くだらない話
Dの正体のみならず、JJの正体にまで言及した有働。
しかし何かが喉に支えた様な表情を浮かべている。
「ん?どうしたのだ有働 流石、、、浮かぬ顔をしておるようだが」
「あぁ、、、1つ引っかかってんだけどな」
「引っかかっている、、、してそれは?」
問われた有働は、言いにくそうに鼻の下を掻き
「あのよ、、、俺の記憶が正しけりゃジャン・ジャコモ・カプロッティはイニシャルにすると、JJじゃなくてGGになると思うんだが、、、よ」
と、まるで言葉で忍び足をするように、ソロソロと吐き出した。
すると突然笑い出したD。
一頻り笑うと、涙を拭きながらその事について述べ始める。
「その事か賢しき者よ。いや、その理由は実にくだらぬ物なのだが、、それでも聞くかね?」
「ああ、是非とも聞きたいもんだね」
「そこまで言うなら良かろう。
あれはまだ我等が世に出る前の事。JJの案で、世に出た時に我等の正体が判らぬ様にと、イニシャルで呼ぶ事を配下に徹底する指示を出した。君の言うように我はイニシャルですらないDの名に決まり、カプロッティはGGを名乗る事に決まったのだが、、、
ある、学の無い部下が間違って奴の事をJJと呼んだのだよ。響きも似ておるし、聞き間違いもあったのだろう。
カプロッティの奴もJJでは無くGGだっ!と怒っておったよ。
ところが我がそのJJという響きを気に入ってな。我自身も奴をJJと呼ぶようになった。
最初こそいちいち言い直しておった奴だが、その内に諦めたのだろう、、、今では自らJJと名乗るようになり、配下も皆その呼び名で統一されるに至った、、、という訳だ。
ご理解頂けたかな?」
すると目を点にした有働が、気の抜けた声でそれに答える。
「俺から聞きたいって言っといて何んだけどよ、、、本当にくだらねぇ話だな、、、くだらねぇ事山の如しだわ」
「いや、だから言ったであろうよ。
ところで、、、だ。フランスまで送るというカプロッティの申し出を断ったそうだが、、、どうするつもりだね?」
それに答えたのは有働では無く室田であった。
「陸路でヤクーツク空港に向かい、エカテリンブルク経由でモスクワに出る。そしてそこからエールフランスでシャルル・ド・ゴール空港へ行くつもりじゃ」
「ほう、、、陸路でヤクーツクとな?そこから70km以上離れておるが、車も持たぬ諸君がこの寒空の下を歩くつもりかな?諸君がボーイスカウトだったとは知らなかったよ」
言葉に詰まった室田が強がりを返す。
「ング、、、ムゥ、、なんとかするわいっ!」
「フハハハッ!無理せずとも良い。配下に車を1台用意させよう。フランスまで送られるのが嫌ならば、せめてヤクーツク空港まではそれを使いたまえ」
「余計なお世、、」
言いかけた室田の言葉をDが遮る。
「厚意は素直に受けるものだよ。
これはステージクリアの、そしてこうも早く正体を暴いた褒美と思ってくれたらいい。
いや、、、褒美というのが気に入らぬと言うならば、こちらから1つ頼みを聞いて貰う交換条件ならばどうかね?」
ふいに出されたDからの提案。
「主がワシ等に頼みじゃと?」
室田が怪訝な目を向ける。
「左様。せっかく辿り着いた我等の正体だが、今暫く世間への公表は差し控えて貰いたいのだ。いやなに我は一向に構わんのだが、明かしたとバレればカプロッティの奴が怒りかねんのでね、、、そうなると面倒ゆえな」
室田が何か言い返そうとしたが、有働が口を塞いで代わりに返事を返す。
「わかった、約束するぜ。アンタの厚意とやら、ここは有り難く頂戴しとくよ」
「ウム。ならば直ぐに用意させよう。そこで暫し待つがよい。ではそろそろ失礼するよ、近く会える事を楽しみにしている。それでは良い旅を」
「お、おいおいっ!ちょっと待った!」
有働が声を掛けるが、D、、、いやダ・ヴィンチからの通信は一方的に切れていた。
「チッ、、、結局あいつは俺の質問には答えやがらなかった、、、」
万能人と呼ばれたダ・ヴィンチの能力。
それが生まれ持っての物なのか、ミミックとして人を取り込み得た物なのか?
その答えを得る事が出来なかった有働が、名残惜しそうにそう呟いた。




