旧友
手結港に着くと、既に迎えは到着していた。
屈強そうな男が2人。
どちらも迷彩柄のカーゴパンツに、ポケットの沢山ついた濃いカーキ色のベストを着ている。
1人はカミソリの様な目をした、冷徹な印象を与える短髪の男。
もう1人はボサボサの髭面にモヒカン、更に巨体という山賊の様な風貌。しかしその表情はにこやかで、陽気な人柄が窺い知れる。
「ようっ!久し振りだなニコライッ!!まだ生きてたかよお前っ!ガハハハッ!!」
モヒカンの男が、その風貌通りの豪快な笑い声を響かせてニコライを抱き寄せた。
「ロシもふっ!おマエ・こそ・ゲンき・そうデ・ナニより・ダっ!」
普段、岩の様なニコライの表情が、珍しく喜びで緩んでいる。
どうやらこの2人、かなり昔からの馴染みらしい。
ロシモフがもう1人の男を手招きし、近くへと呼び寄せた。
「コイツぁ最近入った新人でな、名前はディック。コードネームはアイスマンだ。まだ若いが、腕は勿論こっちの方も中々に切れる」
頭を指差しながらそう言うと
「まぁ期待のルーキーって奴だ。ほらっ!皆さんに挨拶しなっ!」
と、ディックに促した。
腕を後ろに組み、肩幅に足を広げたディック。
「紹介に与りましたディックと申します。まだまだ若輩ですが、以後お見知り置きの程を」
ハキハキとした口調でそう述べると、切れのある動きで腰を折り、バネでも仕込まれているかの様なスピードで元へと戻した。
その間、何故かロシモフはずっと楓を見つめていた。その視線はとても優しく、そして何処か悲しげにも感じさせる、、、
しかし言葉を掛ける事はせず、ディックの挨拶が終わると直ぐに皆へと向き直り
「とりあえず話は後だ、早速基地へと向かおう。2台のボートに分乗して貰うんだが、組み合わせをどうするかな、、、よしっ!ニコライとそこの変な頭の日本人、俺のボートに乗りなっ!残りはディックのボートだ」
「へ、変な頭っ!?、、、モヒカンのアンタに言われたくねぇよっ!!」
ロシモフは有働がムキになるのを見ると、又も騒音に等しい笑い声を轟かせ、足早にボートへと乗り込んだ。
基地へと向かうボート上。
有働が腕を組み、仏頂面でそっぽをむいていた。
「どした若いの?えらく楽しそうじゃねぇかっ!?」
ロシモフが操艇しながら、皮肉混じりにそれを
からかう。
「ケッ!そりゃ楽しくもなるぜっ!ゴツくてムサいオッサン2人と潮風浴びてんだからよっ!!楽し過ぎて涙が出て来らぁなっ!!だいたい何で分乗する必要があんだよ?このボートなら6人乗れんだろがっ!?」
一句一句、吐き捨てる様に有働が言う。
「ガハハハッ!言うねぇ若いのっ!しかし分乗はしょうがねぇんだわ。なんせニコライ1人で3人分の体重があんだからよ。まっ!基地までは15分程だ、、、諦めて野郎3人で海上ドライブと洒落こもうやっ!ガハハハッ!!」
「さ、3人分て、、、少しダイエットしろよな兄弟、、、」
恨めしそうに有働が睨むが、例のごとくニコライはそれをスルーしている。
「ほうっ!?人間嫌いのお前が兄弟分を持つたぁな、、、珍しいじゃねぇか、え?ニコライ」
意外そうにロシモフが声を掛けると、鼻を鳴らしたニコライがそれに答える。
「フンっ!コイつ・が・カッテ・に・いっテル・だけ・ダっ!」
「ガッハハハッ!そういう事かよっ!」
海上でも豪快に笑い声を響かせたロシモフだったが、突然神妙な面持ちとなると、今までが嘘の様に静かな口調でニコライへと問い掛けた。
「それはそうと、、、さっきの若い娘、、、あれがボスの、、、雅の忘れ形見か?」
問われて、一瞬全身に力を込めたニコライ。
気まずそうにチラリと有働を見やる。
すると案の定、興味を持ったらしい有働もニコライを見つめ、無言で説明を求めていた。
ニコライは逡巡に苦しんだが、諦めの溜め息を吐き出すと、覚悟を決めた様にロシモフの問いに答えた。
「ああ、、、かのジョ・ノ・なハ・かえで、、、おれタチ・の・ボスだっタ・みやビ・の・むすメ、、、だ」




