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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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女神と天使

「なっ!?オイッ兄弟よ、、、まさかそんなクソみてぇな命令を受けたなんて言わねぇよな?」

話を聞いて憤慨した有働は今にも飛びかからんばかりの形相だが、ロシモフがそれを宥めた。


「若いの、、、人の話ってのは最後まで聞くもんだ」


「、、、確かに、、、な。すまなかった」

嗜められ、冷静さを取り戻した有働が素直に詫びる。

再び聞く態勢に戻った有働を一瞥すると、今度はニコライへと視線を向けるロシモフ。


「ニコライ、、、キツけりゃこっから先は俺が話すが、、、?」


「イヤ、、、これハ・オレ・の・つミ、、、おれ・ガ・はなス・べき・ことダ、、、」

ニコライは話し始めた時と同じ、(へり)に鉄の肘をついた姿勢のままで静かに答えた。


「そうか、、、わかった」

ロシモフもそれ以上は何も言わず、ボートの運転に専念する。


「コロす・の・デハ・なく・せっトク・する、、、ソレ・を・じょうケン・に・オレ・は・その・ニンむ・ヲ・うけタ、、、そしテ・はんトシ・かかッテ・ようヤク・いばショ・を・つきトメた」



ー・ー・20年前、ブラジル・ー・ー

サンパウロ市の中心部近く、リベルダージ。

名だたる日本企業が多数進出している事から、世界最大級の日本人街となった街。

しかし徐々に中国や韓国からの移民が増え、現在は正式に「東洋人街」という呼称に改名されている。


そんなリベルダージ駅前広場沿いにある、日本人専用マンション。

その一室に雅は居るという、、、

近代的で立派なそのマンションは、治安の悪さに見合ってセキュリティはしっかりしている。

ニコライが本気になれば入り込めない事は無いのだが、極力荒事は避けたい。

かといって普通にインターホンを鳴らしたところで、雅が素直に応じてくれるとも思えなかった。


するとその時、何かの配達らしき車がマンション前に停まるのが見えた。

ニコライはその配達人に便乗し、偶然入るタイミングが合ったのを装いながら、まんまと足を踏み入れた。

エレベーターの到着を待つのがもどかしいのか、配達人は荷物を抱えて階段を駆け上がって行ったが、ニコライは心を落ち着かせながらエレベーターを待って5階のボタンを押した。


エレベーターを降り右に行くと、5つの部屋があり、その一番奥が雅の部屋らしい。

しかし問題はここからだ、、、

マンションに入れたからと言って部屋に入れた訳では無いのだ。

(自分は刺客として現れたのでは無い)

その事を解ってもらう為、あえてTシャツにデニムという軽装を選んだ。

警戒させぬ様にと手荷物も持ってはいない。

この姿を見て貰えば、雅なら理解してくれるはず、、、

その一点に賭けたニコライが、意を決してドア横のボタンに指を伸ばしたその時、エレベーターホールに人の気配を感じた。


左手には買い物袋を抱え、右手でベビーカーを押す女性、、、雅であった。

鬼と呼ばれたのが嘘の様に、女神さながらの笑顔をずっとベビーカーへと向けている。

未だニコライの存在に気付いていないらしく、ゆっくりゆっくりと歩いて来る。

かつて最高の女兵士と呼ばれ、追われる身の人間が、こんなにも無警戒に、、、

既に全てが母なのだな、、、ニコライはそんな想いでただ黙ってそれを見つめていた。


そしてようやく視界にニコライを捉えると、雅がゆっくりと顔を上げる。

目が合うと一瞬驚きの表情と共に歩みを止めたが、不思議と恐怖心は無いらしく、直ぐに笑顔を投げ掛けた。


「あちゃ~、とうとう見つかったか、、、でも何となくアンタが来る様な気はしてたよ。久しぶりだね、、、ニコライ」


「お久しぶりです、、、BOSS」

ニコライが腰を折る。


「しかし何だい、その格好は?とても追手にゃ見えないよ♪」

雅がケタケタと笑うと、つられた様に無垢な笑い声がベビーカーからも響いた。


「ねぇ~♪変なお兄ちゃんでちゅねぇ~♪」

屈み込んだ雅が赤ん坊の頬にキスをすると、その笑い声は更に大きくなった。


「い、いや、、、この格好は、、、」


「解ってる。非武装を示したんだろ?アンタらしいけど、治安の悪いこの地でそれはちょっと不用心と言わざるを得ないねぇ、、、

ま、立ち話もなんだし、さあっ!入って!」

そう言うとニコライを押し退けてドアを開いた雅。

そしてベビーカーからは今も天使の歌声が響いていた、、、


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