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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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鉄杭

ヤコブが板尾の首に背後から腕を回し、真っ当な形で人質に取った。

勿論板尾の米噛みにはヤコブの愛銃S&W・M686が突き付けられている。


「あ、君達。変な動きはしないようにね。今後もお前等の大将とお喋りしたいなら、、、ね」

有働が手をヒラヒラと振りながら警告を与えた。

ニコライを先頭に有働・室田が続き、板尾を盾にしたヤコブと、相変わらず不機嫌オーラを漂わせた楓が殿(しんがり)を務めて車へと向かう。

残されたチンピラ達は苦い顔でそれを見つめ、ジリジリと追う機を窺っている。

男達が動こうとすると楓が銃を向け、ヤコブも手にした銃に力を込める。

そうしてチンピラが動きを止め、次のチャンスを窺うという繰り返しは、いい大人が集まって「ダルマさんが転んだ」をやっている様である。


店を出た所で板尾が声を絞り出した。

「お、俺をどうする気だ?」


「ん?どうもせんよ。この場さえ切り抜ければ自由にしてやるでな、、、暫く大人しゅうしとれ」

板尾へ視線を返しもせぬまま室田が答えた。


「逆に訊くけどよ、なんで俺達がここに居る事が判った?まさかDが情報を流したとも思えねぇし、、、」


有働の問いを板尾が鼻で嗤う。

「へっ!ヤクザの情報網と機動力を嘗めんなっ!!」


「それもそうだな、、、確か昔、神戸が震災に見舞われた時も、真っ先に救援物資を運んで来たのはアンタの同業者だったってな?ある意味大したもんだよ」

妙に合点がいった表情で有働は頷いた。


そうこうしている内に無事車へと辿り着いた一行。

その後方10m程の所に、後を追って来たチンピラ達の姿が見える。

殊勝な事に目を潰された男も、耳を飛ばされた男も包帯代わりにネクタイを傷口に巻いて、その中に加わっていた。


有働が板尾に問う。

「車のキーは誰が持ってる?」


「、、、、」

答えぬ板尾。

それを見た有働が爪楊枝を手にニヤリと嗤った。


「ひ、1つは俺だ、、、もう1つはお前が目をぶっ潰しちまったあの男だよ、、、」

恐怖に負けた板尾が素直に答え、悔しさに舌を鳴らす。


「あ、そ。じゃあ取り合えず、アンタの持ってるのを寄越しな、、、あ、やっぱいいや。キーを取るふりして、妙な物を出されても厄介だしな。楓ちゃん、そいつのボディチェックして探してくんない?」


鼻息を鳴らしながらも従った楓が、板尾の全身をまさぐった。

「あったわよ、、、」


「あんがと♪」

楓からそれを受け取ると今度は、先程自分が目を潰した男へと手招きをする。

キョロキョロと周囲を見渡し、自分が呼ばれてる事を知った憐れなチンピラ、、、

最後の望みを託し、確認の為に己を指差してみる。

無情にもニコニコしたままでそれに頷いた有働。

するとチンピラは明確な落胆と怯えを見せながら、トボトボとした足取りで近付いて行く。


有働が無言の笑顔でチンピラへと手を差し出す。

「??」

キョトンとするチンピラへ焦れた板尾の怒号が飛んだ。

「車のキーじゃボケッ!!はよ渡したらんかいっ!!」

ビクリと身を震わせたチンピラ

「へ、ヘイ!すんまへん兄貴っ!!」

そう答えながらキーを有働へと手渡す。


満足そうにそれを受け取ると有働は、未だ笑顔のままでチンピラの肩を抱いた。

「んじゃぁ次の質問♪お前等の車はどれとどれ?嘘ついてもキーがこっちにある以上、直ぐにバレるんだからよ、素直に答えろよな、素直に」


困り顔で探る様に板尾へと目をやったチンピラ。

対して苦虫を噛んだ様な表情で、板尾がそれに頷いた。


「これと、、、これです、、、」

チンピラが指し示した車へと、それぞれのワイヤレスキーを向けた有働。

すると確かに解錠された音が響いた。


「どうやら本当らしいな、エライエライ♪」

そう言って有働がニコライへと目配せをする。

それを受けノシノシとやって来たニコライは、連中の車の前に立つと己の左手をボンネットに向けた。


すると機械音と共に掌が内側へと折れ込み、手首部分に巨大な銃口らしき物が現れた。

そして機械化されている前腕部がブローバックし、そこから一升瓶程もある大きさの鉄杭が飛び出したっ!

それは車のエンジン部分を貫くと、ピストンする様に素早く前腕へと収まった。

そのままもう1台のエンジンも同じく破壊するニコライ。


その様子をチンピラ共のみならず、有働までが呆気に取られてポカンと見つめている。

「兄弟、、、エゲつねぇな、、、」

思わず口走る有働を見やり、不思議そうに首を傾げたニコライ。


「サッキの・しセン・は・ハカい・しロ・と・いう・イミ・では・ナカった・のカ?」


「い、いやそうだけどよ、、、C4とか銃を使うのかと思ってたから驚いちまって、、、まさかパイルバンカーが内蔵されてるとはな」


「ジュウだん・ばくダン・ともニ・ムダに・したくナイ・のでナ・コイつ・なら・ナニも・しょうモウ・せずニ・すむ、、、それト・ソノ・きょうダイ・ってノ・イイかげん・ヤメやがレッ!!」


「そうツレない事を言いなさんなっ!キョ・ウ・ダ・イ♪」


「やメロッ!!キモち・わるイッ!!」

寄り添う有働を突き放すニコライ。


「お前等、じゃれ合っとる場合かっ!!先を急ぐぞいっ!とっとと乗らんかっ!!」

先に乗り込んでいた室田が怒鳴りつけ、その恫喝に有働とニコライが肩を竦めた。


「兄弟のせいで怒られたじゃねぇかよ、、、」


「イツか・おマエの・ヘラズくち・ニモ・ぱいルバンかー・ヲ・オミまい・してヤルっ!!」

小声で小競り合いを続けながら車に乗り込んだ2人。

最後に板尾へと銃を向けたままのヤコブが乗り込み、楓は男達を牽制しながら車体天井へとその身を預けた。


ニコライがエンジンをかけると有働が窓を開け、そこから2つのキーを投げ捨てる。

「こいつは返しとくぜっ!ま、もう役には立たねぇと思うけどよ、、、んじゃアディオス♪」


完敗を喫し、完全に戦意を喪失した蟹淵組の男達、、、キーを拾う事もせずに有働の捨て台詞を聞き、黒煙を吐く車の前でただただ立ち尽くしていた。

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