甘党の末路
「マ、マジで甘いっ!!」
C4を口に含むなり、男は驚きの声を上げた。
そしてその驚きを再確認する様に、もう1摘まみ口へと運ぶ。
「やべぇなこりゃ、、、決して美味くはねぇんだが、もう1口欲しくなる、、、」
その時、かなり後方にあるにも拘わらず、壁越しにトイレからも
「うおっ!?」
という驚嘆の声が響いて来た。
それを背中で聴いたニコライは不敵に嗤うと
「な?ホンとう・だっタダろ?だが・それクライ・に・してオケ、、、そいつ・ハ・まやク・と・おなじ・デナ・ちゅうドクせい・が・タカい、、、いまマデ・ちゅうドクしゃ・に・なった・ヘイし・ヲ・ナンにん・も・ミテきた・カラな」
そう言って親切にも忠告を与えた。
「そうなのかぃ?まぁ解らん事も無いな。俺も実際もっと食いてぇと思ってるかんな、、、下手すりゃモスクワ着く迄に、全部食っちまうところだったぜ!ハハハッ!!」
男がそう言うのとほぼ同時に、あのビジネスマン風の男もトイレから席へと戻っていた。
それを確認したニコライは、その後も陽気に話し続ける男の話を、それはそれは適当に聞き流しながら過ごしていた。
そして約30分後、、、
「、、、アレ?、、、なんか、、、気分悪ぃ、、、」
男の顔色がみるみる消え失せ、やがて全身が痙攣を起こし始めた。
すると後方でビジネスマン風の男も同じ状態になったらしく、その近辺から小さく悲鳴が上がり始める。
何事かと近付いたCAが、ビジネスマン風の男の姿を見るなり、あの定番の台詞を叫び出した。
「お客様の中に医療関係の方はいらっしゃいませんかっ!? 」
小型機なのでアナウンスを使わずともその声は、機内全体に行き届いている。
そしてすかさず、1人の男が手を挙げた、、、
有働 流石である。
更に別のCAが爆弾男の異変にも気づき、同じくあの台詞を口にしようとするが、それを制したニコライ
「オレは・みて・ノ・とおり・ヘイシ・でな、、、せんジョウ・でも・ニタ・しょうジョウ・を・なんど・モ・ミテいる、、、
こちら・ハ・オレ・に・まかセテ・もらおウ、、、だいジ・ナ・ユウじん・だしナ」
そうCAに告げると、男の襟とベルトを弛めて見せた。
一方、ビジネスマン風の男の所へと向かった、エセ医者有働。
白々しく脈を診たり、胸元に耳を当て心音を聴いたりと、なかなかの演技派である。
「う~ん、、、これはマズいな、、、」
険しい顔を作りそう言うと、CAに人目を遮れる場所は無いかと尋ねた。
訳を問うCAに
「1度、服を全て脱がせる必要があるから」
ともっともらしい理由をつけると、CAも納得したらしく乗務員室を提供すると言う。
すると有働、ニコライの方に向き直り
「オイッ!兄、、、そこのマシンナーズ!悪いがその男もこちらへ連れて来てくれっ!!」
危うく「兄弟」と呼びそうなのを、慌てて言い直しながらそう叫んだ。
全身をピクピクと震わせ、口の端に泡を溜めた2人の男を、有働とニコライがそれぞれお姫様抱っこで乗務員室へと運ぶ。
そして簡易ベッドに寝かせると、案内してくれたCAに
「じゃあ、、、脱がせるんでぇ、、、」
と、遠回しに部屋から出るように頼む。
そして察したCAも
「直ぐ近くに居ますので、何かあったらお声掛け下さい」
そう言って頭を下げると、素直に部屋を出て行った。
それを見送った有働は内心思っていた。
(こんな簡単に部屋を貸すなんざぁ不用心な話だな、、、もし俺達がテロリストだったらどうすんだよ、、、ったく!)
しかし直ぐに気を取り直すと
「こうも上手く行くとはな、、、やるじゃん兄弟っ!」
そう言ってニコライの肩をバンッ!と叩く。
しかしニコライはそんな衝撃ではビクともせず、微動だにせぬままそれに答えた。
「ああ、、、コイツら・が・バカ・デ・たすカッタ・もし・あのこと・ヲ・しって・イタラ・こう・ハ・ウマく・いって・ナイ・からナ、、、」
「ま、博奕に勝ったって事だわな。
でもよコイツが兄弟の言葉に乗せられて、ホイホイとC4を口にした時は、可笑しくて笑いを堪えるのに必死だったぜ!で、もう1人のコイツまでイソイソと便所に向かっただろ?
それ見て、もうダメだったわ、、、俺、堪え切れず前屈みになって暫く笑ってたもの。
後ろではヤコブの大将と楓ちゃんも、顔真っ赤にして手で口塞いでるしよ、、、
いや、マジでウケたわ♪」
それを聞いてニコライも微かに笑う。
「おっと!こうしちゃ居られないんだったな、、、とっとと仕事済ませちまおうぜ」
「ウム・そう・ダナ、、、」
そう言うと2人は、男達のポケットからそれぞれ起爆装置を取り出し、更に腹に巻いたC4爆弾も取り除いた。
「ふぃ~、、、これで一件落着、、、」
「ダナ、、、」
すると爆弾男達、身体は動かず言葉も発っせないが意識はあるらしく、虚ろな目で
(俺達に何をした?)
そう問うている。
それに気づいた有働、1度鼻の下を擦ると、憐れむ様な目で男達へと解説を始めた。
「オメエ等、ほんと無知よなぁ、、、
C4にはよ、爆発物である事を示すマーカーとして、毒性の高いエチレングリコールジニトラートって化学物質の添加が、法律で義務付けられてんだよ!
更にC4の材料であるRDXも、食うと中枢神経を麻痺させる毒性があってな、今のオメエ等みてぇに(てんかん)に似た中毒症状が出るんだ。
かつてベトナム戦争ってのがあってよ、その時兵士に多数中毒者が出たもんで、今はどこの軍でも摂取は固く禁じてる、、、
軍関係者なら知らない奴ぁ居ねぇくらい有名な事さ」
それを聞いた男達は何かを言おうとするが、口から出るのは泡ばかりである。
「おっと、、、安静にしとけって!あの程度口にしただけなら大丈夫とは思うが、稀に死ぬ奴だって居るんだからよ。
とにかくだ、、、今回はオメエ等2人を同時に無力化しなくちゃいけなかった。そこでニコライの兄弟が、無ぇ知恵搾って、搾って、搾り出した、搾りカス作戦にオメエ等はまんまと引っ掛かった、、、そういう訳だ。なっ!兄弟!」
「ガインッ!」
金属が何かを叩く音が響き、有働が頭を押さえて踞る。
それを放置して部屋を出ようとしたニコライだったが、何かを思い出したらしく足を止めるとニヤリと笑顔で振り返り、隣に座っていた方の爆弾男へこう問い掛けた。
「オイ!まだ・アマい・もの・ハ・スキか?」




