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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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決行

「さ、350kgて、、、痩せろっ!今すぐ痩せろ兄弟っ!!」


「、、、ヤレる・だけ・ヤッて・ミヨう」

そう言ってニコライが黙々とスクワットを始める。どうやら徐々に有働の世界観に毒されて来ているようである。


「ふざけとる場合かっ!!」

ごもっともな言葉で室田がそれを一喝した。

ここでヤコブが新たな問題を口にする。


「仮にパラシュート降下をするとしてだ、ジャンプスーツは人数分あるのか?

この服装のままで降下なんてしたら、空気摩擦で皆ズタボロだぞ、、、それに人数分あったとしても、とてもニコライに合うサイズは、、、」


「むう、、、ワシは詳しく無いんじゃが、降下時の空気摩擦とはそれほどの物なのかぇ?」


「今着てる服が消し飛ぶのは勿論だけど、皮膚も火傷にさらされるでしょうね、私はステルスアーマーだから平気だけど、、、」


押し黙る面々。そこへパイロットがおずおずと消え入りそうな声を掛ける。


「スーツは人数分に足ります。そして1つニコライさんの重量にも耐えられるパラシュートがあるにはあるんですが、、、」


「!!」

「!!」

「!!」

「!!」

「!!」

皆の頭上にエクスクラメーションマークが並び立つ。


「あるならあるって早く言えよっ!そうと決まれば直ぐに、、、」

逸る有働をパイロットが引き止めた。


「待って下さい!あるにはあるんですが、、、そのぅ、、、コンテナでの物資投下に使用する物でして、、、パラシュートには既にコンテナが接続させてしまってます。ですから使うのなら、そのコンテナに入って降りて貰う事に、、、」


それを聞いたヤコブが顎をさすりながら言う。

「ああ、、、確かにさっき見回った時、機体中部にコンテナがあったが、、、あれに人が入って降りるとなると、着地時の衝撃はかなりの物だろうな、、、そもそもあんなのを投下出来るシステムがこの機体に備わっているのか?カタパルトがある訳でも無い旅客機がベースの機体に、、、」


「それは問題ありません。この機体は我が軍で物資投下など、支援用に使用されて来た物で、その為の改造は施されています。

機体の下部、丁度コンテナの置かれてた部分がハッチになっていて、開くと同時に投下される仕組みです」


「因みにどれ程の重量に耐えれんだ、そのパラシュート?」


「空挺戦車にも耐えられるので、軽く数トンは、、、」


「て事は、ここに居る全員が入ったとしてもお釣りが来るって訳か、、、

確か投下用コンテナは下部に耐衝撃パレットが付属してたよな?」


「ええ、付いてるには付いてますが、それでも中身の物資が破損する事は稀にあります。コンテナ内部にも耐衝撃材が貼られているとは言え、やはり危険、、、かと」


「そうだっ!非常脱出用シュートってあるでしょ?あの滑り台みたいなやつ!あれを外してコンテナ内部に敷き詰めるってのはどうかしら?」


「楓ちゃん、悪くない案だけど、そんな時間は残ってねぇよ、、、もう一か八か、、、」

そう言うと有働は、何とも言えない表情でニコライへと視線を投げ掛ける。

それを感じ取ったニコライは、珍しく笑顔を浮かべると


「オレ・ノ・からダ・は・そんな・ニ・ヤワ・じゃナイ、、、しんパイ・は・フヨウ・だ」

そう言って不安げな有働の視線に応えた。


「すまねえな兄弟、、、そうと決まれば直ぐに決行だ。オレと爺さんはタンデム。楓ちゃん、ヤコブの大将、パイロットのあんちゃんは各自で降下、、、いいな?」


一同が頷く中、パイロットだけが首を横に振る。

「私まで降りてしまっては、この機が何処に墜ちるか判らない、、、万一、街にでも墜ちたならその被害は甚大な物になってしまう。

最後の最後まで諦めずに足掻く、、、それがパイロットってもんでしょ?」

そう言って微笑むパイロット。


「お前、、、」


「あ、誤解しないで下さいよ!死ぬ気なんて毛頭ありませんから。そこまで殊勝じゃありませんよ!海上に出て、胴体着陸を試みるつもりです」


「無線はやはり通じてねぇのか?」


「ええ、ずっと試してましたが、応答はありません。どうやらこの機体その物にジャマーが取り付けられてるみたいですね、、、」


「そうか、、、地上に着いたら直ぐに捜索依頼を基地に伝える、、、だから絶対に死ぬなよっ!」


「パイロットとしての責務は尽くします。ですから皆さんは皆さんの責務を成して下さい!」

力強い笑顔を返すパイロットだが、そこには強い覚悟も見て取れる。

それが有働には辛かった、、、


「あんちゃん、名前は?」


「え?あぁ、、、ダニエル、、、ダニエル・アンダーソンです」


「そうか、覚えとく。又会おうぜ、、、ダン!」

あえて愛称に変えて呼んだ有働に、一瞬驚いた顔をしたダニエルだったが、直ぐに先と同じ強い笑顔を浮かべると


「ええ、、、必ずっ!!」

その笑顔に負けぬ強い口調でそう答えて見せた。



いよいよ降下の時。

比較的低い400mまで高度を下げ、機体速度210k/hからそれは行われる。

先にニコライを積んだコンテナを投下し、ヤコブ、楓、有働&室田の順に降りる事となった。


「パラシュート同士が絡まんねぇように、しっかり距離は保てよっ!!」

元レンジャーの有働がアドバイスを送るが、ヤコブも元々エリート軍人であり、楓に至っては現役バリバリの傭兵である。

そんな2人だから不愉快に感じたのは無理も無い。そして2人はムッとした顔で声を揃えた。


「誰に言ってる?」

「誰に言ってんの?」


「お~お~、お熱い事で、、、」

有働がハモった2人を冷やかしたところで、スピーカーからダニエルの声が響いた。


「ハッチ開きますっ!!3・2・1、、、グッドラック!!」

同時に機体の腹の部分が観音開きとなり、ニコライを積んだコンテナが落ちてゆく。

パラシュートは最初から開いた状態で繋がれているのだが、それでも上から見るとかなりのスピードに映る。


それを目の当たりにした室田、又もや臆病風に吹かれたらしく、青い顔で念仏を唱え始めた。

「なんまんだぶ、、、なんまんだぶ、、、」


「よせよ爺さん、縁起でもねぇっ!」

しかし室田は聞く耳を持たず、相変わらず唱え続けている。

「なんまんだぶ、、、なんまんだぶ、、、」

それを尻目に何の躊躇いも無くヤコブが飛んだ。

続いて楓

「おっ先ぃ~♪」

そう言ってウインクと投げキッスを残すと、これまた躊躇いを見せずに飛ぶ。

そしていよいよ有働&室田の番となった。


「行くぜ、爺さん」


「なんまんだぶ、、、なんまんだぶ、、、」


「てめえ!縁起悪いからそれ止めろって!それじゃあ(行くぜ)が(逝くぜ)になりそうじゃねぇかよっ!!」


「なんまんだぶ、、、なんまんだぶ、、、」


ダメだこりゃとばかりに鼻息を漏らすと有働は、まるで我が家のベッドにダイブするかの様に一気に宙空へと身体を投げ出した。


「なんまぁ~ん~だぁ~~ぶぅぅぅ~~」

有働の軌跡には飛行機雲の様に、室田の声が尾をひいていた。


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