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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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ステージクリア

腐っても鯛で居たい、、、

そう言った新田の気持ち、有働は痛い程に理解していた。

肉体は人で無くなろうとも、せめて心は、、、心だけは人のままで逝きたい。

人外としての生よりも、人としての死を選んだ新田。

滲む心の痛みに有働は、言葉を掛ける事すら出来なかった。

ならば友の選択を見届けるのがせめてもの務め、、、そう思い直し、有働も覚悟を決めた。


「ハハ、、、身体に力が入らなくなってきたよ、、、それに何だかとても眠い、、、思ったより苦しまずに逝けそうだ、、、」


そう言う新田の手を有働が黙って握る。

しかしその様子を見ていたラスプーチンが、突然声を張り上げた。


「何を、、、何をしているのだっ!早く喰らわぬと助からんのだぞっ!!」

先までの慇懃な態度が嘘の様な口調となっている。


「黙れっクソがっ!!こいつはテメェの策略通りに踊るより死を選んだんだよ!静かに見送る事が出来ねぇってんなら、俺がその臭ぇ口を塞いでやろうかっ!」


「ホッホッホッホッ、、、これは面白い。たかが下等生物の貴様が私の口を?

なかなかのギャグセンスに免じて、その無礼は許してやろう、、、だがなっ!その男に安らかな死など与える気は更々無いっ!!、、、

貸せっ!」


そう言うとラスプーチンは、横に立つマシンナーズの手から銃をひったくる様にして奪い、棺の中へ向けてその引き金を引いた。

破裂音の後に訪れた静寂、、、

時が止まった様な錯覚を受けるその空間で、新田の胸から赤い液体が跳ねた。


「新田ぁ~~っ!!!」

有働が慌てて新田の胸を抑える、、、

無駄な事とは知りながらも、そうせずには居られなかった。

しかし命の源は、その手の隙間を容赦無く溢れ落ちてゆく、、、


「ハァ、、ハァ、、ハハハ、、、人間じゃ無くなっても、、、血は、、赤いん、、、だな、、、なんか、安心した、、、よ、、、」

掠れる声で新田が言う。


「喋るなっ!!」

そう叫び、傷口を抑え続ける有働の手を、新田が包む様に上から触れた。


「有、、働、、、最期に、、、会え、、て、良かった、、よ、、、変人と、呼ばれ、、た、俺には、、、唯一の友達、、、だったから、、な、、、ハァ、、ハァ、、、ゴフッ!」

言葉と共に溢れ出る赤い飛沫、、、


「だから、、、喋るなってよっ!!」

慟哭にも似た声を上げた有働だが、新田が助からない事は解っていた。

いや、、、撃たれずとも助からなかったのだが、こんな死に方をさせたく無い気持ちが動揺を生んでいるのだ。

ラスプーチンの放った凶弾は、新田の肺を貫通している。

すなわち、これから事切れる迄の間、新田はこの上無い苦しみを味わう事となるのだ、、、ならば、、、


「新田、、、とどめが欲しいか?、、、」

有働は静かに問うた。

ヒューヒューとその口から空気を漏らす新田、、、もはや言葉を発する事も出来ないが、力無い笑顔を浮かべる事でそれに応える。


頷き、懐から銃を取り出した有働、その銃口を新田の眉間へと突き付けると


「おやすみ、、、またな」

そう言ってゆっくりと人差し指に力を込めた。

その光景にラスプーチンが高笑う。


「ヒャ~ッハッハッ!友人をその手にかけるとは、貴様なかなかの鬼畜よなっ!!」

次の瞬間、有働の銃が再び鳴き声を上げた。

同時に崩れ落ちるラスプーチン。

その眉間からは血が溢れている。


「悪ぃな新田、、、あのクソ野郎、殺す事ぁ出来ねぇが、これでちったぁ気が晴れただろ?」

未だ硝煙を吐く銃を手に、新田の亡骸に語りかける有働。

しかし直ぐにラスプーチンは立ち上がり、先を上回る激昂を見せた。


「貴様ぁ~、、、よくもこの私に、、、許さんぞぉ、、、絶対に許さんぞぉ~っ!!」

顔の血を袖口で拭うとラスプーチンは、周囲のマシンナーズへと命令を下す。


「他の者はいいっ!だがあの男、あの男だけはこの場で殺せっ!!」

しかしマシンナーズは、これが聞こえて無いかの様に誰1人動かない。


「何をしているっ!聞こえないのかっ!?早く殺れっ!!」

狂った様に叫ぶラスプーチン。

するとこれまで傍観を決め込んでいたJJがここで動く。

ラスプーチンの背後へと立ち、その肩へと手を置くとこう告げた。


「もういい。ご苦労だったな」


「もういい?何を仰ってるんですかっ!あの男だけはどうしても、、、」

興奮冷めやらぬラスプーチンが、思わずその手を払い退ける。

するとJJ、今度は背後からラスプーチンを抱き締める、、、そして耳元で囁いた。


「これ以上醜い物を私に見せるな、、、」


その直後モザイクがかかった様にJJの輪郭がボヤけ、次の瞬間ラスプーチンの身体がJJの中へと引き摺り込まれ始めた。


「な、何をなさるのですっ!?」

ズブズブとその肉体を取り込まれてゆくラスプーチン。


「お前はキャトル・マジョルドム(四執事)に相応しく無い、、、他のメンバーは勿論、D様までもがそう思ってらっしゃってな、、、

だが勘違いするな。これは罰では無く、ある意味褒美だ。私の一部として永遠に生きてゆけるのだからな!尤も2度と表に出る事は無いだろうが、、、な」


そう言うJJの身体から見えているのは、未だ取り込まれていないラスプーチンの頭部のみ、、、しかしそれすらも最早風前の灯である。

そして断末魔よろしく、ラスプーチンが悲痛な叫びを上げる。


「D様を裏切ってまで貴方に仕えたこの私を~~っ!!」

その言葉を最後に全身を取り込まれたラスプーチン。

そしてJJは冷やかな表情でこう呟いた。


「だから言ったであろう。お前はお喋りが過ぎる、、、」


改めて室田達へと向き直ったJJ。

「見苦しい物をお見せしてお恥ずかしい限りです。しかしながら第1ステージは見事にクリア、、、おめでとうと言わせて頂きますよ。

これはラスプーチンの私物でしてね、ステージクリアの証しとなります。お受け取り下さい」


そう言うとJJが何かを投げ、有働がそれをキャッチした。

見るとそれは金のロザリオだった。

鎖がついており、首から提げれる様になっている。

それをポケットへとしまいこんだ有働、JJを睨む様に見つめながら静かに口を開いた。


「結果的に新田の仇を取ってくれた形にはなったが、、、礼は言わねぇぜ」


「勿論ですとも。私としてもそんなつもりは毛頭ありません故」


「だろうな、、、ところで、、、1つ頼みを聞いてくれねぇか?」


「なんでしょう?」


有働は一瞬だけ新田の骸を悲しげに見つめると

「こいつの亡骸、、、丁重に葬ってやって欲しいんだ、、、」

そう言って真っ直ぐな眼差しをJJへと向けた。


「、、、約束しましょう」


了承したJJが室田へと視線を移す。


「ミスター室田。次のステージはフランスとなっております。なんでしたら配下の者に送らせましょうか?その方が要らぬトラブルを避けられるかと、、、」


「フン、それこそ要らぬ世話じゃよ」


「左様ですか、、、では道中お気をつけて。又いずれお会いしましょう」

1度頭を下げるとJJは、マシンナーズを引き連れてバルコニーから何処かへと姿を消した。

それを見届けた有働が室田へと声を掛ける。


「なぁ爺さん、、、アンタ気付いたか?」


「ん?、、、いきなり何んじゃい?」


「JJの奴、、、瞬きしてたんだよ、、、」


「何っ!?ミミックのあやつが瞬きじゃと?、、、フム、、、まあここであれこれ考えとっても始まらん。ラスプーチンの最期の言葉も気になるが、、、とりあえずはフランスへ向かう手立てを考えよう」


「、、、だな」


室田達が踵を返し、来た道を戻り始める。

そんな中で有働は1度だけ振り返り、何とも形容出来ぬ表情で石棺を見ると


「あばよ、、、」

そう呟いて皆の後を追った。




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