・かえデ・ニ・ほれテル・のか?」


突然の質問に、有働が飲みかけていたコーヒーを盛大に吹き出す。

「ブフゥ~~ッ!!ゲホッゴホッゴホホ、、、ド直球だな、オイ、、、」


「ドウなんダ?」


「あぁ、、、惚れてるよ。隠すつもりも無ぇ、、、でもよ楓ちゃんはヤコブの大将に気があるみてぇだしな。それにヤコブの大将は悔しいがいい男だ。優しいし、気が利くしな。

そうなりゃ応援するのも1つの愛情の形だろ?惚れた女の幸せってのが男の本懐だ。

別の男に惚れてるからって、俺の想いが変わる訳じゃねぇしよ。それならそのままの楓ちゃんを、、、その幸せを見届けんのが俺なりの愛情だ、、、文句あっか?」


手元のコーヒーカップに視線を落とし、本心のままに想いを語った有働。

言い終えると、優しさを帯びた清しい笑顔をニコライに向けて見せた。

するとニコライ、手にしていた新聞を畳むと、すっくと立ち上がり、ゆっくりと有働の方へと近付く。

そして有働の目の前で壁の様に立ちはだかった。

それを有働が戸惑った表情で見上げる。

「ん、、、んだよ?」


首を竦めた有働の肩に手を置くとニコライは

「ヤコブ・ヲ・すき・な・カエで・の・コト・ヲ・スキ・と・いえル、、、ソンな・おマエ・ヲ・おれ・ハ・スコし・みなおシタ」


そう言って、内ポケットから取り出した物を有働へと手渡した。

それは古い、色の変わった封筒、、、


「これは?」

尋ねる有働を見つめたまま、無言で頷いたニコライ。

それを受け有働が、封の中身を恐る恐る取り出した。

それは封筒と同じく、色の変わった手紙らしき物だった。

2つ折りにされたそれを、そろりと開いてみる。


するとその手紙は、こんな書き出しで始まっていた。

「愛する我が娘へ」




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