ノクターン
ー・フランス パリ・ー
1人の男がグランドピアノに凭れかかり、誰かと携帯端末で話している。
「ラスプーチンが消えたんだってね」
(ああ。しかし奴は元よりキャトル・マジョルドム(四執事)に相応しく無い小物、、、さして驚く事でも無かろう)
「そうだね。むしろ粛清された事でキャトル・マジョルドムの癌が取り除かれたってところかな。新たなメンバーに誰が選ばれるかは知らないけどね」
(ウム。それより次は貴様の出番であろう?くれぐれも心してかかれよ)
「わかっているよ。どうもD様は室田って人に会いたいみたいだね、、、でもD様には悪いけどその願いは叶わないよ。私がこの地で終わらせるからね」
(そうある事を願おう。我輩の出番が無くなるのは少し残念だが、、、な)
「ハハハ!君らしい言いぐさだね。じゃあ色々準備しなくちゃいけないし、そろそろ切るよ。また連絡するから」
(わかった、、、ジーク・ディッヒ(君に勝利を)!!)
相手のこの言葉を最後に通信を切った男。
小さな息を1つ吐き出すと、ピアノに向き合いその繊細な指先で美しい旋律を奏で始めた。
深い眠りを誘う様な心安らぐそのメロディーは、静かな夜に浮かぶ青白き月を連想させる、、、
「夜想曲第2番 変ホ長調」
それが男の演奏した曲であった。
一方その頃、室田の端末にも1件の通信が入っていた。
相手はスケアクロウ在籍の傭兵であり、ニコライの旧友でもあるロシモフだった。
通信の内容は、室田達をロシア上空まで運んだパイロット、ダニエル・アンダーソンを発見した事、、、
しかし片腕・片足を失っており、非常に危険な状態である事、、、
そして今は緊急手術を受けているという物であった。
共に過ごした時間はごく短い物であったが、一行にとってダニエルは戦友である事に違いは無い。
心配、、、こう言ってしまえば安っぽい物に聞こえるが、その裏ではどこか確信に近い物を感じていた。
「必ず助かるっ!」と。
根拠などは無い。
ただ強くそう思っていた。
そしてまた、そう願う事でその念が天に通じるとも信じていた。
それと通信の内容はもう1つ。
ヘリを一機よこすから、次の目的地まで送るというロシモフからの提案だった。
しかし室田はそれを断った。
先の機体トラブルがスケアクロウ内部の者の仕業である可能性が高い以上、それはあまりにリスキーだと判断したのである。
結果、一般路を使いフランスへ向かう旨を告げ、ロシモフとの通信を切った。
するとその直後、再び通信が入る。
そしてその相手は、、、Dであった。
「第1ステージ、、、クリアおめでとう」
「そんなつまらん事を言う為に連絡をよこした訳ではあるまい、、、さっさと用件を言うたらどうじゃ?」
「フフフ、、、相変わらずツレない事だ。
まあよい、ならば言おう、、、配下の者より受けた報告によると、何やらJJがそちらに行っていたとの事、、、それは真かな?」
「、、、ああ本当じゃよ。あれは貴様の差し金では無かったのかぇ?」
「前にも言ったが、あやつは我の知らぬ所で色々と動く質でね、、、ほとほと困っておる。更にあやつがラスプーチンを取り込んだとか?」
「ウム、それも本当じゃよ」
「ほぅ、、いや、お疲れのところすまなかった。今回の用件はその確認だけ。これで失礼するとしよう、そちらも忙しいだろうからね」
しかし通信を切ろうとするDに有働が横から口を挟む。
「ちょい待ちっ!!」
「、、、有働 流石か、、、何か用かな?賢しき者よ」
「こっちからも幾つか訊きてぇ事がある」
そう言った有働の目は、獲物を狙う猛禽類の様に鋭く光っていた。




