脱ぎ捨てられた靴
「いやいや待てって!!離陸時にあったはずのタイヤが、今になって無くなってる訳ねぇだろぅよっ!?」
有働が声を張る。
「そうは言っても無い物は無い、、、事実なんだ、、、」
ヤコブの言葉にニコライも頷き
「ダガ・あし・ノ・ブぶん・だけ・は・ノコッていタ、、、たいヤ・ダケ・が・ない・ノダ、、、」
そう付け足した。
「て事は、離陸後に誰かが細工をした、、、って事になるわね、、、」
「いや、それは無いだろう。もしそうならば機内に外したタイヤが残っているはずだ。それに念の為に機内も見て回ったが、我々以外の人間は見当たらなかった」
「離陸後にタイヤを外し、手動でタイヤ収納口なり投下用ゲートなりを開いて、そこから棄てた、、、そして犯人もそこから脱出って事は無いかしら?」
ヤコブと楓のそんなやり取りを聞いていたパイロットが、申し訳無さそうにそれを否定した。
「もしそうならば、ゲートの開いた事を警告灯が報せます、、、ずっと見てましたが、そんな事は、、、」
すると、顎に手をやりずっと考え込んでいた室田が、独り言の様にポツリと溢した。
「スキーとスケボー、、、かのぅ、、、」
そしてその一言を拾った有働、何やら合点がいったらしく、納得の表情でポンと手を叩いた。
「スキーとスケボーか、なるほどっ!上手い喩えじゃねぇか爺さんっ!」
「ドウいう・コトだ?イミ・が・ワカらん、、、」
「そうよ、私達にも解るように説明してよね」
急かされた室田が1つ咳を払い、皆をジロリと見回してから口を開いた。
「難しく考えんでも、そのままの意味じゃよ。スケボーは別として、皆も1度くらいはスキーの経験があろうよ?スキーは靴と板をフックで固定している。その為プレイヤーがジャンプしたとしても、当然板も同じ様に宙に浮く。
しかし固定されておらぬスケボーならばどうじゃ?
勿論プレイヤーがテクニックを駆使して板を浮かす事は出来ようが、普通にジャンプしたならば、プレイヤーだけが浮き、板はそのまま地を這うはずじゃ、、、」
それに頷いた有働が、補足する様に別の喩えを口にする。
「子供が大人の靴を履いて、ズリズリと擦るように歩いてるとしな。
擦ってる間、何とか靴は脱げずに済む、、、子供の体重に抑えつけられてるからな。
だが、もしその子供がジャンプしたならどうなる?重しを失った靴は容易く脱げちまう、、、つまり飛行機の脚が残ってたって事は、その先端に車輪付きの何かがあって、機体が浮くと同時にそれが外れる仕組みだったって事だろうよ」
「という事は、、、滑走路には脱ぎ捨てられたその靴が、ポツンと残されてるって事か?無線で基地に問い合わせを、、、」
そう言うヤコブだが、それを室田が止めた。
「無駄じゃよ。助走で勢いのついた車輪は、惰性でそのまま走り、滑走路の端から海にドボンッ!じゃろうよ」
「し、しかし、、、聞いた話では公軍・私軍に関わらず、軍関係者は皆SもしくはAにランクされていると言う、、、ましてスケアクロウは貴方の会社だろう?我々を止める理由が無いはずだ。一体誰が何の為に、、、?」
ヤコブが新たな疑問を提示する。
「スケアクロウにも既にミミックが紛れ込んでる、、、って事じゃないかしら?」
楓の推測に皆が重い頷きを見せる中、有働だけが神妙な面持ちでそれを見渡している。
そしてその表情のままで、静かに己の考えを述べ始めた。
「楓ちゃんの考えも、可能性としては十分にあり得る事だ。でもな、良い機会だから俺がずっと気になってる事を皆も聞いてくれるか?
それはS・Aにランクされた人間が、全て俺達の味方とは限らない、、、って事だ」




