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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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半端者

注射を打たれて直ぐ、新田は目を開いた。


「新田、、、新田っ!目が覚めたかっ!?」


有働が声を掛けるが、状況が把握出来ないらしく、呆けた顔のままで目の焦点すら合ってはいない。

暫くしてようやく、己を上から覗き込む存在に気付いた新田。


「ん、、、有、、働、、?」


「あぁ、そうだっ!、、、お前、、、よくぞ生きて、、、」

有働の様子から感情の昂りが窺える。


「有働、、、なんでお前が、、、俺は一体?」

上体を起こし、米噛みを指先で抑える新田。

どうやら記憶も儘ならぬらしい、、、


「話は後だ。とりあえずこんな縁起でも無ぇベッドからは出ないとな」

そう言って有働が手を差し伸べる。

そして新田がそれを握ろうとしたその時だった。


「ウガッ!!!」

突然呻いたかと思うと、新田が自分の身体を抱くようにしてのたうち回る。


「ンガァ~ッ!、、、ガフッ!ガフッ!、、、フッ、、フッフッ、、、」

呼吸は荒く、筋肉もあちこちが痙攣を始めている。


「オイッ!、、、オイッ!新田っ!?大丈夫かっ!?オイッ!オイッ!!」

しかしそんな有働の声など聞こえない程の苦しみようで、橋を模すかの様に身を大きく反らしている。


「テメェ~、、、どういう事だっ!?」

獣の目を向け、ラスプーチンへと吠える有働。

しかしラスプーチンは特に身構えるでも無く、あくまで変わらぬ様子のまま答えた。


「ご心配には及びません。それは彼が生まれ変わろうとしている、いわば生への渇望の表れ。その発作は直ぐにおさまります。

そしておさまった時こそが、新しい彼の誕生なのですっ!!」


「新しい、、、生まれ変わる、、、?」

訝しむ有働を見て、含み嗤うラスプーチン。


「ホホホホ、、、先程、貴方が打った物、、、あれは強心剤などではありません」


「な、、、!?」


「例の猿の事は御存知ですよね?

あのお猿さんは非常に面白い。

ミスター室田の作り出した、我々とは違う種のミミック、、、あれは我々に多くの物をもたらしてくれました。先程の注射の中身もその1つです。我々は捕食と分裂でしか種を増やす事は出来ませんが、、、

研究を重ねた結果、あの猿が持つ細胞は注入するだけでも種を増やす事が可能となりましてね、、、まぁ尤も、全ての生物に有効な訳では、、、」

饒舌に語り始めたラスプーチンだが、痺れを切らした有働の一喝によって、それは妨げられた。


「るせぇっ!!」


「、、、、」


「んな事ぁどうでもいい、、、結論を早く言いやがれ、、、」


「、、、いいでしょう。ようやく発作もおさまった様ですしね、、、結論から言えば、彼は先程の注射によりミミックへと生まれ変わった、、、そういう事です。

しかしミミックとなったとは言え、彼は未だ人を取り込んでません故、体内にコアを精製してません。つまりこのままでは時を待たずして心臓は停止し、彼は死に至ります。

そして、ここでもう1つのアイテム、あの鍵が必要となるのです」


ポケットを探り、その鍵を取り出した有働。

すると既に身体も落ち着いたらしく、新田がじっと有働を見つめていた。


「新田、、、」


「ある程度、状況は理解出来たよ、、、」

そう呟いた新田がラスプーチンへと向き直り、続けて声を張り上げた。


「で?その鍵で何をすれば、俺は助かるんだっ!?」


「ホホホ、、、今の貴方は人間でも無くミミックでも無い。肉体的には人外のくせに不死身でも無い中途半端な生物、、、誰かさんと一緒でね」

そこまで言うとラスプーチンは、チラリとヤコブを一瞥し、少しの間を置いて更に続けた。


「そんな状態は貴方にとっても本望では無いでしょう?ならばその鍵を取りなさい。

その鍵は向こうに見える鉄格子の鍵。

中には眠らせた凶悪犯達が多数居ます。

その者を食す事で貴方は我等が卷族となれるのです」


「なんで、、、なんで俺がお前等みたいな化物にならなきゃいけない、、、お前等の狙いは元々あの猿だったんだろ?ならなんで、、、なんで俺を直ぐに殺してくれなかったっ!?」


「結果論とは言え、貴方は我等に素晴らしい物をもたらしてくれたのでね、、、言うならばこれは褒美、、、我等の卷族となる誉れを、どうせなら馴染みの方々にも見届けて頂こうと、この場をステージに選んだのですよ。粋な計らい感謝して欲しいものです。ホホホ、、、」

口許に手をかざし高笑うラスプーチン。


「新田、、、スマン、俺には言葉が見つからねぇ、、、俺のせいで、俺がもう少し注意深けりゃあ、、、」

知らなかったとは言え、自らの手で友をミミックへと変えてしまった、、、

その重責が有働へとのし掛かる。

そして有働は鍵を手渡し、新田へとこう告げた。


「お前がどんな決断を下そうと、俺がお前を軽蔑する事は無ぇから、、、」



一応は鍵を手にした新田だが、それを使う気は更々無いらしく、再び石棺へと横たわった。


「新田、、、お前、、、」


「俺がこうするって事は、お前なら解ってくれるんだろ?」

そう言う顔には、覚悟を決めた男の清しい笑顔が張り付いている。

そしてそれが余計に有働を苦しめた。


「でもよ、、、でも、俺が、、、俺のせいで、、、」

悔恨の呻きを上げる有働に新田が首を振る。

そして項垂れる有働の頭部を抱き寄せ、その耳元へと口を寄せると囁くようにこう言った。


「俺はさぁ有働、、、腐っても鯛で居たいんだよ」

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