表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
48/177

ボン・ボヤージュ

喧騒と混乱の極みを見せるロビー内に、乾いた破裂音が響いた、、、銃声である。

そこに居た全ての者が動きを止め、ロビーは一瞬にして静寂に包まれた。


「お~っと、そこまでだ諸君」

先の銃声を放った男が皆にそう告げた。

右手に握られた銃は未だ天井に向けられ、その口から硝煙を吐いている。

見るといつの間に入って来たのか、その男を含め10数名の男達が正面玄関付近に並んでいた。


全員が黒いスーツ姿に黒いサングラス、、、

絵に描いた様な悪者集団、そんな出で立ちである。そして全員が銃を手にしていた。

先程、銃声を響かせたリーダーらしき男が、1歩前に出て嘆くような仕草で静かに告げる。


「いかんなぁ、、、実にいかん、、、

やはり何事もルールは大切にしなければなぁ、、、ゲームの開始は10時、あの方はそう告げたはずだが?たかだかあと5、、、」

まだ男が話している最中だというのに、乱闘に参加していた男の1人が、果敢にも尖った声で問い詰めにかかった。


「ああん?んだテメェは?こちとら命がかかってんだ!ルールなんざぁ、、、」

しかし再び響いた破裂音により、その男が全てを話し終える事は無かった、、、


額から血を垂れ流しボロクズの様に横たわった男、それを冷やかに見下ろしながらリーダーの男が言う。

「人の話は最後までちゃんと聞く、、、そう学校で習わなかったのかな?、、、まぁ私も人の事は言えんが」


既に息絶えた男の亡骸に腰を下ろし、椅子代わりにすると男は再び話し始めた。

「話しを続けよう、、、ゲーム開始までたかだかあと5分だ。あと5分経てば我々は一切介入しない。その老人を煮るなり焼くなり好きにすればいい、、、しかしそのルールすら守れないと言うのなら、この男と同じ道を辿る事になるが、、、君達はどちらを選ぶね?」


ゾッとする笑顔を向けられ、場の者達が凍りつく。勿論、異を唱える者など1人も居なかった。

無言の返答に納得したのか、男は満足そうに頷くと立ち上がり、今度は室田の方へと目を向ける。


「さて、、、室田教授、これで邪魔者は居ない。どうぞ堂々と出て行かれよ」


ニコライにおぶられたままの室田と、その一行が男の正面に立つ。いつしか楓もステルスを解きそこに加わっていた。


「ヌシらが何者かは知らんが、Dの手の者なのは判る、、、礼は言わんぞぃ」


「勿論ですとも。これが我々の仕事なんでね。申し遅れましたが、我々はD様にお仕えする監視部隊、ヤーマの者です。私はこのエリアを任された嶋田と言います、以後お見知りおきを」


「監視部隊じゃと?」


「ええ。ヤーマは世界中に散らばり、今回のゲームの対象者であるB・Cにランクされた者達を見張っている。」


「見張る?そやつらがワシに何をしようと関与しない、Dはそう言っておった。監視の必要など無かろう?」


「確かにゲーム期間中、貴殿に対しての行為やX・Yグループの抗争等には関与しません。しかし中には保身の為にどこかへ逃亡潜伏したり、整形や身分証の偽造を目論む輩も居るでしょうからね、そういった連中を見つけ出し掃除するのが我々の仕事。更にはゲームのエンディングでXもしくはYグループの者達を排除するのも我々の役目、、、」


これに有働が反応した。

「なるほどね、ヤーマって部隊名は云い得て妙だな」


「ヤーマって何?」

楓が有働に問う。


「ヤーマ、、、日本での呼び名はエンマ。つまり閻魔様の事さ。こう言えばさっき俺が言った意味が解るだろ?」


「なるほど、、、人々を分別する裁定者を気取ってるって訳ね」

勝ち気な楓らしく、腕を組み露骨に不服な視線を嶋田へとぶつけている。


「おやおや、口の悪いお嬢さんだ、、、しかしこんな無駄話をしていて宜しいのかな?もうあと1分で10時ですよ?室田教授」


言われて室田が周囲に目を向けると、先程止められたXグループの者達が、出走前の馬の如くその時を待ち構えていた。


「こりゃいかんっ!皆、急ぐぞぃっ!!」

言った後で室田は、思い出した様に嶋田へとこう付け足した。

「それと、1つ言っておくっ!ワシはもう教授などでは無いっ!!」


「これは失礼を、、、覚えておきましょう。おっと、残り30秒、、、お急ぎになられては?」


それを受け、慌てて外へと出た一行。

すると突然ニコライがおぶっていた室田を下ろし、右腕で有働と室田を、左腕でヤコブをそれぞれ抱え込んだ。

巨体で怪力のニコライならではである。


「しっカリ・つかマッテいろっ!」

そう言ったニコライの機械化された脚部が変型し、踵と爪先に内蔵されていた小型の車輪が現れた。

踵を挟み込む様に2輪と爪先部に1輪。

それらが急回転し、地面に火花を散らした。

所謂(いわゆる)ローラーダッシュである。


スナイパーで後方支援タイプのマシンナーズであるニコライ。

敵に居場所を特定されたり、接近を許しては致命的となる。その為、狙撃後速やかに離脱出来る様にと備わった性能である。

この性能の為に脚部が巨大化されており、ニコライが「サスカッチ」というコードネームで呼ばれる所以でもある。


ニコライが走り出して直ぐ、狼狽えた様に有働が叫んだ。

「ちょ、、、おいっ待てよ兄弟っ!楓ちゃんを置いてく気かっ!?」


「ウシろ・ヲ・みてミロっ!」


言われて振り返った有働。

するとそこには自力で走りながらも、遜色無いスピードでついて来る楓の姿があった。


「、、、、」

言葉を失う有働に室田が言う。

「楓は人工筋肉で強化されとるでな。100mを5秒フラットで走れる、、、心配はいらん」


「ほぇ~、、、まさにじゃじゃ馬だな、、、」

半ば呆れた様に言う有働に、苦笑する室田とヤコブ。

「あまリ・しゃベルな・した・カムぞっ!!」

そう言うとニコライは、更に加速して駐車場を目指した。


アスファルトの焦げる匂いを嗅ぎながら、一行を見送った嶋田。

見る間に小さくなっていくその背に向け、微笑みながら呟いた。


「ボン・ボヤージュ」(良い旅を)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ