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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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脱出 2

何やら合点がいったらしく、四国へ向かうという室田の言葉にニコライが小さく数回頷いた。

しかし理由が理解出来ない有働は眉をひそめて問い返す。


「四国?おいおい、、、まさか船でロシアを目指すなんて言わねえだろうな、、、」


勘弁してくれとばかり、溜め息混じりに肩を竦める。暫し踊り場に留まっているお陰で、乱れていた息は既に整っていた。

そこへいつの間に合流したのか、姿は見えないまま楓の声だけが響く。


「四国、厳密には四国沖だけど、、、そこには私達の所属するPMC(民間軍事会社)スケアクロウのアジア基地があるの」


「声はすれども姿は見えず、まるで貴女は屁のようで、、、」

一句謳った有働の頭を、軽く(はた)いてから姿を見せた楓。

その足元では有働が頭を抱えて踞っている。


固まった笑顔で、引き気味にそれを見下ろしたヤコブがそっと口を開いた。

「スケアクロウ、、、案山子(かかし)、つまりは戦場を見張る番人って訳か。なかなか良い名だな」


「フンッ!何が良い名なもんかっ!!

すけあくろ~等と気取った名前にしおって、、、かかし軍とか、かかし警備保障で充分じゃわいっ!!」

声を荒げて不満をぶちまける室田が、真顔で更に続ける。

「あ、、、そういやぁワシが経営者じゃった、、、社名、変えるかのぅ、、、」


「、、、、、」

楓が無言で冷たい視線を浴びせる。


「、、、、、」

ニコライも無言で冷たいスコープを浴びせたかったが、室田を自分が背負っているのでそれは諦めた。

ここでようやく、先のダメージから回復した有働が会話に加わった。


「四国沖って言ってたけどよ、いつそんな物が出来たんだ?そんな所に基地なんざ作るとなりゃあ大掛かりな工事が必要だろ?でもそんな話は聞いた事ねぇぞ、、、

それに日本から許可が下りるか?普通、、、」


言いながら楓に叩かれた頭を未だにさすっている。

それを見ながらも、何一つ罪の意識は湧いていないらしい楓、普段と同じ口調で淡々と質問に質問を返した。


「流石っち、メガフロートって知ってる?」


「メガフロート、、、なるほどな、そういう事かっ!」

何やら納得したらしく、指を鳴らした有働。


「やっぱ知ってたみたいね。ならば話は早いわ。スケアクロウは世界中あちこちに基地があるけど、その多くはメガフロートを利用してるの。その海域を使わせてもらう条件として、何か災害とかが起こった時、その海域の保有国に無償で協力する事と、基地の一部を避難場所として提供する事を約束して、、、ね」




メガフロートとは、超大型浮体式海洋構造物。

簡単に言うなれば、埋め立てずに造られた巨大な人工島である。

ブロックを組み合わせて、水面に浮かべてあると言えば解り易いだろうか。

増築や解体も比較的容易であり、自走こそ出来ないが、推進式フローティングドッグを数ヶ所に設置する事で、向きを変える程度の移動は可能となっている。

この為、海上でも潮流や風向きの影響を受けにくく、ヘリや航空機の発着陸も可能である。



「しかし、なんでまた?ここから神戸空港は目と鼻の先だぜ、、、あそこならロシアへの直行便もあるってのに、、、」


「お前さんにしては勘の鈍い事じゃな有働。

こんな状況じゃ、出来る限り一般の交通網は利用せん方が無難じゃろうよ?万が一、飛行機に爆弾なんぞ仕掛けられてみぃ、どれだけの一般人が巻き添えを喰らうか、、、

出来るだけリスクの低いルートを選ばんとな。それに基地でならば、今後の事を安心して話し合えるじゃろうて」


(本当にそうだろうか、、、?)

有働はそう思ったが、それは口には出さずに話題を変えた。

「じゃあさ、楓ちゃんがステルスで車を取りに行って、ホテル前まで来てくれたら良いじゃん。そしたら駐車場まで行く手間とリスクが、、、」


「無理よっ!!」

有働の言葉を遮り、食い気味に楓が言葉を吐いた。

それを受けてキョトンとする有働に、更なる追い打ちをかける楓。


「だって私、、、車の運転出来ないもんっ!」


「、、、、、え?えぇ~~っ!?」

言葉の意味を理解するのに2秒程使い、思考を後追いするようにリアクションを取る有働。


これにはヤコブも驚いたらしく

「えっと、、、そんな傭兵も居るんだな、、、ハハハ、、、」

と何とも言えない顔をしている。

ここで腕時計に目をやった室田。

時刻は9時41分、正式なゲーム開始時刻まであと僅かとなっている。


「むぅ、、、くっちゃべっとる暇は無さそうじゃ。とにかく下を目指すぞぃ!

楓、先と同じくステルス・モードで先行してくれぃ」


「OKっ!」

スイッチに触れ周囲に溶けた楓。

姿だけで無く、足音と気配までも消して階下に向けて先行する。

そして特にトラブルや戦闘も無く、無事にホテル1階へと辿り着いた。


「フィ~、、、相手が一般人で銃器は持っておらぬであろう事は救いじゃが、、、はてさて問題はどうやってロビーを抜けるか、、、じゃな」

時間は9時50分。

ロビーには多くの人間がおり、その全てが自分達を狙う敵に見えてくる、、、


どの人間がXグループでYグループか、そんな事は見ただけでは区別がつかない。

そういった意味では(まばた)きをしないミミックの方が、判別出来る分いくらか楽な相手と言えるかも知れない。


現在地からホテルの正面玄関までは約150m。

楓も事に備えて、姿を消したままこのロビーに待機しているはずである。

ならば下手な小細工はせずに正面突破が得策、、、室田がそんな事を思ったその時である。


「チェックアウトでございますか?室田様」

歪な笑顔を浮かべた男が声を掛けて来た。

するとそれを合図に、ロビーに居た20人程の人間が正面玄関前に壁となって立ち塞がった。


「チィッ!面倒な連中じゃて、、、」

未だニコライに背負われたままの室田が愚痴る。

武装していないであろうが人数が多い。

強引に突破するにせよ時間が掛かる、、、

Dは言っていた。

Cランクには全て収監している犯罪者をあてると、、、それならば未だやりやすい。

しかし、先に仕掛けて来た2人が本当にホテルの従業員だった事を加味すると、ここに居る連中もBランクXグループの者という事だろう。

つまりは完全な一般人、、、危害を加えたくは無い。


かといってゆっくりしてられないのも事実である。

Cにランク付けされた凶悪な連中も、ゲーム開始と共に世に放たれるのだ。

そうなる前になんとか切り抜けねば、、、


すると今度はYグループの者らしき20人程の男女が現れた。

「オイッ!お前らっ!!ゲームは10時開始やろがっ!先走って汚い真似すんなやっ!!」


リーダーらしき男が怒鳴り声を上げると共に、Yグループの者がXグループの者に襲い掛かるっ!

その光景は見事にDの思惑通りで、人間vs人間の哀しい構図を描いていた。

もはやロビー内は収拾のつかない状態であり、時刻は9時53分となっている。


勿論この混乱に紛れて脱け出す事は可能かも知れない。

しかしその行為は、人として何かが違う気がしてどこか躊躇われる、、、


「おい爺さんっ!!安いヒューマニズムは無しだっ!突破すんなら今だぜっ!?」

心情を見透かしたかの様に有働が叫び、ヤコブもそれに同意を示して頷いている。

そしてニコライが決断を促した。

「ドウする?ムロてぃー、、、」


苦虫を噛んだ室田が絞り出すように告げる

「~~っ、、、任せるっ!ただし、一般人への攻撃は無しじゃ、、、」

室田が言い終えたその時である。

ロビー内に新たな勢力が現れたのは、、、

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