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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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目的

有働と室田が地に降りると皆も無事な様子だった。

多少のズレはあったものの、皆が近隣に着地していたお陰で、再集合するのに手間取る事も無かった。

一番心配されたニコライだったが、ヤコブと楓が既にコンテナを開いており、無事な姿が確認出来る。

多少の打撲こそあったが、今後に支障が出る程の傷では無かった。

しかし1人だけ、ある意味無事に済んでいない者が居る。

その異変に気付いたのは楓だった。


「どしたのムロティー?そわそわしてさ、、、」


「いや、、、その、、、なんじゃ、、、」

モジモジと何やら言いにくそうに身を捩る室田。


「どした爺さんっ!?まさか着地ん時に怪我でも、、、」


「いや、そうで無くてじゃな、、、その、、、少しチビってしもたわい、、、ハハハ、、、」


「、、、、、、」

ただでさえ寒いシベリアの地だが、室田の一言で更に体感温度が下がった一同。


「いや、その、、、なんかスマン、ええ歳してお恥ずかしい、、、」


「シベりあ・ノ・サムぞら・の・シタ・きがエル・のは・ジサツこうい・ダ、、、フカイ・だろウガ・しばらク・がまん・スルんだナ、、、」


「、、、ハイ」

小さな身体を更に小さくして室田が頷いた。


ニコライと室田がそんなやり取りをしている間に皆ジャンプスーツを脱ぎ、バックパックを背負って移動の準備を終えていた。

さすがに私服での活動は無理という事で、皆、降下後に寒冷地用の軍備を上から重ね着している


「爺さん、端末よこしな」

有働が右手を伸ばした。


「ん?おおっ!そうじゃったな、、、ホレ」


受け取ると有働は直ぐさま基地へと繋ぎ、事の成り行きとダニエルの捜索を依頼した。

すると回線を切ると同時に、別の着信が端末へと届く、、、それはあの男からの物であった。


「ほらよ爺さん、アンタが出なっ!」

そう言って端末を室田へと返す有働。


「ムウ、、、」

Dと表示された画面を見ると室田は、1つ唸ってから着信に応じた。


「ようやく繋がったか、、、端末からの発信も途絶え、通信も繋がらず大層心配したよ。何かトラブルでもあったのかね?」

いつもの部屋からDは、ただでさえ多い皺を更に深くしながらそう尋ねて来た。

応じる室田も苦々しい顔で機内の出来事を説明している。


「ほう、、、それは大儀だったね。しかし無事で何よりだ、よくぞしのいでくれた」


「その反応を見る限り、この件はお主が仕向けた事では無いようじゃな」


「無論だ。我はそんなつまらぬ妨害などせんよ。全ては愚かな人間のやった事、、、諸君が必死に守ろうとしてる人間が、、、ね」

皮肉めいた言葉を口にしたDは、画面の中から憐れむ様な眼差しを投げ掛けている。

ここで有働が横から入り込んで来た。


「なぁ?Dちゃんよ、、、俺には今一つアンタの目的が見えて来ねぇんだわ。人類の大半を人質に取ってまで何がしてぇんだ?」


「フフフ、、、これは天才・有働 流石とも思えぬ愚問。わかりきった事よ、浄化と再生、、、今や100億にまで膨れ上がった人口だが、その大半は下らぬ何の価値も持たぬ者共だ。それを(ふるい)にかけ、優れた種のみを残す。そうして新たなる世界を造り上げる事が、結果この地球すらも救う事になるのだよ」

悦に入った様に恍惚の表情を浮かべるD。

それを鼻で嗤った有働が一言。


「なかなかに中二病をこじらせてるな、、、アンタ」


「フフフ、何とでも言うが良い。しかし誰かがせねばならぬ事。

寄生虫の如き者共のせいで、今や環境破壊などという生易しい言葉では済まぬ地球の現状。

頼みの綱であった他の惑星やコロニーへの移住も、発案から数十年経つというのに、一向に進んでおらぬ、、、ならばどうするか?

答えは簡単だ。寄生虫のみを駆逐すれば良い」

その台詞に苛立ちを隠さぬままで室田が言う。


「人類の大半を滅して己の理想を為す、、、それはもう悪魔の所業じゃろうに」

これを含み笑うD。


「ミスター室田、、、聖書を読んだ事は?」


「いや、ワシは無神論者での」


「なるほど。意外かも知れぬが、聖書の中で悪魔が犯した殺人はたかだか10人に過ぎぬ。

それに対し神は200万、、、ノアで有名な大洪水の件を含めれば、その数は3000万を超える。これで解ったであろう?言うならば我は悪魔では無く神なのだよ」


「フンッ!自らを神と名乗る者にろくなもんはおらんわいっ!歴史がそれを物語っとる!」

そう吐き捨てる室田の横から、再び有働が割り込んだ。


「本当にそれだけか?」


「、、、どういう意味かね?」


「アンタの目的が本当にそれだけなら、こんなまどろっこしい真似をせずとも実行出来てるだろうよ?ゲームと銘打って爺さんを人類の代表に選んだ、、、そこには何か理由があるようにしか思えねぇ、そしてそれこそがアンタの真の目的なんじゃねぇのか?」


「ほぅ、、、これはこれは、、、やはり君は頭が切れる。仰る通りだよ、仰る通りだがそれについては諸君がこの地に辿り着けたならば話す事にする。だが、、、君の頭脳に免じて1つヒントを与えよう、、、

(私はアルファであり、オメガである)そんな所だ」


「ヨハネの黙示録21章第6節、、、か、なるほどな」

1人頷く有働の周りで、残る4人がポカンと口を開けている。

そしてとうとう焦れた楓が説明を求めた。


「ちょ、、、1人で納得してないでどういう意味か教えてよっ!!」


「私はアルファであり、オメガである、、、つまり自分は始まりであり終わりであるって言ってんのさ、、、あとは自分で考えな」

珍しく楓に対して突き放す様に言った有働。

そして楓はただ恨めしそうに頬を膨らませていた。


「で、俺達はここからどう動きゃいいんだ?」

すっかり会話の主導権を握った有働がDに問う。


「その地点から北へ12kmほど行った所にポクロフスクという街がある。そこで我が配下キャトル・マジョルドム(四執事)の1人、グレゴリー・ラスプーチンが待っている」


「かぁ~っ!この寒空の下、12kmも移動しろってか!?」


「フフフ、、、心配には及ばんよ。

ようやく諸君の居場所が探知出来たのでね、回線が繋がると同時に迎えを送るよう、ラスプーチンに申し渡しておいた。そろそろそちらに着くと思うが、、、」


「そいつは助かるぜっ!なんせこっちにゃ年老いた小便垂れが1人居るもんでな♪」


「オイッ!コラッ!!バカッ!!!」

顔を赤くした室田が、有働の口を塞ごうとやっきになっている。


「ほぅ!?小便を、、、なかなかに興味深い話だが、今日のところはこれ位にしておこう。その話も諸君が辿り着けた時に土産話として聞かせてくれたまえ、楽しみにしておくよ」


「それはそうと、、、今日は隣にあのJJとかいう男が見当たらねぇな、、、」


「ああ、奴は最も優秀な部下だが、最も手を焼く男でもあってね、、、我ですらその動向を全ては把握しておらぬのだよ。まぁそれを我自身、楽しんでいるのだがね」


「フフン、飼い犬はしっかり繋いでおかなきゃ、そのうち噛まれる事になるかもよ」


「覚えておこう、、、ではそろそろ失礼するよ。諸君の旅が良い旅である事を、、、」

その言葉で締められた回線が切れると同時に、前方から白煙とも雪煙とも区別のつかぬ物を巻き上げながら近付く物があった。



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