足止め
室田達は今や世界的な有名人であり、命を狙う者は数知れない。
それ故に、一般客が危険に曝される恐れがあると言うのが搭乗拒否の理由であった。
当然至極である。
そう言われてしまっては引き下がるしか無い。
結局、1度は断ったがスケアクロウに移動を依頼する事となり、軍用ヘリで今度は何事も無くフランスへと入る事が出来た。
しかし着いたはいいが、今度は出迎えも無く何処へ行けば良いのか手掛かりも無い。
さてどうしたものかと途方に暮れている所に、タイミング良くDからの通信が入った。
「無事にフランス入りを果たしたようだね」
「ちっとも無事では無かったわいっ!」
不満そうに声を荒げると室田は、機内での出来事や搭乗拒否を受けた事を憎々しげに話し始めた。
聞き終えたDは言う。
「フム、、、それは難儀、そして大義であったとは思うが、そういったトラブルを案じてカプロッティ、、、いやJJの奴が送ると申し出たのだ。それを断ったのだから、いわば自業自得であろうよ」
「、、、そう言われると身も蓋も無いがの」
途端に勢いが失速した室田、まさに竜頭蛇尾である。しかし気を改めると
「それはそうとワシ等は何処へ向かえばええんじゃ?」
そうDに問うた。
「それが弱った事に、仕切っておるJJと連絡がつかなくてね、、、その内に何らかの形でそちらに接触はあろうが、、、どうだね、先ずはホテルを取って気分転換に観光でも楽しんでは?命の洗濯というやつだよ」
「そんな暇と余裕がワシ等にあるとでも思うとるのか?観光などと戯けた事を!それこそ要らぬトラブルの元だわいっ!」
「観光するしないは自由としてもだ、現状では身動きが取れぬのも事実であろう?とりあえずはホテルで待機しては如何かという提案だよ」
Dの言う事はもっともであるが、焦燥感の募った室田は苦々しい表情で考え込んでいる。
そこで背中を押す様に口を挟んだのは楓であった。
「いいじゃんムロティー、そうしようよ。焦ってもしょうが無いし、このまま街中に留まる方がトラブルを招くと思うけど?」
「むぅ、それもそうじゃのう、、、わかった!そうするかの。しかし問題は人気観光地のこのパリで、予約も無しにホテルを取れるかどうかじゃが、、、」
不安げな室田をDが笑う。
「我を見くびって貰っては困るなミスター室田。我が一声掛けたなら、世界中どこのホテルであろうが即座に空室が出来るのだよ、、、たまには素直に頼ってみてはどうかね?」
「、、、癪じゃが仕方あるまい、今回は甘えるとしよう」
「よろしい、人間素直が一番だ。ではそこから程近い場所にある、ホテル・ドゥ・ノートルダムに連絡を入れておこう。眼下にセーヌ川を望み、かの有名な世界遺産ノートルダム大聖堂まで300m程という抜群のロケーションだ。次の連絡まで束の間の休息を楽しんでくれたまえ」
その言葉を最後に通信は、いつもの如く一方的に切れていた。
「やれやれ、とんだ足止めの上に思わぬ展開じゃが、、、とりあえずは向かうとするかの」
歩き出す室田達。その最後尾で楓は何故かニコニコ顔である。
というのも彼女には、この旅でしておきたい事が出来ていた。そしてこの地でそれが叶いそうだからである。
だから室田がDの提案を飲んだ時に楓は、心の中で秘かにガッツポーズを取っていた。




