道は1つ
それは暗い階段だった。
白い石壁がぼんやりと明かりを発してはいるが、それでは数m先すら見通す事も出来ず、皆がライトを手に進んでいた。
100mも進んだであろうか、そこで一先ず階段は途切れ、踊り場の様なスペースが現れたかと思うと又、折り返す様に段差の連続が姿を見せた。
「ふぃ~、、、今回は長いのぅ、、、」
室田が息を切らす頃になり、ようやく前方に光が見えて来た。
心無し足を早めた一同が、羽虫の様に光を目指す。
階段を降り切ると同時に視界が開き、その眩しさに一瞬手をかざす一同。
しかし目がスコープに改造されているニコライだけが、皆より先にその場の光景を目にしていた。
「ムロてぃー、、、おまチカネ・だぞ、、、」
ニコライの言葉でしかめていた目を開き切った室田。
するとそこは広い円形状の空間だった。
なんの目的で作られた物かは判らないが、印象としてはコロッセオに近い物を感じる。
だだっ広いスペースの中央には、ただ1つ石の棺桶が置かれていた。
そして室田達が入った場所とは逆側の壁の一部には鉄格子が見えていて、その中には多数の人間が入れられているようである。
が、しかし、、、死んでいるのか、眠っているのか、動いている者は1人も居ない。
「ようこそ、決断の間へ」
ふいに響いた声の方へと目を向ける室田達。
少し見上げると中二階となっており、小さいバルコニーの様なスペースが見えた。
そしてそこに置かれた豪華な椅子には2人の男が座している。
ラスプーチンとJJである。
護衛するマシンナーズ数人に囲まれる中、ラスプーチンがゆっくりと立ち上がる。
「間に合ったようですね、、、ではステージクリアの条件を充たす為、そちらの石棺を開けて頂きましょうっ!!」
両手を拡げ愉しそうに、そして声高に告げるラスプーチンの横で、JJは無表情のままで頬杖をついていた。
室田一行が歩を進め中央部へと向かう。
そして石棺の前で立ち止まると、皆が互いを探る様に視線を交換した。
(どうする?)
無言で問い合うその行為に、ラスプーチンが焦れた様に言う。
「どうされました?早くせねば間に合いませんよ?道中と同じく罠などはありません!
さあ、早くその中の者を皆さんの手で救って差しあげて下さいませっ!!」
覚悟を決めた皆が頷き合い、ニコライが代表して石棺の蓋を開いた。
そしてその直後、室田と有働の顔色が変わる。
「な、、、?」
室田は言葉が続かない。
だが有働は暫し身体を震わせた後、石棺の中に横たわる者の名を呼んだ。
「に、、、新田っ!!」
かつて有働が友と、室田が右腕と呼んだ男。
そして、ミミック細胞を有する猿と共に姿を消した男、、、新田 光一。
今、石棺の中で横たわるのは、紛れもなくその男である。
有働が名を呼びながら身体を揺する、、、
しかし反応は無い。
その様子を見ながら、唯一、新田の事を知らぬヤコブが小声で問う。
「この男、誰なんだ?」
「かつてムロティーが、実験体である猿の処分を託した部下よ。流石っちは大学時代の友人なんだって、、、でもその猿と共に姿を消したの、、、拐ったのはロシアだったらしいわ」
「ロシア、、、どうりで。
つまり、その猿とこの男はロシアを通じてDの手に落ちていた、、、そういう事だな」
楓の答えに頷くヤコブの前で、未だ有働が新田の名を呼び続けている。
これほどまでに取り乱す有働を見るのは、もちろん皆が初めてであった。
そして呼ぶのを止めた有働が、睨める様にラスプーチンを見る。
「テメェらっ!こいつに、、、こいつに何をしたっ!?」
「ホホホ、、、これはこれは、、、かなり冷静さを欠いている御様子。それについては最初にJJ様が御説明差し上げたはずですが、、、
まぁ良いでしょう。もう1度説明して差し上げます。
貴方もよく御存知のその男は、あと10分程で心臓が停止してしまいます。
それを止める術は只1つ、、、道中で手に入れた注射器、それを彼へと打つ事です」
「、、、この中身は?」
「強心剤の一種、、、とでも申しておきましょう。あ、筋肉注射ですので、血管を探さずとも大丈夫ですのでご安心を。
どのみち、それを打つ以外に彼を助ける道はありませんよ?私の言葉を信じて次のステージへ進むか、それともこの地でゲームオーバーを迎えるか、、、さて、どうされますか?」
「わぁ~ったよっ!!癪だが言う通りにするしかねぇみてぇだな、、、だが、その前にもう1つ訊かせてくれ、、、」
「なんなりと」
微笑んだままのラスプーチンが答えた。
「この鍵、、、こいつはいつ使うんだ?」
「ホホホ、、、それを使うのは注射を打った後の事。更に言うならば、それを使うのは貴方達では無い」
「どういう意味だ?」
怪訝な表情で更に問う有働だが、それを軽く流す様に答えるラスプーチン。
「そのままの意味ですよ。尤もその鍵が必要となるかは、、、未だ判りませんが、、、ね。
さぁ、これ位で良いでしょう?お急ぎになるのが賢明かと、、、」
「チッ!!」
舌を鳴らした有働が室田へと目を配る。
それに応えた室田は何も言わず、ただ1度頷いたのみだった。
木箱から注射器を取り出した有働。
数回、注射器と新田の顔を交互に見ると、横たわるその首筋へと一気にそれを突き刺した。




