表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
49/177

ミミック

「見えたっ!駐車場じゃっ!!」

室田が叫ぶと同時にヤコブが背後を確認する。

「どうやら追手は居ないようだ、、、」


そしてニヤニヤしながら有働も口を開いた。

「しかしさぁ、、、あんなゴツくて目立つ車に乗るより、このままニコライ号に乗ったまま向かった方が安全じゃね?」


「オまえ、、、コノまま・ホウり・なげルゾッ!!」


「冗~談だよ、冗~談っ!んな怒んなよ兄弟っ!!」


こうして市営の地下駐車場へと潜った一行、なんとか無事に車へと辿り着く事が出来た。

その腕から皆を下ろしたニコライと、息を弾ませた楓が直ぐ様車体をチェックする。


「あれ?やっぱ楓ちゃんも走れば息切れするんだ?」

有働の問いに手を止めぬままで答える楓。

「当然でしょ?人を全身機械のモンスターみたいに言わないでくれる?」


「いや、、、ごめんごめん、そんなつもりじゃぁ、、、」

失言を悔いているらしい有働、その言葉を遮り尚も楓が続ける。


「人工筋肉は大量の酸素を消費するの。

その為に私は、自前の心臓の他に人工心臓が2つ埋め込まれてるのよ。

そうして3つの心臓で人の3倍の量の血液を循環してるって訳。普通の人並みに疲労も感じるわ」

言い終えると同時に、2人が車のチェックを終えた。


「サイく・は・されテ・イナい・ようダ」


「なら、もたもたしておれんぞぃっ!直ぐに出るぞっ!!」


「ま、、待ってくれムロティー、、、俺も車で来ていてこの駐車場に停めている。直ぐに取って来るから、2台に分乗した方が何かと都合が良いかと思うんだが?」

ヤコブが提案するが、それは室田に敢えなく蹴られた。


「時間が惜しいわいっ!それに道中ではお前さんからミミックについて聴かねばならんしの、コイツで一緒に行くぞいっ!!」

そう言って車体をバンッ!と叩いた室田。


「し、、、しかし1ヶ月以上戻らないとなると、駐車料金が、、、」


「フフフ、、、どうやらミミックとなっても性格は変わらんらしいのぅ、この状況でそんな事を気にするとは、生真面目なお前さんらしいわいっ!しかしじゃ、どうせ車はお前さんの物では無く、大使館所有なんじゃろ?

なら請求はそちらに行くじゃろうて、もうお前さんには関係無かろう?

それとも何か?今後もまだお主はDの配下となった大使館所属のつもりかぇ?」

室田が試すような視線でヤコブを射抜く。


「、、、そうだな、、、貴方の言う通りだ、、、よしっ!急ごうっ!!」

ヤコブが決断するや否や、皆が車へと乗り込んだ。


「先ずは垂水方面へ向かい、明石海峡大橋を渡って四国を目指すぞいっ!垂水まで高速は使うなよ、渋滞や万一の時に逃げ場が無いでの」


頷いたニコライがアクセルを踏み込むと、派手な摩擦音を響かせながら車輪が回転する。

勢いよく発車した車体は自動精算機のバーを粉砕し、その勢いのままで駐車場を飛び出した。


人工島ポートアイランドから、神戸大橋を渡り一般道へと向かう。

「さてヤコブよ、ミミックの事を話して貰おうかの、、、お前さんは不死身では無い、そう言うておったが、、、どういう事じゃ?」


皆の視線がヤコブへと集まる。

そして意を決した様にヤコブが口を開いた。


「ミミックは体内に幾つもの(コア)を持っているんだ。それは1度体内に作ってしまえば、ほぼ無限に増殖する。

そしてそのコアを消費する事で、瞬時に肉体の損傷を回復するのだが、このコアって奴は人間を取り込む事で初めて体内に生成されるんだ。つまり未だ人を取り込んだ事の無い俺にはコアは無い、、、だから不死身じゃ無いって事さ」


「フム、、、なるほどのぅ、、、そいつは厄介じゃな。

ミミックになったとしても、人を喰わん事には不死身にはなれん、、、そういう事か。

お前さんの性格じゃあ人を取り込む事は出来そうに無いし、なかなかのジレンマじゃろうな」

室田の言葉に自嘲気味に笑って応えるヤコブ。


「じゃあさ、病院に忍び込んで安置所の死体を取り込んだら?」

そう問う楓にヤコブが首を振る。


「例の世界同時多発人体損壊事件、あれで頭部や胴体が発見されなかったのは何故だと思う?それは生きた人間を取り込まなきゃ意味が無いからなんだ。生きた人間を取り込む事で、その者の能力や容姿を己の物と出来るし、コアも生成出来る。

生きてさえいれば、手足は失っていても構わない、、、だから派手に話題作りする為のパフォーマンスとして、肉体の一部をわざと現場に食べ残した、、、そんな所だろうな」


つまり今のヤコブは、生きた人間を取り込みミミックとして悠久の時を生きるか、それをせずに死ねるミミックとして一時の生を人間らしく過ごすか、、、その分岐点に立たされている。

どちらにせよ既に人間では無く、辛い道に変わりは無い、、、

その残酷な選択を迫られているヤコブに対し、皆は沈黙という反応しか見せる事が出来なかった。


しかしヤコブにはその言葉にすらならぬ同情も痛みでしか無い。それ故に車内の空気を変えたかったのだろう、、わざとらしい程に明るく話し始めた。


「おいおいっ!皆が気に病む事じゃないだろう!それにほら、性格や容姿が変わった訳じゃ無いし、俺が俺である事に変わりはないさ」


「そうよね!貴方は貴方ヤコブのままねっ!」


「そうじゃな、先の駐車場での料金の事といい、お主がお主のままなのは間違い無さそうじゃ、、、」


「ありがとう、、、楓、ムロティー」


ここで有働が新たな疑問を口にする。

「んじゃあさ、ミミックを取り込んだらどうなんの?」


「ソウだな・ソレならバ・つミ・ノ・イシき・も・ナク・コア・を・とりコメル」


しかしヤコブはまたも首を振って答える。

「ミミック同士の取り込みは、一方通行なんだ、、、」


「一方通行?」


「ああ、それを説明するにはミミックの生態を知って貰わねばならないんだが、、、、少し長くなるぞ?」


「構わねぇよ。どの道、全部知らなくちゃなんねぇんだしな」


「わかった、、、なら話そう。

ミミックは人を取り込むと、その人間の情報を4つに分けて体内に保存する。

容姿・運動能力・頭脳や記憶・そして性格だ。更には取り込んだ人間のそれらを、自由に組み合わせる事も可能だ。

例えば、大学教授と陸上選手とスモウレスラーを取り込んだとしよう。

そしたら高い知能を持ち、スモウレスラーの体型ながら100mを9秒台で走る、、、組み合わせ次第でそんな人物にもなれるって訳だ」


「と、、、とんでもねぇな。んで取り込める人数には勿論際限ねぇんだろ?優れた能力を己の中で無限に蓄積出来るって事か、、、」

半ば呆れて両手を拡げる有働。

そこへ室田が何やら納得した口振りで話し始めた。


「なるほどっ!そういう訳じゃったかっ!!

いや、過去にDがどの姿になっていても、口調や性格が同じである事に疑問を感じておってのぅ、、、これで合点がいったわぃ。

つまり奴は容姿は変えようとも、人格を変える事はせなんだ、、、かなり自己愛の強いプライド高きナルシストと見える」


「確かに私もそこには疑問を感じてたわ。そういう事だったのね、、、で、一方通行ってのは?」

楓が小刻みに頷いた後、本題に戻そうとヤコブへ話を振る。


「あぁ、、、そしてミミックは1度取り込んだ者を、自由に切り離す事も出来る。そうやって同族を殖やしている訳だ。

しかしミミックは自分より先にミミックとなった者を、つまり上位のミミックを取り込む事は出来ない、、、

Dを頂点に下へと枝分かれしていったミミックのピラミッド、上の者は下の者を自由に取り込めるが、下の者は更に下の者を作らない限りはミミックを取り込む事は出来ないって事さ」


すると有働が、額に手を当てながら天を仰いで叫んだ。

「かぁ~~っ!よく出来てやがんなぁ、、、まるでネズミ講みてぇだなオイッ!」


するとここで室田がある事に気付く。

「ん?、、、ミミックは取り込んだ者を4つに分けて保存すると言うたな?そして自由に切り離す事も出来る、、、と。

では切り離してしもうた者の情報はどうなる?お主を取り込んだ、、、えぇと、マシューとか言うたかの?、、、そやつの中にお主の情報は残っておらんのかぇ?」


室田の問いにヤコブが俯き、皆が彼の返答に注目する。

重苦しい沈黙が車内に満ち、それに耐えきれなくなったヤコブが、息継ぎするかの様に顔を上げこう告げた。


「マシューの中には、、、もう一人俺が居る、、、」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ