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MIMIC(ミミック)  作者: 福島崇史
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脱出

「まったく、先が思いやられるわいっ!!」

ニコライの背で上下左右に揺られながら室田がぼやいた。

「シャベるな!シタ・ヲ・かむ・ゾッ!!」

派手に靴音を響かせて面々が階段を駆け下りて行く。


「な、なぁ兄弟、、ハァハァ、、、お、俺も背負ってくんない?、、、ハァハァ」


「おマエ・は・イッソ・シタ・ヲ・かめッ!」


「ク~ッ、、、ハァハァ、相変わらずツレない事で、、、ハァハァ、、、」

息を弾ませる有働。

先までは手荷物のキャリーを前に抱えて走っていたが、途中から煩わしくなったのだろう、普通に歩く時と同じく後方に引いているせいで、段差を降りる度に賑やかな音を奏でている。


「ア、アンタが、ハァハァ、ドラムの演奏が上手いのは解った、、ハァハァ、だが今は派手なその音、、、ハァハァ、どうにかならないか?ハァハァ」

ヤコブが皮肉めいたジョークを飛ばす。


「バ~ロ~ッ!!ハァハァ、、そう言うならお前が、ハァハァ、こいつを持ってくれってんだっ!!ハァハァ、、、」


(カン、カン、カンッ!)

皆の足音がフロアに響く。

(ガンッゴンッ!ガガッ!)

有働のキャリーも、、、、


そもそも26階のスイートルームに居たはずの一行が、エレベーターも使わず階段を駆け降りてるのは何故なのか?

その経緯とはこうである、、、

先程捕らえた2人のボーイ、楓がロープで拘束し、室田がいくつかの質問をしていた。

その結果、2人はミミックでは無く、本当にこのホテルの従業員である事が判った。


2人共にXグループに分けられており、ゲーム開始時刻まで待ちきれずに先走ったという訳だ。

そんな2人、尋問されながらも時折チラチラと部屋の時計へと視線を送っていた。

それに気付いた有働が言う。


「おい、爺さん、そいつらやたら時間を気にしてんぜ、、、何かあんじゃねぇか?」


言われて室田が2人を問い詰めるが、ニヤニヤ嗤うだけで何も答えない。

それを見て焦れた有働、すかさずニコライへと声を掛けた。


「兄弟、こいつらをバスルームに運んでくれ」


「キョウだい・では・ナイが、、、リョウかい・ダ、、、」

兄弟という単語をやんわりと否定しながらも、2人を肩に担いだニコライ。

バスタブ前に2人を降ろすと、有働へと目をやった。その視線を受けた有働は、両手に持ったバスタオルを軽く振って見せた。


「アレ・を・やるツモり・カ?」

不敵に嗤う事でニコライの問いに応えた有働。

それを室田が慌てて咎める。


「お、おいっ!こやつらは一般人じゃ、殺しちゃ、、、」


「殺しゃしねぇし、怪我もさせねぇよ。

でもよ爺さん、、、前も言ったが、俺達の命を狙って来た時点で、そいつはパンピーじゃねぇよ、、、手心を加えてっとその内痛い目を見るぜ」

押し黙った室田に改めて有働が説明する。


「こいつはウォーターボーディングつってな、何処のご家庭にでもある物でお手軽に出来る、世界最強、、いや最凶の拷問だぁ。

どんな屈強な兵士でも、どんな一流のエージェントでも、こいつに耐える事は出来ねえ、、、100%ゲロってくれる」


説明しながらもテキパキと準備にかかる有働。

2人の顔を包む様な形でバスタオルを被せた。

「これでよしっ!」


そう言った有働の周囲では、室田を除く皆が憐れむ様な目を2人に向けている。

どうやら室田以外は皆がこの拷問の事を知っているらしい。


「さて、お2人さん、、、なんであんなに時間を気にしてたんだい?正直に言った方がいいと思うけどなぁ、、、」


耳に手を当てる仕草でおどけて答えを待つ有働。しかし返って来たのは沈黙という答えだった。


「あ、、、そっ、、、あ~ぁ、、、俺、親切に忠告したのになぁ、、、そっかそっか、ならしょうがないね。これでも喰らいなさい」

芝居がかった口調の有働がシャワーヘッドを2人に向ける。そして最大出力で放水を始めた。

水分を含んだタオルが直ぐ様2人の顔に貼り付いた。

それは呼吸を奪うのみならず、凄まじい勢いで鼻と口へと水を送り込む。


「!!!!!!!!!ッ」

激しく身体を揺らしながら、声にならぬ呻きを上げる2人。

後ろ手に縛られている為、タオルを取る事が出来ず、必死にタオルを振り落とそうと首を振っている。しかし顔に貼り付いたタオルがそう簡単に外れる訳も無く、、、

その尋常じゃ無い苦しみ様に、室田は明確な狼狽を見せた。


「な、、、何事じゃい、、、?」

有働はそれには答えず、黙ったままで2人の顔からタオルを除ける。

すると先まで沈黙の中で苦しみにのたうっていた2人が、大声で噎せて派手に咳き込み始めた。

死にそうな勢いで一頻(ひとしき)り苦しんだ後、未だ顔面蒼白で息を荒げている。


「ブハァ~、、ブハァ~、、」


「どうだった、、地上で溺れた気分は?

ちったぁ素直になれたんじゃねぇか?」


声を掛けた有働を2人が憎々しげに()めつけると

「あぁ、そんな目で見るんだ?、、、そっか、、、うん、もう1セット行っとくか、、」

そう言いながら再びタオルを手に取った有働。

すると先の目付きが嘘の様に弱々しくなった2人、すがるような目で懇願を始める。


「い、言うっ!今言うっ!直ぐ言うっ!!」


「な、何でも言う!だから、そ、それだけは、、、もう勘弁してくれぇ~っ!」


「そうそう♪人間素直が一番だぜっ!」


そんなやり取りの末、聞き出した話によると、他にもXグループの者達が多数おり、その中の何人かは10時になると同時に襲撃してくる計画だと言う、、、

それを聞いた室田が時計に目をやると、既に9時半を回っている。


「ぬうっ、、、時間が無いわぃ。お主との話も途中じゃったな、、、訊きたい事は山ほどあるっちゅうのに、いかんせんゆっくりしとる暇が無い、、、ええい、やむを得ん!とりあえず同行せい!お主の話は道中で追々聞くとするわっ!」


「ありがとうムロティー、感謝する!」


室田とヤコブのこの会話を合図に、皆が荷物を抱え部屋を飛び出した。

エレベーターホールに着くと、横並びに3基あるエレベーターの内2基は、1階と30階に止まったままで、真ん中の1基しか動いていなかった。

この真ん中の1基というのが曲者である。

3基の内、この真ん中のエレベーターのみが、ガラス張りとなっていて外から丸見えなのだ。


そんな1基だけが稼働しているというのは明らかに不自然であり、室田を狙う連中の罠と見るのが無難だろうとの判断を下した一行は、階段で1階を目指す事を選んだという訳だ。


「か、階段!?どんだけワシの老体に鞭打ちゃあ気が済むんじゃい?」

愚痴る室田の前にニコライが屈む。


「オレが・せオウ」

先まで背負っていた荷物は前に抱え、背中を室田の為に空けている。躊躇いながらもそこへ身を預けた室田、少しバツが悪そうにこう呟いた。

「すまん、、、の」


「キニ・するナ、、、」

ニコライが答えた所で、ステルス・モードとなった楓が先行し、安全を確保しながら進んでいる。そして今、ようやく10階の踊り場まで降りて来た所である。


「コレから・どうスル?」


「先ずはホテルから脱出、そして無事に車へと辿り着かんと、、、な」

珍しい事だが、ポートピアホテルに駐車場は無く、近隣の市営駐車場を契約駐車場としている。その為、一刻も早くホテルを出てその駐車場へ向かわねば、、、

そう室田は言っているのだ。


「車に辿り着いて、、、それからどうする?神戸空港へ向かってそのままロシア、、、か?」


有働の言葉に小さく首を振った室田。

首の動きを止めると、ボソリと一言だけ呟いた。

「四国へ向かう」



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