男の纏いし物
ニコライの座席横の通路に1人の男が立っていた。
柄物のシャツに黒とグレーの縦縞スーツ、そしてサングラスと一見して悪者然とした出で立ち。
どうやらロシア人らしいが、チンピラというのは外見上、どこの国もそう大差は無いらしい。
その男は先ずニコライへと話し掛けた。
「アンタ、室田ファミリーの一員だよな?確か名前は、、、そう!ニコライだったかな」
しかめっ面のニコライが、スコープだけを動かして男を一瞥する。
不思議な物で、その表情と相まって機械音までもが不機嫌そうに響いた。
「へっ!だんまりかよ?まぁいいや。で、アンタの前に居るのが、日本の姉ちゃんとクソッタレヤンキー、、、んでもって更にその前が室田の爺さんともう1人のジャップって訳か。固まってお揃いの様で、こっちとしても都合がいいやな」
そう言った男に冷ややかな目を向け、楓が口を開いた。
「あら、ご機嫌そうね。もう酔ってるのかしら?それともジャンキー?どちらにせよ礼儀がなってないわね、、、人に名を尋ねる前に先ずは名乗ったら?」
サングラスを下にずらし楓の顔をまじまじと見つめると、その男は下品な笑いを張り付かせ、腰を前後に振りながらこう言った。
「ウヒョ♪なかなかソソる顔してんじゃん。今晩どうだい?プッシーちゃんよ!」
対して楓は冷ややかを通り越して、何の感情も無い様な目を向ける。
「アンタを上に乗せるくらいなら、私が上に乗ったげるわ、、、ただし騎乗位じゃなくてマウントポジションだけどね」
「オホッ!勝ち気な女は嫌いじゃ無いぜ♪まっ、それはそれとしてだ、、、今日は仕事なんで先ずはそいつを済ませなきゃぁな。
名前は出せねぇがオイラぁ某組織、、、平たく言やぁロシアンマフィアのケチな使いっ走りでな。ウチのボスがアンタに会いたがってる。
爺さんよ、モスクワに着いたら何も言わずに付き合っちゃ貰えねぇかぃ?」
「フンッ!あぁそうですか、そうしましょとワシが言うとでも?」
室田の返答を鼻で嗤うと男は、頭をポリポリ掻きながら上目遣いにこう言った。
「多分そう言う事になると思うなぁ、、、(俺達ゃ)アンタをボスに会わせるのが任務だが、こうも言われてる。従わない時は、、、殺せとね」
言い終えると男は、シャツの裾をゆっくりと捲り上げた。するとそこにあったのは異様な腹巻き、、、
「C4、、、」
思わず楓が小声で漏らす。
「ご名答!その通りよ。こいつぁプラスチック爆弾てやつだ。便利だよなぁこいつぁ、粘土みてぇに形を変えれっからよ」
「そんなもんをここで爆発させれば、どうなるかは解っておろう。主はおろかこんな小型機ひとたまりも無いわぃ、、、承知の上か?」
「あたぼうよ。言ったろオイラぁ使いっ走りだってな。日本のヤクザにも居んだろ?テッポウダマとか呼ばれる奴がよ。そいつらと一緒だ。アンタ等が素直に来るなら良し、、、そいつが叶わねぇとなりゃ、仲良くあの世へ行こうって腹だよ」
ここで初めて有働が口を開く。
「待てよ、、、お前さっき(俺達ぁ)って言ったな?て事は、、、1人じゃねぇな?」
「オホッ♪兄ちゃん鋭いな、、、その通りだ。乗客の中に仲間が1人混じってる。
そしてそいつも腹にコイツを巻いてるよ。
そんでもって万一の事を考えてな、そいつの起爆装置をオイラが、オイラの起爆装置をそいつが持ってる。つまり今、オイラを取り押さえるなり殺すなりしても、そいつがスイッチ入れりゃあドカンって寸法だ。良く出来てんだろ?
まぁ尤もこの作戦はボスが考えたんだけどよ、、、おっと!1つ言っとくが、その仲間を外見で探そうったって無駄だぜ。オイラみてぇに見た目で判るような服装はしてねぇからよ」
その言葉を聞いて有働が機内を見渡す。
(チッ、、、確かにそれっぽい奴は居ねぇな)
「納得頂けたかい兄ちゃん?それじゃあモスクワまで仲良く空の旅を楽しもうじゃねぇか♪」
額に手を当て、深く息を吐いた室田。
「今回はスカイダイビングっちゅう訳にもいかんのぅ、、、金輪際お主等とは飛行機にゃ乗りとう無くなったわぃ」
「へへへ、気が合うな。俺も同じ事を考えてた所だ」
有働がそれに続き、、、
「奇遇ね、、、私もよ」
「ハハハ、、、私もだ」
「、、、オレ・も・ダ」
他の皆も言葉を繋いだ。
この時、モスクワ到着まで残り1時間程となっていた。




