地下1F
室田達が建物内に入り、扉が閉まったのを見届けると、ラスプーチンがJJへと歩み寄った。
「JJ様、、、例の件、首尾は上々にございます」
「そうか、、、御苦労」
それだけの言葉を交わすと2人は、多くのマシンナーズを引き連れその場を立ち去った。
一方、建物内へと踏み入った室田一行。
室田を中心に、4人が囲む様な陣形でゆっくり歩みを進める。
ラスプーチンの言葉を信じるならば、敵は居らずトラップも無い、、、
しかしここは油断する事無く、各々の手には銃が握られていた。
室内の左右には、説教台に向けた木の長椅子が幾列にも並んでおり、その間は人が通れる様、そこそこに広い通路となっている。
しかし一行はあえてその通路を進まずに、左の壁に沿って地下へと進む道を探している。
パキ、、パキキ、、、
足を踏み出す度に、崩れ落ちたステンドグラスの破片が泣き声をあげた。
一目で見渡せる、さして広くも無い室内だが、見たところ階段らしき物は見当たらない。
そしてラスプーチンの言う通り、敵の姿も見当たらなかった。
「1Fはクリアね」
そう言って楓が警戒を解く。
続いてヤコブと有働も銃を下ろしたが、ニコライだけが未だ銃を構えたまま、、、
念の為、サーモ・モードに切り換えた目で室内を見回し、それからようやく銃を下ろした。
「しかし、、、階下への道が見当たらんのぅ、、、」
「ウム、、、ふたテ・二・ワカれ・さがス・と・しよウ」
「そうじゃな、ならば、、、ニコライ、お主は仲良しの有働と入口側から、、、
楓とヤコブは奥の説教台側から碁盤目に探索じゃな。時間も無い、すまんが急いでくれ」
「、、、ナンで・オレ・と・サスがっち・なのダ、、、ナッとく・しかネル、、、」
ブツブツ言いながらも入口側へと向かうニコライ。
しかし有働はそれを上回る勢いで愚痴を溢す。
「そいつぁ俺の台詞だぜ、、、俺だってたまにはこんなゴリラじゃなく、キュートな楓ちゃんと組みてぇよっ!」
「ゴ、ゴリ、、、ダレ・が・ごりラ・ダっ!!」
「まぁまぁ、そうドラミングすんなよ」
「シトらんっ!!」
そんな掛け合いをしながら定位置に就いた2人。しかしニコライと有働が探索を始めるまでも無く、地下への道らしき物は発見された。
「みんな見つけたぞっ!こっちだっ!!」
ヤコブの声で皆が集まると、埃が溜まって判り辛いが、説教台の下に1,5m四方程の扉らしき物が確かに見える。
それは1枚物の鉄板で、輪の形をした鉄の引き手がついていた。
ヤコブと有働が説教台を退かせ、ニコライがその引き手を上へと持ち上げる。
扉が開くと共に、黴臭く湿度を伴った空気が、抑圧から解放された様に吹き抜けた。
楓が穴を覗き込むと、鉄の足場が梯子状に壁へと打ち込まれている。
深さはさほどでも無く、下層の床が裸眼でも目視出来る。どうやら電気も点いているらしい。
「私が先行するわ」
そう言って指輪型のスイッチに触れると、楓の姿が周囲に溶けた。
カン、カン、カンッ
姿は見えぬが、梯子を降りる小気味良い音だけが響く。
しかしそれは直ぐに消え去る事で、楓が下層に到着した事を告げた。
下に降りた楓が前方に目を向けると、直進する通路が長々と伸びており、途中に何ヵ所かの分岐が見える。
どうやらラスプーチンの言う様に、迷路状となっているらしいが、電気が点いているお陰でかなり先までが見通せた。
しかし長々と伸びる通路からも、地下に拡がっているのは建物の敷地面積より遥かに広い事が判る。
楓が五感を研ぎ澄ませ、周囲の気配を探る。
、、、とりあえず、人の気配は感じられない。
やはりここにも敵は居ない様である。
「クリア、、、皆も降りて来ていいわよ」
楓の一言でヤコブが降り、有働が降り、そしてニコライが室田を背負って降りる。
そうして全員が地下1Fに降り立ったその時、不快な音が皆の耳をつんざいた。
ハウリングである。
どうやら何処かにスピーカーが設置されているらしい、、、
ようやく音割れが収まると、次に聴こえたのは洒落た音楽などでは勿論無く、ラスプーチンの声であった。
「皆さん最下層に向かう前に、そこでは少し探し物をして頂きましょう。その階の何処かに木の小箱が置いてあります。
数は2つ、、、豪華な装飾が施されているので、直ぐに判ると思います。
中身は、、、見てのお楽しみにしておきましょう。ただそれが2つ共に揃わなければ、最下層に辿り着いても無意味ですので、そこのところ御了承の程を。では、お先に最下層にてお待ちしております」
そう言い終えるとスピーカーからの声は一方的に途絶えた。
反響した僅かな余韻だけを残し、直ぐに静寂が一同を包む。
「やれやれ、ダンジョンに宝探し、、、まるっきりRPGじゃな、、、」
「まあそう言うな爺さん。今は奴等の言う通りせざるを得ないんだしよ、、、」
「お前に言われんでも、わぁっとるわいっ!」
有働と室田のやり取りに、ステルス・モードのまま楓の声だけが割り込んだ。
「私がこのまま先行するから、流石っちとニコライが左右から、ヤコブは後方からムロティーをガード。何かの時には私がステルスのまま対処するから、ニコライと流石っちは援護、ヤコブはムロティーの安全確保と、余裕があれば後方支援をお願い」
姿は見えぬが、楓が居るであろう場所に目を向け頷くと、一同は再び銃を構えてゆっくりゆっくりと歩き始めた。




