告白 1
画面の中では未だレポーターが唾を飛ばしている。
しかし室田はそんな物には興味も示さず、ギリリと奥歯を軋ませながらテレビの電源を切った。
そのせいで部屋は一瞬だけ漆黒に包まれたが、直ぐにテーブル上のランプが灯った為、その周囲だけがぼんやりと明るくなった。
「訊きたい事は山ほどあるけど、、、
とりあえず奴等は何者なの?
Dの言っていた(我等に心当たりがある者達)、、、貴方はその中の1人なんでしょう?」
「モトは・ニンげんダッタと・イッテいたが、、、」
楓とニコライが素直な疑問をぶつけた。
顎髭を手でしごき、室田が重い口を開く。
「少し長くなるが、、、」
そう言って2人に窺う様な目を向けた。
「奴は言ってた。訪ねて来い、、と。
どうせ貴方はその誘いに乗るつもりなんでしょ?
と、なればそれに同行する私達は全てを知っておかなきゃならないわ。ねっ!?ニコライ」
頷いたニコライ、眼部のスコープがモーター音を唸らせて室田の方に向く。
「オレたち・ハ・アンタ・の・ガーディあん・だから・ナ」
「フム、、、ならば話そう、、、」
室田は諦めにも似た表情でタバコにそっと火を点けた。
吐き出した煙が、頭上の闇を紫に染める。
そうして過去へと遡り、想いを馳せながらゆっくり言葉を紡ぎ始めた。
「時代も悪かった、、、
お前さん達の身体にも使われとる、そのレアメタル、、、海外での呼び名はマイナーメタルじゃっけか?まあ、どっちゃでもええわい。
とにかくそいつが元凶と言えなくもない。
複数のレアメタルの性質を兼ね備えたその金属。
カメレオニウムと名付けられたそいつじゃよ。現代のオリハルコンと持て囃されたそいつが、世界中に埋蔵されとる事が判った途端、その所有権をめぐる国土問題があちこちで勃発、、、世が再び冷戦状態に陥ったのじゃからな」
「それガ・ヤツらと・ドウかんけい・スル?」
「話を焦るなて。
つまり世界的に戦争の気運が高まった。
そのお陰で本来医療目的だったガジェット・プロジェクトが軍事流用されるに到った訳じゃ。それも凄まじいスピードで実用化が為された、、、身をもって知っての通り、そうして産み落とされたのが御主達マシンナーズじゃな。
しかしワシは別のアプローチで肉体の再生に挑みたかった、、、」
殆ど吸われぬままに灰と化していくタバコが、灰皿の上で未だその身を焼いている。
室田はそれを憐れむ目で一瞥すると、苦しみから開放してやる様に揉み消した。
楓とニコライはその様子を見つめながら、黙って次の言葉を待っている。
「かつてのワシはある研究所にて再生医療、、いわゆる万能細胞の研究に没頭しておった。
確かにガジェット・プロジェクトの基本理念と技術は素晴らしい。それは認めておる。
しかしワシはどうしても機械では無く、肉体としての再生を目指したかったのじゃ、、、
遥かに昔の事、この地にてIPS細胞が開発されたのじゃが、実用化までにも月日を要した上に、実用化されても高額ゆえ殆どの人には手の届かぬ物じゃった。本当に必要とする人々の手に渡らない、、、それでは意味が無い。
だからワシは庶民の手に届き、尚且つ即効性の万能細胞を作りたかった、、、」
ここまで夢を語る少年の様に輝いていた室田の顔が、みるみる曇り始める。
それを見た楓が何かを察したらしく声を掛けた。
「どうやらここからが核心部らしいわね、、、苦しそうな所悪いんだけど、包み隠さず全てを話してよね」
その口調はプロのそれであり、極めて冷静だった。
「わかっとる、、、
その後のワシは、再生能力を持つ生物の細胞を、IPS細胞と組み合わせる研究を重ねていった、、、
トカゲは勿論、ヤモリ、メキシコサラマンダーいわゆるウーパールーパーじゃな、、、その他にもプラナリア、ヒトデ、ホヤ、鹿の角、、、色々な分量で、色々な組み合わせで、、、
そうして見つけた、いや、見つけてしまったのじゃ、、、恐ろしい組み合わせを、、、」
そこまで言うと再びタバコに手を伸ばした室田。
そして火を点けたその手は、激しい震えを伴っていた。




