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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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迎え出た者

轟音鳴り響く方向へ皆が目を向けると、ぼんやりながらもゴツい鉄の塊らしき物が迫り来るのが見える。


徐々に明確となるその姿、それは車と呼ぶにはあまりに異形であった。

8つの車輪に分厚く無骨なフォルム。

そして屋根部分には12・7mm機銃が備わっている。

M1126ストライカー、、、いわゆる装甲車であった。


「おいおい、、、迎えって、またゴツいのが来たな、、、」


「まぁこの悪路だしな、贅沢は言えんだろう。迎えが来てくれただけでも、有り難く思うとしなきゃあな」

ごちる有働の肩に手をのせ、ヤコブが宥める様に言う。


「ま、そういう事にしとくか」

有働が自分を無理矢理納得させたところで、皆の前にソレが止まった。

その瞬間、楓とニコライの顔色が変わる。

クロスに描かれたアサルトライフル、それをいくつもの歯車が囲んだデザインのエンブレムが車体側面に描かれている。


「アレは、、、」


「ええ、マシンナーズ・バタリオン、、、何故こんな所に、、、」


すると運転席上のハッチが開き、1人の男が降りて来た。

「待たせてすまねえな、雇い主様が突然迎えに行けなんて言うもんだからよ、出るのに手間取っちまってな、、、」


降りるなりそう言った男、まるで馴染みの様な口調だが、もちろん全員面識は無い。

そしてその男の右腕は、肩から指の先端まで全て、鈍く銀色に光っていた。


「この男もマシンナーズか、、、」

こぼした有働に呆れ顔の楓がツッコム。


「当たり前でしょ、、、マシンナーズ・バタリオンなんだから、、、」


「あ、そっか、、、ハハハ、、、で、そのマシンナーズなんちゃらって、、、何?」


ベタに肩をガクリと落とした楓。

1つ咳を払うと、しょうがないわねといった風情で説明を始めた。


「マシンナーズ・バタリオン(機械化兵の軍隊)、、、その名の通り、全兵士がマシンナーズで構成された傭兵部隊よ。

いや、、、傭兵部隊というより、その規模はもはや国軍にもひけを取らない。今や世界最大の民間軍事企業と言っていいわね」


「へぇ、、、楓ちゃんの居るスケアクロウよりも上?」


「規模ではね。でも実績では未だスケアクロウが上ね。というのもマシンナーズ・バタリオンは未だ出来て日が浅いのよ。

元々はトールギスって名の企業だったんだけど、どういった理由か1度組織を解体してね、、、全兵士をマシンナーズにし、企業名も変えたのよ。その組織改編の時に私とニコライもスカウトされたんだけど断ったの」


「何でまた?」


「悪名高きマシンナーズ・バタリオンってね。仕事が汚い事で有名なの。そりゃそうよね仕事を選んでたら、こんな短期間でここまで規模を拡大出来る訳が無いもの」


「フ~ン、、、」

返事を返した有働だが、1つ何かが引っ掛かっていた。喉につかえた小骨の様に不快な何かが、、、

その何かを探ろうと、楓の解説を頭の中で復唱する。


(規模はマシンナーズ・バタリオンが上、、、実績はスケアクロウが上、、、出来て日が浅い、、、元々はトールギス、、、トールギス、、、っ!!トールギスッ!?)

何かの正体が判明した有働、ニコライの肩を抱きながら、そそくさと楓から離れた。


(オイ、兄弟、、、トールギスってもしかして?)


(アア、、、そうダ、、、かつて・ミヤび・が・しょゾク・してイタ・アノ・とーるギス・ダ、、、)


(やっぱそうかよっ!思い出した瞬間、危うく変な声出しそうになっちまったぜ、、、)


グイと有働の頭部を引き寄せたニコライ、より一層に声を潜めて耳元で告げる。

(イイか?おまエ・ハ・なにモ・シラない、、、ソレ・ヲ・つらぬケ。マチがっても・ヘン・な・そぶリ・ヲ・ミセるなっ!!)


(ああ、わかってる、、、)


肩を寄せ合いヒソヒソと話す2人を、不思議そうに楓が見つめる。そして一言、、、

「アンタ達って、なんだかんだ仲良いよね?」


突然聞こえた楓の声に、スタンガンで撃たれた様に身を震わせた2人。

「ハ、、、ハハハ、、、そうっ!そうなのよっ!!俺達ってば、めちゃくちゃ仲良いのよ、、、なぁ、兄弟っ!?」


あまりの下手くそぶりに頭を抱えそうになるニコライだが、どうあってもここは口裏を合わせねばならない。

「ア、、、ああ、、、キョウだい・ト・ヨブ・ほど・では・ナイが・じつハ・ナカよし・なんダ、、、ハハハ、、、」


兄弟という言葉は断固拒否しながらも、一応は調子を合わせたニコライ。

しかしその実、有働にも劣らぬ自分の下手くそぶりに、吐きそうになっていた。


「フ~ン、、、変なの」

そう言い残して装甲車へと乗り込んだ楓。

既に有働とニコライ以外は乗車を済ませている。


「早よぅせいっ!貴様等っ!!」

後部ハッチからひょっこり顔を出した室田が尖った声を飛ばし、ようやく乗り込んだ2人。


「待たせて悪かったな、、、小便垂れ♪」

悪ぶれる事無く、冷やかしの言葉を投げた有働に、無言・無表情のままで鉄拳を喰らわせる室田。


「痛っ!ア~ッ!このジジイ、グーで殴りやがったなっ!!もっぺん小便垂らさせんぞコノヤローッ!!」


「やかましいわ若造っ!!狭い車内じゃて、ちったぁ静かにせえっ!!」


そんなやり取りで始まった雪原のドライブだったが、意外に早く20分ほどで目的のポクロフスクへと到着した。


降りた一行の前に、出迎えらしき者達が立っている。

10数人のマシンナーズの中央に1人だけ生身の男。

屈強なる鋼の兵士の中、ひょろりとしたその男は一際目立っていた。


長髪を後ろに束ね、顎には手入れのされていない髭がモッサリと伸びている。

深く窪んだ眼窩の奥、不気味にギラついた目が男の怪異さを際立たせていた。

年齢は定かでは無く、30代と言われればそうも見えるし、50代と言われても納得がゆく。

襟元から足元までを包む黒いロングコートの様な服装は、一見すると牧師のようでもある。


独特の雰囲気で、皆の視線を一身に集めるその男、2~3歩前へ踏み出すと驚く程に穏和な語り口でこう言った。


「お待ちしておりました。私、D様へお仕えするキャトル・マジョルドム(四執事)の一人、グレゴリー・エフィモヴィッチ・ラスプーチンと申します。以後お見知り置きを、、、」



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