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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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兄弟

ニコライの話を押し黙ったまま聞いていた有働。

しかしニコライが話し終えると、突然ボートの床に正座をし、そのまま頭も床へと擦りつけた。


「嫌な事を話させて本当にすまなかった、、、許してくれ兄弟、、、」


土下座、、、日本人が最も深い謝意を示す行動をもってニコライへと詫びたのだ。


「よせ、、、オレ・の・イシ・で・ハナした・コト・ダ、、、おマエ・が・わびル・ヒツよう・は・ナイ」


そう言われてからも暫く頭を下げていた有働。

そしてようやく頭を上げると


「その事、、、楓ちゃん本人は?」

恐る恐るそう尋ねた。


「モチろん・シラん」


「、、、だよな」


重苦しい空気の中、沈黙が時を食い潰す。

それを破り、最初に口を開いたのはロシモフだった。


「そんな事があってよ、ニコライは勿論、その話を聞いた俺も会社に嫌気さしちまって、今の会社スケアクロウに移ったって訳よ」


「その後の楓ちゃんは?、、、あっ!勿論話たくなけりゃ話さなくていい、、、」


有働の言葉にロシモフがニコライへと目配せをする。

それは(話せよ)という意味では無く、(俺が話そうか?)という問い掛けの目配せ。

そしてその意味を察したのだろう、ニコライも無言で頷きそれに応えた。


「俺とニコライ共通の知り合いが居てよ。

そいつも同業者なんだが、結婚してもなかなか子供を授からなくってな、、、まぁ、あとは解んだろ?」


小刻みに頷いた有働。

「じゃあその夫婦が楓ちゃんの親代わりって訳か、、、実際、産まれて直ぐの頃から育ててるんだから本当の親と言って良いよな、、、

産みの親より育ての親って言うしよっ!

で、そのご両親はどこに?」


あえて明るい語尾で締め括ろうとした有働だったが、2人の表情はどうにも苦い、、、


「ん?あれ?、、、俺、また何か悪い事言った、、、かな?」

珍しく空気を読んだ有働が、首を竦めながら2人の間で視線を往復させる。


「シンだ・よ、、、」

ニコライがボソリとこぼす。


「え、、、?」


「あの子が18の時によ、家族でドライブ中に事故にあってな、、、可哀想にあの子だけが生き残った、、、と言っても瀕死の重傷でな、それが切っ掛けであの身体になったんだ。

その手術費用は匿名でニコライが出し、その後の生活費もニコライが全て負担した、、、勿論、傭兵会社の遺族年金って名目で、、、な」


(おとこ)だな、、、兄弟、、、」


「ソンな・びだン・ジャない、、、じぶン・ノ・ツミ・の・いしキ、、、それ・カラ・のがれテタ・タダ・それダケだ、、、」


「、、、」


「コイツァよ、決して表立ってはあの子の人生に関わらなかった。全く知らない他人のままで終わるはずだったんだ、、、」

言いながらロシモフが首を振る。


「それがなんでコンビ組んでんだ?あっ!、、、言いたくなけりゃ、、、」

有働の言葉を遮る様に、今度はニコライ自らが口を開いた。


「トツぜん・アイツ・は・あらワレタ、、、オヤ・の・いた・センじょう・とイウ・せかい、、、ソレ・が・ドンなもの・カ・シリたい、、、ソウいって・スケアくろウ・に・にゅうタイ・して・キタんだ、、、」


「それを聞いた時ゃ俺も驚いたぜ、、、しかも教育係としてニコライが就く事になったって言うしよ、、、偶然なんだが、運命というか、神さんの悪戯っつうか、、、よ。

それでコイツァ何があっても生きて帰す為に、全てのミッションであの子とパートナーを組むようになったのさ」


「やっぱ(おとこ)だよ、、、兄弟、、、」

しみじみと言う有働に対し、ニコライは小さく溜め息を吐く事しか出来なかった。


話を終えるとほぼ同時に、スケアクロウ・アジア基地へと辿り着いた。

到着するなり、チョンチョンと後ろから肩を叩かれた有働。

振り返るとそこには、ニンマリと笑みを携えた楓が立っていた。

先の話を聞いたばかりで動揺した有働だが、なるだけ自然を装ってそれに応える。

しかし、、、


「なぁ、、何かなぁ~~?か、楓ちゅわぁ~ん、、、」

声が上ずって全く装えていない、、、

ニコライとロシモフが頭を抱えて首を振った。


「へへぇ~♪流石っち、アンタまたニコライを怒らせたでしょ~?」

有働にすり寄る様にして、無邪気で少し意地悪な笑顔を浮かべる楓。


「え、、、?な、なんでぇ~そう思ったのかなぁ~~?」

その大根役者ぶりに、もはやニコライとロシモフは仄かな殺意すら抱いている。


「そんな焦らなくっていいじゃん!だって私達後ろのボートから見てたもん、アンタが土下座してる所♪それ見て、あ~ぁまた怒らせたんだぁって皆で笑ってたんだから。んで、これは基地に着いたら直ぐにイジらなきゃって思ってたんだぁ♪」


身体を揺らして何やら楽しそうな楓、それを見て有働はフッと力の抜けた気がした。

(過去がどうであれ、彼女は今が幸せなんだ、、、ならそれで良いじゃないか)

そう考えると途端に楽になり、ようやく普段の接し方に戻れた有働。


「そうなんよ~!聞いてくれる?楓ちゃん!全く兄弟の短気には閉口するぜっ、、、ちょっぴりからかっただけでソッポ向いちまってさ、一言ボソリと(ドゲざ・しろ)だぜ?

有り得なく無ぁ~い?」


「ハハハッ!何それぇ♪でも今のモノマネ似てたよっ!」


キャッキャと言いながらブリッジへと向かう2人を見て、胸を撫で下ろす想いと、有働のでまかせに腹立たしい想いを交錯させるニコライ。

その肩に腕を乗せながらロシモフが言う。


「なかなかの男じゃねぇか、、、お前の兄弟」


「アア、、、そうダナ、、、」

軽く微笑み小さく頷いたニコライだったが、ハッと我に返ると、ロシモフに顔を突きつけながら一言放った。


「キョウだいッテ・イウなっ!!」

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